奴隷商人、涙を止める
「えっ!ちょっ!」
あまりに突然の事にどうすれば良いか分からない。
まさか、こんな子供を大泣きさせるなんて私は何を言ってしまったんだ。
私が狼狽える間もハヤカの涙は止まらない。
ああ、どうして私は一人っ子なんだろう。
なぜ父は私に可愛い妹を残してくれなかったんだろうか?
もし、妹が居ればもう少し何か出来たかも知れないのに。
だが、現実には私には妹はもちろん彼女もいない。
そうだ、フォルクさんを呼ぼう!
フォルクさんには確かお子さんがいると聞いたことがある。
それなら、私よりもずっと頼りになるはずだ。
いや!駄目だ!
今、フォルクさんがこの状況を見たら何て思うだろうか?
そう、この。
密室 + 私 + 奴隷の少女 + 号泣 =?
な状況を!
あかん、これはあかん。
あまりの動揺に訛りが出てしまう。
私の父は元々セキニー地方出身で時々訛りが出る事があり、それを聞いていた私も時々訛りが出てしまうのだ。
いや、今はそんな事はどうでも良い。
とにかくハヤカを落ち着かせないと。
「あーえーと、ハヤカ?大丈夫かい?どこか痛いとか?」
ハヤカは首を激しく振る。
痛くて泣いてるのではないとすると。
「それじゃあ、私が恐いとか?」
ハヤカは再び首を振った。
私が恐がられていないのは良かったが、子供が痛いと恐い以外で泣く理由が分からない。
私は少し悩んでからそっとハヤカの頭を撫でた。
ハヤカは一瞬ビクッと体を強張らせたが手を払い除けようとはしなかった。
昔、母が泣いている私の頭を撫でてくれた気がする。
いや、もしかすると近所のおばさんだったかも知れない。
なにぶん随分昔の事なので記憶があやふやだ。
ハヤカの頭頂部から後頭部にかけて手を往復させる。
ハヤカの髪は洗っていないのかバシバシしていてお世辞にも良い感触とは言えなかった。
そのまま、ハヤカの頭を撫で続けると気が付けば嗚咽が止まっていた。
まだ俯いたままなので確認出来ないが涙も止まっている感じだ。
お母さん!もしくは近所のおばさん!
何とか泣き止ませる事が出来ました!ありがとうございます!
とりあえず、これで誰かに見られても変な誤解を受ける事はないだろう。
私は一息つくと喉が渇いている事に気付いた。
「ハヤカ、大丈夫かい?随分泣いていたし喉が渇いたんじゃないかな?」
ハヤカは俯いたままコクリと頷く。
「それじゃあ、私は何か飲み物を取ってくるよ。君はここで待っていなさい。すぐに戻るから」
私はハヤカの頭から手を離すと部屋を後にした。