ああ、毛虫の朝は忙しい。
「おにぃちゃーん?なんの音ー?」
爽やかな朝。可愛い妹がトントン階段を下りてくる。
「いるのー?」
いぶかる声。
そして、リビングの扉がガチャッと開けられ…
「なーんだ、いないのぉ」
つまらなそうに言って、妹は自分の部屋に戻っていった。
………セーーーーーーフ!!!
あ、危なかった…!!あやうく毛虫姿を見られるとこだった!!!
おれは被っていた服の山をのけてフローリングに這い出る。
途中、男物のトランクスと思しきものが何枚か落ちたが気にするまい
「いつもは汚いと思ってる親父の習性が、こんなところで役に立つとは…」
人間、何が起こるかわからないものだ。今は毛虫だけど。
ーーあの時、妹が近づいてくる音を聞いて焦るおれの目に、リビングの端に寄せられて黒ずむ服の山が止まった。人間並みの大きさがある毛虫を隠せる、唯一の場所。
単身赴任で家にほぼいない親父のものなのだが…
「何が嫌って、洗わずに4カ月も放置してるのがなーー…」
臭い。正直言ってほんと臭い。
少し前、これはいかんと 片付けようとしたら、おかんに邪魔されたので放っておいたのだが…
「『私はパパホルモンがないと生きてけないのっ!!』…って子供かよ」
…まあわかるけど。おれも妹ホルモンがないとやってけないしね?!
「それより、早くあさひに見つからないとこに移動しないと」
今日は平日。妹も学校があるし、すぐ戻って来るはずだ。
「やっぱ庭かな?」
うちの庭は植木に囲まれてて、外から見えにくいからね。
なかなかいい隠れ場所だとおもう。
「その前にお弁当用意しないと」
見たらわかる通り時間はないが、妹を飢えさせるなんて犯罪だからな。
おれは上機嫌で鼻歌?そもそも鼻はあるのか?を歌いながら、買い置きの袋の前に仁王立ちする。
「のりたま…干し茸…乾燥わかめ…鮭ふりかけ…ご◯んですよー…わかめふりかけ…」
ろくなもんねーじゃん。
てか、ご飯にかける系多すぎじゃね?お弁当には入れれないものしかない。
「…なんもねえ。昨日外食だったせいで作り置きすらねえ」
やばい、このままでは妹が困ってしまう!!
「あっ、まだなんかあった」
おれが袋からつまみ出したのは…
「これは…さすがに…」
パウチされたパッケージに見入りながら呟く。
さすがに、お弁当に入れるものではないような…
「いやでもしかし!妹が飢えてしまうのにくらべれば…!!」
お兄ちゃんが時間なかったってことぐらいわかってくれるだろ、あの優しい妹なら。
「よし…っ!」
大丈夫と信じよう。
ゴロンゴロンとお弁当箱に中身を詰める。急いで机の上に置いた。
「あとは庭に退避するだけールンルン」
クライシスを避けれて機嫌のよくなったおれはそのまま庭へ。
ガラス戸を苦労して閉め、ささっと木の陰に隠れた。
「んあーーっ!ねむっ」
ほぼ同時にリビングから妹のこえが聞こえてくる。どうやら危機一髪だったようだ。
「あーーねむすぎやばい」
…ん?…なんだか、声の調子がいつもと違うような…
まあ低い声も可愛いからよしとしよう。
そんなことを思っていると、急に窓が開けられた。
…?!バレた?!
妹が…なんだか…