26、勇者
「そろそろ、遺跡の最深部ですね……」
「ああ、気を引き締めていくぞ」
王都で会議があってから数日、オーグ王の命令で騎士二人は【善神の神殿】に向っていた。会議では魔族領に向かうことになっていたのだが、それより簡単に魔王を見付ける方法があると貴族が提案したのだ。
『善神の神殿の最深部に向えば魔王に関する助言が貰えるかもしれません』
これは紛れもない事実だった。善神の神殿とはその名の通り【善神】を祀っている神殿だ。
そこの最深部に向えば人類に関する助言が聞ける、その言葉により何度も人類は救われてきた、大飢饉、クーデター、そして……魔王の出現。
それらは全て神殿の最深部で予知されていたことだった、日本では誰も信じないオカルトで片付けられるが、ここは魔法がある世界、非現実的な現象が日常的に起こる世界で疑う人間などいなかった。
そのため今回も騎士二名が神殿の最深部に向かうように指示されたのだ。もちろんいるとはオーグ以外誰も信じていない。だが、オーグが納得するためには『いないという事実』を突き付けるしかないのだ。
「はぁ、全く……早くロイド様が王位継いでくれないかね」
「ほんとですよね……オーグ王より遥かに知性溢れる方でしたし、国政のほとんどをロイド様がやってるとか……」
二人はそう愚痴りながら遺跡を進む、二人の話していることは騎士や王城の使用人の共通意識だ。第一王子のロイドに王位を継いでほしい、そう誰もが口にするが実現することがない。
その理由は二つ、一つはオーグはロイドを嫌っており可愛がっている第一王女ソフィアを継がせたいと考えているからである。もちろんそれは国の未来を見据えているのではなく単に可愛がってるからなのだと誰もが知っている。
そしてもう一つの理由は王の周りの貴族である、貴族たちは今回こそ反論したものの、普段は王に媚びを売ったり貢物を用意するなどで、爵位をドンドン上げて私腹を肥やしているのだ。
ロイドに見付かれば処罰されることもあるが、軽い罪ならばオーグに頼めば揉み消してもらえるのだ。有能か無能かではなく、権力の力である。
なので同じように阿呆なソフィアに王位を継いでもらった方が貴族としては都合がよいのである。
「はぁ……」
「先輩、あの扉じゃないですか?」
先輩の騎士が溜息を付く中、後輩の騎士が少し先に見える大きな扉を指差す。それは騎士二名が探していた最深部へ続く扉だった。
扉に近付き重く頑丈そうな扉を力任せに押す、二人は騎士とだけあって普段から鍛えている、そのため重そうな扉は簡単に開く、いや簡単に開きすぎたのだ。
力を全く入れていないのだが扉は簡単に開く、その様子に目を見開く二人。
「これは……どういうことだ?」
「そういえば俺、ここに来る前に神官の方に聞いたんですけど……」
後輩の騎士が顔を真っ青にして話を始める。その様子から何か知ってるのだと悟った先輩の騎士は真剣な面持ちで「……どんな話だ?」と聞き返す。
「はい、善神の神殿の最深部の扉が簡単に開いたら、それは善神の予言があるから……らしいです。 それも重大なことだそうで……」
「……簡単に開いたな」
「……はい」
「進むしか、ないか……」
「……はい」
先程の愚痴を言う余裕は既に消えており、不安げな表情になっている。けれどここで引き返すわけにはいかないのだ。重大な予言なら尚更、聞かなくてはならない。もしかすると人類に関係するほどのことかもしれないからだ。
「ここが……最深部」
「何年も人が来ていないはずなのに、清潔感ありますね」
神殿には普段誰も出入りしないはずなのだが、清潔感が漂っていた。と、言っても比較対象は今までの神殿内部であり、それなりに汚れなどはあった。
しかし騎士達が清潔感を感じたのは別に理由があった。
「いや……清潔感じゃない。 この部屋自体が少し輝いてやがるぞ」
「あ、ほんとだ……何か淡い光が、気付かなかった」
部屋は僅かだが、淡い光に包まれていたのだ。発生源は不明だが、謎の光があるのだ確かだった。
不思議そうに騎士達が首を傾げていると、脳内に声が響きだす。
『邪神が復活しました、魔王も既に選定されています。』
「こ、この声は……!」
「善神様なのですか!?」
『私が勇者を選定しました。 勇者が聖剣を握れば光り輝きます、勇者の特徴は……』
善神の声を聞きながら息を呑み込む二人、邪神と魔王が既に現れているということで不安が更に大きくなったが、それと同時に『勇者』という言葉で期待を高める。
『―――異世界人。 そう、勇者の特徴は異世界人です、それでは……世界を頼みましたよ。』
「……異世界人」
「早く、王に伝えなければ……」
騎士達は驚くべき事実を聞き、オーグに一刻を早く伝えなくては、と焦る。
そう、魔王が復活していると最も伝えてはいけない人物……オーグ王に―――
勇者はいったい誰……次回に続く?




