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花々繽紛タリ  作者: 天水しあ
巻の七「新生活」
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「再集結」

 琉樹が再び楽南に現れたのは、それからさらに一月の後、五月に入ってのことだった。

「言っとくけど、珪成が『どうしても』というから来ただけだ。珪成に会いに来ただけであって、おまえらなんか、どうでもいい」

 言葉通り、琉樹は苦々しい顔でそう吐き捨てると、ふんっと横を向いた。「師兄、子供じゃないんですから」珪成が小声でたしなめるが、琉樹は素知らぬ顔だ。

 久々の再会で嬉しいはずなのに、楓花はまともに琉樹が見られない。

 いまだに怒ってるのは姿が目に入った瞬間に分かったし、自分の格好が二月前よりずいぶんと粗末なもとに変わったせいもある。だけどたった二ヶ月で、なんだか焼けてるし、髪も伸びてるし、なんだか知らない人みたいで――なんだか、目が合わせられない。

「仕方ないでしょう、珪成はあなたより先には絶対、報酬を受け取らないと言うんですから」

「当然です、だって僕は『弟』なんですから!」

「だったらさっさと報酬を渡せば済むことじゃないか。一体何が楽しくて、四人揃って永寧旅行なんぞに行かなきゃなんだよ!」


 ここは楽水の船着き場である。


 日は天上より僅かに東。

 降りそそぐ陽光で、水面は爽やかに煌めいている。川沿いに等間隔に植えられた柳が、青々とした枝をたえず揺らしていた。辺りは荷を運び込む男衆やら、笈を負った僧形、小さな荷物を抱えた少女に付き従う大荷物の男女やら、とにかく多くの老若女でごったがえしている。

「珪成は以前、張家楼の料理に大層喜んでくれましたから、いつか京城みやこ随一と名高い開開楼に連れて行ってあげたいと思っていたんです。今回は珪成が大活躍してくれたので、ちょうどいい機会かと思いまして」

「実は僕、永寧に行ったことがないのですごく嬉しいです。京城一の繁華街、西市に行ってみたかったんですよね、みんなで!」

 珪成に目を輝かせてそう言われては、琉樹はもう黙るしかない。それでも悔し紛れ、とばかりに、

「お兄様に会わないといいな」

「東街には近寄らないから大丈夫ですよ」

 永寧は東西に二分された城市まちであり、東街には有金かねもちが集まる傾向にあった。杜家のある織政坊は、当然ながら東街にある。

「開開楼は西市だろ? バッタリ会ったりして」

「『下賤な庶民』が集まる西市なんぞを歩いてたら、指をさして哂ってやりますよ」

「――だとしてもいまさらかよ」

「さすがは天下の開開楼、ツテを使ってもなかなか予約がとれなくってね」

「うわあ楽しみだなあ。でも本当にいいんですか、医生。それでなくても今回の旅行代も全部もっていただいてるのに」

「ええ、こういう時こそ使わないとね」

「……これだから有金の公子おぼっちゃまは」

「何か言いましたか、琉樹?」

「――別に」

 言いながら目線を外した琉樹と目が合った。

「よく一週間も休ませてもらえたな。働き始めたばっかりで」

「うん、里帰りだからって志均さまが老板に話してくれて。夏の休みを前倒しでもらうことになったの」

 当然給料天引きだが――それは仕方ない。本来なら絶対に認められる話じゃないんだから。当分は甘いものは我慢だわ。

「へえ」

 そう言うと、琉樹は再び楓花の隣に立つ志均に目を向け、

「毎日通ってるんだって? いろんなのが出入りする店に置いておくのが心配なら、なんだって手放したりするんだか。どこのロクデナシに持っていかれても知らねえからな」

「ええ、そういうことですよ」

「なにを他人事みたいに」

「――あなたもね」

「あっ! 乗船準備できたみたいですよ。行きましょう楓花さん、お荷物お持ちします!」

「軽いから大丈夫」

「実は僕、船旅も初めてなんです。楓花さんはどうですか?」

「私も初めて」

「船って酔うって言いますよね。気をつけましょうね、永寧に着いたとたん寝込まないように」

 珪成が必死に話しかけてきてくれるので、どうにかそれにのりつつ――後ろの二人が気になって仕方ない。

 殴り合うはなさそうだけど、『絶交』したにしては仲良くしゃべってる気がするけど、こんなんで一週間、大丈夫かな……。


 かくして四人の旅が始まった。


 前王朝が一大事業として国中に張り巡らした大運河も含め、首都と副都を繋ぐ路は様々あるが、四人は最も所要時間の短い、船と車を使って片道三日の道程である。



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