6、魔法
「ギュゥゥゥゥイイィィィィィィ!」
「実験材料、今日から六日後までは魔法で敵兵を殺してこい」
いつものようにセツナが奇声を発する食事をしているとミライが理由もなしに提案をしてくる。セツナはそれに普段通り「了解だ」と一言で返す。
「魔法の使い方が分からなければこの資料で確認しろ」
セツナが魔法について、と書かれている資料を受け取るとミライはすぐに自室へ去ってしまう。ここ数日ミライはこの調子なのだ。セツナと以前から話す頻度は低かったが、更に頻度は減った。
だが、セツナはミライが何をしようと関係なかった。言われたことをやり遂げる。セツナは五年間そうして生きてきた。
『セツナ、魔法ってどうすれば使えるの?資料見せて~』
セツナはルナに資料を渡す…というよりは取られる。するとルナは資料を開きセツナに説明するように音読を始めた。
『えーっと、自分の適性魔法の名前を声に出す。この時、魔力が1消費されます。セツナ、やってみて』
「闇魔法、空間魔法、血の支配」
セツナはルナに言われた通りに自分の適性魔法を呟く。
すると目の前に透明なガラスのようなものが現れる。ルナは『わっ』と、突然現れたガラスに驚き、声を上げる。
どういう原理かは二人には分からなかったが、そのガラスは浮いており触れることも出来なかった。
その説明を見付けたのか、ルナは資料を読む。
『資料によるとこれはウィンドウって言うんだって!』
「何かが日本語で書いてあるな…」
セツナはウィンドウに書かれている文字を見る。そこには異世界の言語なんかではなく、間違いなく日本語で書いてあった。
ルナはセツナの後ろに回り込みウィンドウを見て『不思議だね』と面白そうに答える。
【闇魔法】
熟練度0
1・闇玉
【空間魔法】
熟練度0
1・亜空間
【血の支配】
ユニーク
『詳細を知りたい場合は知りたい所に意識を集める…ふむふむ、やってみて』
セツナはルナの言われるがままに意識を集める。意識を集められるところは一ヶ所ずつなので、一つずつメモに書いていく。
【闇玉】
生命力を吸い取る。吸い取る力は込めた魔力の量に比例する。
【亜空間】
生き物じゃなければ収納可能。五キロにつき魔力を1消費する。
【血の支配】
周囲十メートルの血を操る。
【熟練度】
魔法を使うほど増える。熟練度が一定の値を超えると使える魔法が増える。
『それで使い方は…魔法名を言うだけでいいんだって!楽だね!』
「そうか、じゃあ行くぞ」
セツナはそう言うと外へ向かう。セツナは興味無さ気にしていたが思春期の男の子というだけあり、試してみたい気持ちもあったのだ。
『やっぱり男の子だね、ふふ』
ルナはセツナの好奇心を見抜いていたが、それはまた別の話……
♢♢♢
「ふぅ…少し休憩取ろうぜ」
「そうだな、鮮血の死神にもまだ見つかってないしな…」
「鮮血の死神?なんだそりゃ」
「知らねぇのかよ、日本軍が有する化け物だよ。銃を打ち込んでもナイフで刺しても傷がすぐに消える。しかも銃を撃たせる暇も与えず首を切り落とすのさ」
「こわっ」
二人の兵士は日本から異世界へ繋がるゲートを支配下に置こうとする国の兵士…つまりセツナが殺してもいい敵である。二人は東京にある異世界へのゲートへ向かう最中で休息を取るつもりであった。
「ん?なんだこの黒い霧」
兵士達が休んでいると周りが黒い霧に囲まれていることに気付く。黒い霧で視界が遮られ、お互いの声を頼りに警戒をする。
戦争なのだ、つまり敵が毒ガスを作ってる可能性もある。
先程まで晴れていたのにも関わらず突然黒い霧が現れるのは明らかに不自然であったため、ガスマスクを着ける。
「周りがよく見えないな…ッ!ゴホッ」
「おい!どうした!…!ガハッ」
二人の兵士はその場で倒れこむ。そして自分が知らぬ間に血を吐いていることに気付く。
兵士は毒ガスの対策としてガスマスクを着けている、その前に吸い込んだとしても身体に回るのが早すぎる、そんなことを考え銃を何も見えない霧の中構えるが、目の前が揺れ始め自然と意識を手放し絶命した…
『闇玉を霧状にして操るなんてよく思い付いたね!』
「これなら首を落とした方が早い」
『でも、今日からは魔法で倒さなきゃ!ほら次行こっ!』
セツナとルナはそう言って敵兵の死体を放置して別の場所へ行く。
♢♢♢
「次だ」
魔法でもう何人殺したか覚えていないセツナはルナに次の敵の場所を聞く。
『セツナ体力は大丈夫なの?』
「問題ない、次の敵はどこだ」
『そっかぁ…でもね…』
セツナはこの時は気付いていなかった。闇玉で殺した敵兵の生命力が身体に入っているなんて…そして…
『セツナが戦い始めてどれくらい時間たったか知ってる?』
「知らん」
『もう四日間だよ!?しかも一度も休んでないよね!?』
そう、セツナは敵から奪った生命力により疲労を感じておらず、四日間戦い続けているのだ。
『それと気付いてないかも知れないけど、東京エリアから出てるよ』
「知らん」
『しかも関東地方にいた敵兵、全員倒したよね?』
「知らん」
『敵兵の仮拠点、数え切れないほど潰したよね?』
「………」
『それでどの口が次の敵の場所を聞いたのかな~?』
「…帰るよ」
セツナが諦めたようにそう言うとルナは満足そうな笑顔を見せて『よろしい♪』と言った。
『それとここ福島県だよ?どうやって帰るの?走っても着くけどかなり時間ギリギリだよ?』
「問題ない、空間魔法」
セツナは空間魔法と言ってウィンドウを開く。それをルナに見せる。
【空間魔法】
熟練度342
1、亜空間
2、亜空間強化
3、瞬間移動
【亜空間強化】
生き物じゃなければ収納可能。十キロにつき魔力を1消費する。
【瞬間移動】
一瞬での移動を可能にする。百メートルにつき魔力を1消費する。
『瞬間移動…?』
「これを使えば時間を節約できるはずだ」
『おぉ!いつ覚えたの?』
「敵兵の武器と使えそうなものを全部奪っていたら覚えていた」
『………』
「さっさと、帰るぞ、基地の座標を教えろ」
♢♢♢
「報告は以上です」
セツナは基地に帰ると報告をするために上司の部屋に向かった。
「…セツナ君、武器を奪ったのはいいが…」
「はい」
「俺の部屋に出すのは止めてほしかったな…」
そう言い上司はため息をつきながら隣にある武器の山を見る。セツナは奪ってきた武器を全て上司の部屋にぶちまけたのだ。
上司はセツナが一般的な常識が分からないようになる環境で育ったことを知っているため、責めることはできない。
「これどうやって片付けよう…」
「それでは自分はこれで」
セツナはそう言って部屋から出ようとする。上司は帰ろうとするセツナを「あ、少し待ってくれ」と呼び止める。
「何でしょう?」
「この後の予定を言ってみなさい」
「はい、この後は引き続き東京エリアの敵兵を殺します」
表情を一切変えずにそう答えると上司は「やっぱりか…」と呟く。
「…セツナ君、君はどうやら四日間一睡もせずに戦っていたそうじゃないか」
「それが何か?」
「ミライ博士にはこちらから言っておく、少し休みなさい」
「なぜですか?」
「この間知ったことだが…君は休暇が与えられているのにも関わらず五年前から一日も休まず毎日戦場に出向いていたらしいじゃないか…」
そう、セツナの上司はセツナに休日は与えていた。しかし書類の確認などの部屋から出ない仕事をしていたためセツナの行動を把握できず、セツナが休日をしっかり取っているものだと上司は思っていたのだ。
更にセツナは兵士との交流がないため、噂も流れてこない。
「これは命令だ、異世界に行くまでの残り二日間は戦場には行かず休め」
「了解しました、それでは」
セツナは部屋から退出する。
「…この武器どうしよう」
部屋に放置されている武器の山をみて上司はセツナに残ってもらえばよかったと後悔するのであった。
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