奴隷の恐るべき駆け引き
お茶とドライフルーツを食べたハヤカは随分と落ち着きを取り戻した。
まだ、目は腫れてはいるがあれだけ泣けばそれは仕方ない。
「ハヤカ、良かったら君の話を聞きたいんだけど良いかな?」
ハヤカはこちらに視線を合わさずに小さく頷く。
「確かニホンだったかな、遠い国のようだけどどうやってエルバスまで来たんだい?」
エルバス王国、それが私の住む国の名前だ。
巨大大陸パーギャの西にあるエルバス大陸全てを支配する国である。
「······話してもあなたは信じない」
ハヤカの声は暗くて小さい。
「まずは話してみてくれないかな?そうでないと判断出来ないし」
ハヤカはただ無言で下を向いている。
「う~ん」
少しは打ち解けられたと思ったが、私はハヤカに全く信用されていなかったらしい。
話してすらくれないと言うのはつまり、彼女から話すだけ無駄と思われていると言う事だ。
どうすればハヤカが話してくれるだろう?
ふっと見るとテーブルの上に私のかじったドライフルーツが転がっているのが見えた。
その時、私の体を稲妻が走った。
そうだ!甘いお菓子で釣ろう!
子供は甘いお菓子が大好きだ。
甘いお菓子が嫌いな子供がいるだろうか?
そんな子供はいない!
父は交渉は一度相手の立場になって考えると上手くいくと言っていた。
私がもし話してくれたらお菓子をあげると言われたハヤカの立場だったらどうするだろうか?
私がハヤカだったら絶対に話す!
なぜなら、相手が話を信じるかどうかは関係ないからだ。
相手が信じようが信じまいが、話さなければ何も貰えず話せば甘いお菓子が貰える。
こんなの話さない方が損だ、子供でも分かる。
つまり、ハヤカでもこの結論にすぐに辿り着くと言う事だ。
これなら絶対に話してくれる!我ながら恐ろしいほどの完璧な作戦だ!
「ハヤカ!話してくれたら甘いお菓子をあげよう!だから君の話を聞かせて欲しい!」
「············」
ハヤカは黙っている。
恐らくどう話を切り出すか迷っているんだろう。
「···························」
しばらく待ってみたがハヤカは黙ったままだ。
え?もしかして話す気がない?
そんな馬鹿な!
この提案を蹴るなんてあり得ない。
まさか、ハヤカは甘いお菓子が嫌いなのか?
いや、そんなはずはない。
だって、ドライフルーツも結構嬉しそうに食べていたし女の子はいくら満腹でも甘いお菓子なら食べることが出来ると聞いたことがある。
そもそも、甘いお菓子が嫌いな子供なんてこの世に存在しないのだ。
では、この提案の良さに気付かなかったのか?
それもないと思う。
ハヤカはちょっと変な子だが会話の端々にどこか知性というか賢さのような物を感じるのだ。
ハヤカを初めて見た時にそれを感じたからこそ買ったのだ、これが勘違いだと色々困る。
話してくれない理由がこの二つでないとすると問題は深刻になる。
つまり、ハヤカは私に無言でこう言っているのだ。
甘いお菓子より良い物をよこせ!と。
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嬉しい。