9、はじまり
それは懐かしき記憶
それは悲しき過去
それは幸せな時間
それは壊れた日常
それは戻らない世界
だからこそ、その全てが前に進ませてくれる。そう信じて…
♢♢♢
「ルナ姉ー、今日はハンバーグがいいー」
まだ小学校低学年ほどの男の子は元気よく言った。キッチンで台に乗ってエプロンを着ている小学校中学年ほどの女の子は「うーん」と唸る。
男の子の名前はセツナ、七歳の長男である。そして唸っている少女の名はルナ、十歳の長女である。
ルナ自身は自分が養女であることを知っているが、そのことを知っているのはルナを引き取った両親しか知らない。
「セツナ、ハンバーグ一昨日も食べたよね?」
「うん!僕、ルナ姉の作るハンバーグ大好きなんだ!」
「よし作ろう」
ルナ姉…ルナはセツナの言葉を聞くと先ほどの悩んでいた顔が一瞬でさっぱりした表情になり即答する。
「ルナ姉大好きー!」
「ああもう!可愛いなぁ!」
これはいつもの光景だ。そのため、食卓には高確率でハンバーグが並ぶ。
「ルナお姉ちゃん…」
「ステラ、どうしたの?」
可愛らしい赤いリボンのついたヘアゴムでツインテールにまとめているセツナより少し年下そうな女の子はステラ、六歳の二女。
「クマさんが死ん…息をしなくなった」
ステラは「死んだ」と言いかけて息をしなくなったと言い直した。これはルナがせめてオブラートに包んでと頼んだ結果だ。
ちなみにクマさんとはぬいぐるみの事であり、死んだというのは綿が出たという意味だ。
「そっか…お姉ちゃんが後で直しておくから安心して!」
「…ありがと」
短く礼を言うとステラはいつもいる場所に戻ってまたぬいぐるみで遊んでいる。
「ルナちゃん、いつもすまないね」
そう言って二階の寝室から起きてきたのはミライだった。この時は目の下にクマは無く優しい母親であり、ルナに全ての家事を任せることに負い目を感じていた。
「あ、お義母さんは休んでて!昨日も寝てないんでしょ?」
「あぁ、ワタルの研究がそろそろ完成しそうでね」
「じゃあ寝てて大丈夫!家事はいつも通り完璧だから!」
「ふふっ、頼もしいね」
そう笑うと、ミライはルナの頭をポンポンっと撫でる。
「セツナ、今日はルナちゃんに言ってないだろうね?」
「え?今日のご飯はハンバーグだよ?」
セツナはミライの問いに「何言ってるの?」と言いたげな表情で答える。
「既に言われていたか…」
「ルナ姉のハンバーグ大好きだもん!」
「まぁ、私もルナちゃんのハンバーグは好きだからいいんだけどね」
ミライは優しく微笑みながらセツナの頭を撫でる。
「ステラはまたクマさん殺しちゃったのかい?」
「うん!振り回してたら死んだ!じゃなくて息しなくなった!」
「うんうん、それじゃあルナちゃんに生き返らせてもらおっか」
そんな会話をしてるとルナが作業を止めてやってくる。
「お義母さん、頼むからステラに物騒な言葉教えるのやめて…」
そう、ステラという六歳児の口から出たとは思えない物騒な単語を教えたのは両親なのだ。ルナは教育によくないと毎回注意するのだが、反省の色を見せてくれない。
「ハハハッ、ごめんごめん」
今回も反省の色は見れず、ルナは溜息を吐く。これがいつもの日常、しかしこの時は誰も予想すらしなかった。
この日常が突然壊れることなんて…
♢♢♢
「ついに!僕は異世界に繋がるゲートを見つけたぞ!フハハ!」
深夜の研究所、その男は自分の長年の研究が成就したと一人高笑いしていた。
「やった!やったぞ!」
「ワタル教授!大変です!これを見てください!」
ワタル教授と呼ばれた男は部屋に突然入ってきた部下に少し文句を言うも、渡された資料に目を通す。
「教授の研究していた異世界に正体不明のエネルギーがあることが分かったんです!」
「こ、これは…!異世界にはこんな得体のしれないものがあるのか…」
「教授、どうしましょう…これじゃあゲートを開けた瞬間このエネルギーが世界にありえない勢いで流れ込んで世界中がパニックに……」
「………」
ワタルは考えていた…ゲートを一刻も早く開けたいが、ゲートを開ければ世界がパニックになる。そのエネルギーとは異世界では魔力と呼ばれるものなのだが、この時のワタルには魔力をどうやって来るのを抑えるか考えていた。
そこでワタルは思い付いた…
「エネルギーが来るのを抑える必要はない…」
「と、言いますと?」
「流れ込むエネルギーをこちらの世界で封じればいいんだ…」
「ど、どうやって…?」
「このエネルギーは人間に害があるか分からない、だったら要らない人間の身体に全て流れ込むようにして状況を調べればいいじゃないか…ハハッ」
ワタルの言った言葉に部下は驚きを隠せなかった。害があるか調べるために人間を実験に使う…人体実験以外の何物でもなかった…
「教授!でもそれは!」
部下はもちろん否定をしようとした。それは人道に反する、そう言おうとしたのだが…
「ちょうど、不要な人間がいるんだよ…ハハッ、あんなのでも利用価値があるんだなぁ」
「な、何を言って…」
「ルナ…といううちで引き取った養子が居てね…」
そう、ワタルには子供が三人いる。ルナ、セツナ、ステラの三人だ。
「きょ、教授!」
「なんだね?」
「ルナちゃんのどこが不要だって言うんですか!この前研究所にお弁当持ってきた時ルナちゃんは…っ!」
部下は研究所にルナがお弁当を届けに来た時、いつも少しずつだが会話していたのだ。
その時はルナは決まって「お義父さんといつか本当の親子みたいにお話するのが夢なの!」と一回は言っていた。ルナ自身、勘がいいのでワタルが自分をよく思っていないのは知っていた。
それでも諦めずに毎回お弁当を届けるのだ。ワタルの奥さんのミライは家事が苦手なのでお弁当もルナ自身が作っていたことも部下たちは知っている。
しかしワタルはルナのお弁当の中身も見ずにいつも部下に「やる」とだけ言って研究に戻るのだ。それでも毎日お弁当を作るルナの健気な姿に部下たちは何も言えず、「美味しいって言ってたよ」と言ってお弁当箱を返すのだ。そういうととても嬉しそうに笑うので部下たちは更に罪悪感を受けるのだった。
「じゃあお前が代わりをするか?」
「そ、それは…」
「あのガキは僕の子供じゃない、しかし引き取ってやったんだ。つまり僕の所有物、どう使おうと勝手だろ?」
「しかし…」
「…君は面倒だな、少し眠っていてもらおう」
「え?どういう…」
ワタルは部下に薬品の含まれているであろうハンカチを口に押し付け眠らせる。
「さて、あのガキを連れてくるか…その前にミライには相談しておくか…」
♢♢♢
「ワタル…それは本気?」
「あぁ、本気だ」
それは子供はもう寝ている時間、三人兄妹はもう既に二階の寝室で寝ており一階のリビングで二人は話していた。
「ルナちゃんは私たちの家族よ…」
「いいや、違うね。あれは僕たちの子供じゃない」
「血は繋がっていないけれど、あの子は正真正銘私たちの娘よ!」
ミライはテーブルをバンッと叩き言う。その声には怒りが混じっていた。ワタルはその声に怒りが混じっていることを知っていて眉一つ動かさない。
「ルナちゃんが…死ぬかもしれないのよ…?」
「それがどうした」
「貴方はルナちゃんを何だと思ってるの!」
「うーん、前までは目障りなガキだと思っていたが、今は良い実験材料かな」
「………貴方には何を言っても無駄ね」
「そうだね、理解できたなら実験の邪魔はしないでほしい」
「………」
ワタルはここまで異常ではなかったのだ。今まで実験を繰り返し、何度も挫折し、そしてその全てを救うように完成しそうなのであった。そのためにはどんな手段でも使う、ワタルを歪めたのは研究を完成させなければという焦りだった。
「お義父さん、お義母さん…」
部屋の扉の前でそう呟くルナの声は二人には届かなかった。
♢♢♢
次の日、いつものようにルナはセツナと小学校へ向かう。普段は楽しく会話をして学校に向かうのだが、ルナの顔は暗い。
「ルナ姉…大丈夫?」
「…うん、大丈夫」
返事に元気がない事からセツナはいつものルナとは様子が違うことを察する。
「ルナ姉」
「どうしたの?セツ―――」
通学路でセツナはルナの頭に背伸びをした状態で優しく撫でる。セツナはいつも元気がないとルナにこうして慰めてもらうのだ。それをいつものお返しに、という意味で撫でた。
「僕はルナ姉の味方だから!」
そう元気よく言うと、ルナの瞳が潤む。そしてセツナを抱きしめる。
「ごめんね…ダメって分かってても言わなきゃ後悔すると思うから言わせて…大好きだよ、ずっとずっと大好きだからね」
「ルナ姉…?」
「お姉ちゃんね、これから遠いところに行くかもしれないの…」
ルナは泣いている顔をセツナに見られないように抱きしめて話す。
「お姉ちゃんがいなくなっても頑張って、元気に過ごすんだよ」
セツナはほとんどの意味は理解できていないが、ルナが遠くに行く、ということは理解できた。
「僕も一緒に…」
「ダメなの…それはね出来ないの」
ルナは涙で声がかすれないように頑張って言葉を紡ぐ。
「絶対にルナ姉を忘れない…絶対に…」
「ダメ、お姉ちゃんの事は忘れなさい」
「え…?」
「…色んなことを見て、感じて、生きて。その中で好きな子も出来ると思うの。だから、お姉ちゃんは忘れてセツナが幸せだって思える人生を過ごして…ね?」
「なんで…そんなこと言うの…?」
「私がセツナの幸せ邪魔しちゃ悪いでしょ?だって私は…」
その時、近くに黒い車が止まる。その車から一人の大男が降りてくる。そして真っ先にルナの下へ近付いてくる。
「え?あの、どちらさ―――」
その大男はルナの口に薬品を含ませたハンカチを吸わせ、眠らせる。
「このガキはどうしますか?」
男はセツナを見る。セツナは突然現れた大男に何も出来ず震えている。
「待て、ターゲット以外は手を出すな」
車に乗っていたもう一人の男がそう声をかける。
「へーい、にしてもこんな女の子を拉致らせるなんて依頼人はどんな奴だよ…」
「余計なことは考えるなどうせ―――」
その男は次の瞬間、セツナを絶望に落とすかのような言葉を放った。
「これから死ぬんだから」
「ハハッ、そうだな…ん?」
大男はセツナを見る。セツナは震えている足を殴りつけていた。
「…ガキ、何をしている」
「ルナ姉を…放せ。離さなければ殺す」
「ハッ、さっきまで震えてたガキが何を―――」
気が付けばセツナは震えていなかった。そしてその瞳には紛れもない殺意が芽生えていた。
「このガキ…恐怖を痛みで克服しやがった…」
「ルナ姉に、触れるな」
「お、おい!このガキ何かやべぇぞ!」
「この際、気絶させてもいい!さっさと行くぞ!」
そういうと、大男はハンカチを取り出す。
「覚えたぞ…」
「き、気味の悪いガキだ…さっさと…」
「お前らの車のナンバー、俺は暗記した」
「なっ!」
「ルナ姉を離せ、そうすれば忘れる」
「こ、殺すぞガキィ!」
大男はナイフを取り出す。普通の小学生なら泣き出すだろう。それが普通の反応だ。セツナには人にはない何かがあった。それがセツナを突き動かした。
「刺せばいい、この通学路に血を大量に撒いてやるさ」
「くそっ!」
「刺さないのか、じゃあ」
セツナは男のナイフで自ら腕を切った。血もでる、セツナは痛みに顔を歪める。
「このガキはやべぇ!さっさと逃げるぞ!」
「あ、あぁ」
「車のナンバー、絶対に忘れないからな」
そうして、男二人組は逃げる。セツナはその後、無事に保護され警察で車のナンバーを教えた。
男二人組は簡単に捕まったが、ルナはそこにおらず男二人組も金で依頼されたと言っていた。
♢♢♢
それから三年という月日が経った。セツナは十歳に、ステラは九歳に、そしてルナは行方不明のままである。
「ルナ姉…会いたいよ…」
セツナは一人、自室でガラス越しに外を眺めながら呟く。セツナはこの三年間、ルナを忘れたことは一日だってなかった。
来る日も来る日も、こう呟いては外を歩く。夜遅くまで歩き、警官に補導されると「姉を迎えにいくんです」と言っていた。警官はセツナのことを知っていたので、毎回家に送り届けられる。
セツナはその行為を毎日行っており、警官達の間ではセツナを送り届けるのが日課になっていた。
セツナは三年前からずっと歩いているため、何度か不良に絡まれたことがある。けれどセツナは「ルナ姉を連れて行ったのはお前か?」と濃厚な殺気を放ちながら質問すると怯えて逃げ出すのがほとんどだった。
小学校ではルナが消えた日から人が変わったセツナに近付く人はいなかった。中学生や高校生の間でもセツナは有名だった。
ルナと呟き毎晩歩く姿と、人を殺せるかもしれないほどの殺気から【月の死神】と呼ばれていた。
「セツナ」
「…父さん」
セツナの部屋に入ってきたのは、セツナの父、ワタルだった。ワタルは三年前に異世界に繋がるゲートを発見し、世界中から注目される存在だった。
「ルナに…会いたいかい?」
「あぁ、もちろん」
セツナは力なくそう答えた。そういうセツナにワタルは「じゃあ着いてこい」と言って背を向けて歩き出す。セツナは何も考えず、ワタルに着いていった。だからセツナは気付けなかった…ワタルがコッソリと不気味な笑みを浮かべていたことに…
♢♢♢
辿り着いたのはワタルの研究所だった。研究所に入り、すぐにある部屋に案内された。
「セツナ、行ってごらん」
「…うん」
自動ドアを進むと、そこには…巨大なクリスタルに飲み込まれているルナの姿があった。
見た目は三年前から一切成長していない。しかしクリスタルの中で眠ったように動かないルナは生きているかまるで分らない状況だった。
「ルナ…姉…?」
「三年前、異世界から来る魔力を全てルナの身体に流れ込むようにした。そしたら動かなくなってね、その時は調べたら生きてることは分かったが、先日こんな風にクリスタルに飲み込まれちゃってね。生きてるか分からないけど、魔力は流れ続けてるから生きてると思うよ」
ルナは三年前、異世界から地球に来るはずの魔力を全て流し込まれた。その日からルナの身体は成長をしなくなった。
その原因は勢いよく流れ込む魔力の量を身体の中で循環させるために全ての細胞が一時的に活動を停止したのだ。
魔力は本来、身体が吸収するものだ。しかしルナの場合は、身体に無理矢理詰め込まれているのだ。
そしてそんな状況が三年間続いたある日、身体がクリスタルに包まれたのだ。調べたが何も分からず、クリスタルはどんなことをしても傷一つ付くことはなかった。
「どう、して…ルナ姉がここに…」
「三年間にあの男たちを使ってルナを攫ったのは僕だからさ」
「っ!?」
セツナは後ろを振り返りワタルの顔を見る。ワタルの顔を見たセツナは怯えた。
「そういえばセツナ、最近良くない噂が流れてるなぁ…月の死神、だったかな?」
ワタルは綺麗好きだ、だから良く部屋の掃除をする。部屋の掃除が終わった後の達成感が気持ちいいらしい。
だからセツナは怯えた…ワタルは、掃除を終えた後のスッキリした表情でこちらを見ていたのだから…
「僕は綺麗好きな上に異世界を発見者として歴史に名を遺す人間なんだよ、だから息子がそんなことしてたら僕の邪魔なんだよ…」
「…何が言いたい」
その時のワタルを見るセツナの眼は【有名な父親】から【大好きな姉の仇】となっていた。
「セツナ、お前は不要になった」
そう言って部屋の外からワタルは手に持っていたスイッチを押した。その瞬間、自動ドアが閉まり部屋の換気扇から謎のガスが入り込む。
「ガス!?こ、ここから逃げなきゃ…」
そう言ってセツナは部屋の自動ドアを開けようとする。しかしワタルが何かの仕掛けをしたのか開く様子がない。
「くそっ!誰か!いないのか!ゴホッ」
セツナは部屋のガスは身体に良くないものだとすぐに悟る。そしてこのまま吸い続ければ死ぬ、それは分かっていた。
「ハハッ、俺は、死ぬのかな…」
セツナは部屋の中心に置かれた眠っているルナに近付く。
「ルナ姉、やっと…会えたね…」
ルナに向って話しかけるセツナ、もちろん返答はない。
「俺、ルナ姉に言いたかったことがあるんだ」
そう言ってセツナはポケットから箱を取り出した。箱にはリボンが巻かれておりセツナはルナに見えるようにリボンを取り、中を見せる。
「黒薔薇のブローチなんだけどね…お金貯めて買ったんだ。ルナ姉確か言ってたよね、黒薔薇は憎しみって怖い花言葉があるけど永遠の愛っていう意味もあるんだよね、俺はよくわからなかったけど、自分を嫌ってる相手でもいつか仲良くなれるって言ってるみたいで好きって言ってたね」
花言葉の図鑑を見てはルナはそう言っていた。
「俺、昔好きな子がいるって言ったけどね、あれルナ姉だったんだ。頑張ってって嬉しそうに応援してくれるから少し悲しくなったけど…あれ?ハハッ、なんでかなぁ、涙が止まらないよ」
セツナは話していくごとに涙を流していることに気付く、そしてセツナは眠っているルナのクリスタルに泣きながら縋り付く。
「ごめん…っ!俺、あの時ルナ姉を守れなかったっ!車のナンバーを覚えたり血で脅したりしたけど全然だめでっ!ルナ姉を、助けられなかった…ごめんな…」
本来は謝る必要はないのだ。三年前、ルナが攫われた日にセツナは何をしてもルナを助けることは出来なかった。
けれどセツナは謝らずにはいられなかった。許しの言葉が欲しいわけではない、ただセツナは謝りたかったのだ。これは自己満足だとセツナは理解していた。三年前の無力だったセツナ自身が楽になる唯一の自己満足だった。
「グフッ」
セツナは口から血を吐く。どうやら謎のガスは毒で身体に回ってきたようだった。
「ハハッ、もうそろそろで俺は死ぬみたいだ…怖いなぁ、でももし叶うなら―――」
セツナはルナを見て、願う。
「ルナ姉と一緒に生きていたいな…。あ、願い事をするときはお賽銭をしてからってルナ姉言ってたよね、財布はあるけどもう口以外の感覚がないから取り出せないや」
セツナは本気で死を覚悟した。そしてお賽銭の代わりとしてあることを思い付く。
「お賽銭じゃないけど…俺の【大切】な思い出はあげる、だからルナ姉と、また、一緒に…」
そう言った直後だった。ルナのクリスタルが輝きだしたのだ。しかしセツナにはもう既に意識は無く、それは見えない。クリスタルはセツナの身体に取り込まれいく。ルナもセツナの身体に取り込まれるクリスタルと一緒に吸い込まれる。
それは禁忌の契約。
失われた契約儀式。
封印された精霊術。
今は亡き英雄の力。
何よりも強い約束。
【魂の連結】
(暖かい…優しい感覚、抱きしめられてる感じだ…あれ?でも…誰に抱きしめられていたんだっけ…?)
光が収まり、セツナは身体の毒はすっかり消えていた。そしてセツナ意識を取り戻すと目の前には覚えているようで思い出せない少女が浮いていた。
「お前は…誰だ?」
『………』
「それに…あれ?俺の名前…わか、らない。何も、わからない…?」
『………ごめんね』
「……?」
それが一人の少女を泣かせた罪深き死神と一人の少年に泣いた慈愛の精霊の全ての始まりだった。
プロローグはここで終わりです。
次の話からは一章で異世界編となります、よろしくお願いいたします。
ブクマ、評価等、励みになります。