01
よろしくお願いします
「今日は美味しいご飯よ!」と、母が言う。
それに感嘆する父、祖父。
昔から俺の祖母はいなかった。
何故かと聞いたら
『婆ちゃんは幸せだったのよ』と。
そんな、ありきたりな返答。
父も、母も祖父も、それに全く違和感がないと言うふうに。
だから幼かった俺は、おそらく祖母は幸せだったんだろうなぁと、なんの疑いもせずそれを享受していたのだ。
何年も昔に、それに気づくことがなければ今頃俺はまた日常に幸せを感じられた筈…だった。
☆
子供はやはり元気だ。
その元気は人を元気にさせる。
だがそんな子供たちの元気さでさえ俺の気持ちは晴れてゆくことはない。
「はぁ…」
口から漏れ出てゆくのは、明るい気持ち。
子供の頃は風船のようにパンパンに詰まっていた未来への希望も、今ではしぼんだ風船のようにほとんど胸につまっていない。
なるべく他人に注目されぬよう街を歩く。
公園では子供たちが笑顔で走り回り、大人たちはそれを傍観している。
ピュウッと、風が髪を揺らした。
その風のせいか、窓の割れた交番から紙がヒラヒラと宙を舞う。
俺はその紙を横目に、またため息を吐きながら行きつけの店へと向かう。
考えるだけで憂鬱になるそれから目を逸らし、飲み屋で今日は何飲もうかなぁなどと考え、店に足を向けるのだった。
「あれ?なんだろー?この紙?」
「ほんとだー、何それー?」
「わぁー!すっごい上手な絵ー!」
「下になんか書いてあるよ?」
「えっと、なんかよく分かんないなんかと数字が書いてある!」
「私知ってるよ!それえいご、って言うんだよ!」
「顔がさっきの男の人に似てるー!」
「ほんとだー!」
なんだろうねー、と子供たちは考える。
だがやがて興味が失せたのか、紙を手放しまた遊びに熱中するのだった。
誤字等ありましたら察して下さると幸いです