奴隷商人、貴族に対面する
「お前が奴隷商の息子か。何でもあの男は死んだらしいな」
「はい、伯爵様。アゼル·フォーセンの息子のクラウス·フォーセンと申します。今日はお時間を作っていただき誠に感謝いたします」
何とか練習通りに形式的で無難な挨拶を返す。
「ふむ、あまり似ておらんな。それで今日は何の用で来た?」
伯爵は私に興味がないらしく反応は薄い。
「はい、父は生前からよく伯爵様への感謝の言葉を口にしていました。伯爵様が奴隷を買ってくださるから私たちはこうして生活出来ているのだ、伯爵様への感謝を忘れぬようにとよく聞かされたものです」
実際には父はこんな事は言ってはいない。
これは私の考えた作り話に過ぎない。
「ははは、何ともあやつの言いそうな事だな。ふむ、それで」
「はい、私は父の後を継ぎました。ですがまだまだ未熟です。今ここで伯爵様に取引を打ち切られれば私はすぐに路頭に迷うでしょう。そこでどうかこれからも父の頃と変わらずに取引を続けては頂けないでしょうか?今日はそれをお願いに参りました」
何とか言い切った。
所々、台詞が飛んでしまったが多分失礼な言い回しはなかったと思う。
「ふむ、そうよな」
ウラース伯爵は髭の生えた顎に手を当て思案を始める。
私は邪魔をしないように伯爵の言葉を待った。
「ふーむ、どうしたものかな」
さっきより大きな声でウラース伯爵が呟く。
私ははっとなって慌てて口を開いた。
「どうか、伯爵様。お願いします!これからもお取引のほどをどうか!」
「ふーむ、そこまで言うなら仕方ない。奴隷商の息子よ。これからも取引をしてやろう。感謝せよ!」
ウラース伯爵は少し勿体ぶってからそう答えた。
「伯爵様、ありがとうございます」
私は出来る限り深々と頭を下げた。