3、食事
「科学者、持ってきたぞ」
セツナはいつものように敵兵を全て殺した後、研究所で科学者の雑用をさせられている。
「そこ置け、それとこれを食え」
「わかった」
セツナは科学者から特に何も聞かず、小さな箱を受け取る。セツナは受け取った小さな箱の紐を解き蓋を開ける。
「ギィィヤァァァァ!!」
「………」
「イィィィィギィィィィィ!!」
「………」
触手に人間の顔が付いているような化け物が箱には入っていた。それをセツナは…
パクッボリボリ
とりあえず食べた。
『ミライさん!何この合成獣っぽいの!?それとセツナも無言で食べないで!』
「ルナちゃん、よくわかったね。これが合成獣だって」
「科学者、食ったぞ」
『セツナはもう少し警戒しなさい!』
「科学者の命令に関しては俺に拒否権はない」
「そうだね、よくわかってるじゃないか」
科学者…ミライはそういうとクククッと女性とは思えない下品な笑い声を出した。
『そうじゃなくても何かを聞く権利ぐらいあるでしょ!』
「聞いても食べることには変わりない、聞く必要性が感じられない」
「今食べてもらったのは異世界の魔物を【魔法】で【合成】して出来たものだ。初めてにしては可愛くできただろう?」
セツナは異世界の魔物は資料で色々見ていたが、あんな触手の化け物になりそうな魔物はいなかった。何を合成したらああなるのかセツナには理解できなかった。
「ちなみに材料は全てホーンラビットだ」
ホーンラビット…兎に角を生やしただけのような魔物だ。見た目は可愛らしく、危険性も低いのでペットとして飼われることも多い。触手などはもちろん無く、人間の様な顔もついていない。大きさも普通の兎ほどで小さな箱に入るサイズじゃない。
「魔物の体内にある【魔石】を体内に取り込めば【魔力値】が上がると聞いてね、本来は殺して上げるらしいのだが生きた状態で食べるのも有効か知りたくてね」
魔石…魔物の心臓の役割を担っている石、魔物の体内にありそれを潰されると魔物は死ぬ。心臓との違いは血を身体に巡らせるのではなく、魔力を巡らせる。
同時に魔石は魔法の実験などに用いることが多く、他にも魔法技術で出来た【魔道具】の核にするらしい。
魔力というのは異世界の生物は全てが持っている。魔物もそれは例外ではなく、魔物の場合、魔石に魔力が多く含まれているらしい。
「そうか、なら早く調べろ」
「そのつもりだ、この水晶に手で触れるだけでいいらしい、まったく…魔法文明は凄いね」
『あの…セツナの食べる前は知らないんじゃ…』
「大丈夫さ、地球の生物は魔力は持たない。だから初めはゼロからスタートさ」
セツナは用意されていた水晶に手を乗せる。すると水晶に繋いでいた機械に数字が浮かび上がる。
魔力値:20000/20000
二万と出たがセツナには基準が分からないので多いのか少ないのかが分からない。
「ふむ、私と同じ結果だね。これで実験は完璧だ」
ミライもセツナと同じように先ほどの化け物を食べていたらしい。
「魔物は殺すより生きた状態で丸ごと食べたほうが魔力値は二十倍あがる…という結果だ、さっき死体も食ったが増えなかった。魔力は生命とも関係があるらしいな」
「元々はあの合成獣、1000の魔力値なのか」
「あぁ、ホーンラビット百体だからな」
『百体合成したんだ…』
魔物は生きた状態で丸ごと食べると二十倍…これは異世界で未だ知られていない事実であった…何故なら魔物の肉は非常に不味い。人間は家畜などの肉を食べているのだ。魔物の肉を食べるとしても戦場で食料が無い場合にじっくり火を通した状態で食べるのだ。生きた状態で丸ごと食べたのはミライとセツナが初めてだろう。
「二万だから亜竜二体分といったところだな」
亜竜…現れただけで討伐隊を結成されるほどの生物災害、巨大な亜竜の吐くブレスは小さな村ならば簡単に飲み込む化け物…とセツナは資料で見ていた。
「そうだ、実験材料、魔法の適性を見てやる」
『え?セツナが魔法使えるの?』
「異世界人の話だと人間には誰しも適性があって、ある程度の魔力値があれば使えるそうだ、さっきの水晶で調べられる」
ミライは水晶に繋いである機械を数秒弄る。
「ほら、置け」
『え?ミライさん今なにしたの?』
「異世界では適性を調べる水晶と魔力値を調べる水晶は別々にあるらしいが日本人が改良して機械での切り替えを可能にしたんだよ」
日本は異世界で魔法の技術を提供させている代わりに科学の知恵を提供しているのだ。
セツナはそんなこと気にせずに水晶に手を置く。
【闇魔法 空間魔法 血の支配】
水晶には三つの単語が浮かんだ。ミライは魔法の一覧表のような紙を取り出し確認する。
「闇魔法と空間魔法に関しては資料はあるけど、血の支配というのは分からないな…おそらくユニークだろ」
『ユニーク?』
「その人間にしか使えない魔法…だそうだ。持っている人間は少ないそうだが私も持っていたから凄いのか分からないな…」
『ミライさんはどんな魔法が使えるの?』
ルナが興味津々で聞くと口で説明するのが面倒なのかミライは水晶に手を置いた。
【毒魔法 召喚魔法 理不尽な融合】
三つの単語が浮かんだ、ルナはその単語を興味深そうに眺めている。
「私の場合、理不尽な融合というのがユニークらしくてね。【どんなもの】でも【合成】、【分解】が可能な能力だ。さっきの合成獣もこれで創ったんだよ」
『便利そうだけどアレみたいのが出来上がっていくと考えると…』
「ふふふ…アレは魔物の魔力値の特性だけを引き継いで合成したからね…ちなみに言うとアレ、これからの実験材料の食事だから」
「分かった」
『えぇぇぇぇ…』
触手の化け物の状態で毎回出す予定だったが、それは止めてあげてとルナの要望により改善された…
「ギャァァァァァァ!!」
「………」
触手の化け物のサイズを更に小さくし、グミのような触感になった触手の化け物に改善…されたのだ…
パクッ
「どうだ?」
「嚙む度に口の中から奇声が聞こえます」
『ごめんなさい!なんかごめんなさい!』
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