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19、事件は突然に

「えー、そろそろテストになるので勉強を怠らないように!」

「範囲は今日出たところまででーす」


ガイルとキクチはそう言って教室を出ていく。セツナが騎士の騒動を起こしてから一ヶ月という時間が経っている。

あの件から更に他の生徒との溝は深まり、セツナはティア、ルナ、アリシアと話している。

周りの男子生徒からはティアとルナという美少女がセツナの近くに集まって少し嫉妬の眼差しが向けられている。


「教科は歴史、科学、魔法学、数学か…」

『頑張ろうね!』

「セツナ君!勉強会しかない!」


セツナは教科と範囲の確認をしていると、隣にいるティアが突然提案する。その声を聞いていた前の席のアイシアも「行きましょう!」と振り返りながら言う。


「いや、アリシアはともかくティアは勉強する必要ないだろ」


ティアは学園長なのだ、しかもワイズマンと呼ばれるほどの存在。高校一年生の問題など朝飯前のはずなのだ。


「ふっふっふ、残念だけど授業の内容が全く分からないわ」

「同じく!」

「………」

『………』


セツナは黙って立ち上がり、「行くぞ」と呆れたように言って教室を出ていく。残されたティアとアリシアはそれを追うように着いていく。


♢♢♢


「セツナ様、ここは?」

「ここ基礎中の基礎だぞ…」

「ルナちゃん!ここ分かんない!」

『これはさっきの問題の応用だから、こう考えれば…』


セツナ達は寮へ戻ると、早速勉強を始めた。セツナとルナがアリシアとティアに教えることになった。


「と、言うかセツナ君は十歳から勉強してないって上司さんに聞いたんだけど…」


ティアはセツナの完璧な教え振りに質問を投げかける。そう、セツナは十歳から戦場にいたため、勉強などしてこなかったはずなのだ。それなのにセツナは勉強についてきているどころか、完璧なのだ。


「全て暗記すれば簡単な話だ」

「暗記って…」

「数学は少し手こずったがな」


セツナはそういうと、再び勉強を続ける。ティアとアリシアはセツナの常識外れな答えにただただ呆れて何も言えなかった。

それ以上は何も聞かず、勉強会を続けたのであった……


♢♢♢


「これで範囲は終わったな」

「つ、疲れた…」


範囲を教え終わると、既に夜となっておりティアは疲れからかセツナのベットに倒れこむ。セツナのベットに倒れ込んだのは偶然ではないことはすぐに気付いた。


「おい、そこ俺のベットなんだが」

「おやすみなさーい」

「そうか、寝るのか。ルナ姉、ティアは晩飯食わないらしい」

「おはようございます!」


ティアは夕飯の事を思い出すと、これ以上なく素早い動きで起きた。戦闘でもこれぐらい早く動けよ、とセツナは言おうとしたがティアは既に夕飯のことしか考えてない様子なので言っても無駄だと判断し心に留めておくことにした。


その日は夕食をいつも通り食べるとそのまま就寝した。


♢♢♢


「テストと突然だが延長となった、全員校庭に出るように」


翌日、担任であるガイルの口からそんな言葉が出た。ガイルの真剣な顔つきからセツナは何かが起こったのだと察するが、それを言えば生徒達が不安になると考え口には出さなかった。


「いや~、勉強が無駄になっちゃったな~」

「ティア、その割には嬉しそうだけど?」


ティアのニヤケが止まらないのを見て、アリシアが素直な感想を伝える。

しかしセツナはティアが何か隠しているのをすぐに見破った。


「ティア、何があった」

『手伝えることはある?』


セツナはそう言うと、ティアはニヤケを止め一瞬で学園長としての顔つきに変わる。


「……この後、生徒達は魔獣の森に向かう事になるわ」

「理由は?」

「え?魔獣の森?」


生徒達は校庭に移動しているため、教室にはティア、セツナ、アリシア、ルナしかいない。ギンは先生達に声で指示を出しているので今はいない。


「魔物達が活性化しているらしいの、それで騎士団が対応に追われてるんだけど………」

「状況が良くないんだな?」


セツナの言葉にティアは静かに首を縦に振り肯定する。


『それで生徒が向かうの?』

「一応戦闘訓練はされてるからね……でも、そんなことは教育者としてはさせたくないわ……」

「え?教育者?」

「なるほどな……」


ティアはおそらくこの件には同意していないのだろう、そしてワイズマンの家名を受けている貴族なのでそれ相応の発言力を持っているはずなのだ。しかしそれを受け入れたということは、それ以上の権力者からの要請があったからだとセツナは推測する。


「王か」

「……そうよ」


ワイズマンの権力に並び立つのは英雄の家系―――四大貴族とも呼ばれる人間だ。しかしこの学園にはアリシア、そして生徒会長という英雄の子孫がいる。

真っ当な親であれば言うはずがない……となれば残るは王しかいないのだ。


「騎士団が対処できていない魔物を生徒が倒せるわけがないの…おそらく、いや、絶対に死者が出るわ……」

「死者!?大丈夫なの!?」


ティアの正体に薄々気付き始めたアリシアが説明を聞いて心配と驚きが混じった感情で声を上げる。しかしセツナは―――


「そうか」


自分にはまるで関係ないと思わせんばかりの酷く冷たい声で言った。そんな解答にティアは少し苛立ちを覚える。


「そうかって…人が死ぬのよ?」

「そうだな」

「セツナ君…君何を言ってるか……!」


その時、ティアはセツナの【眼】を見て全てを悟り思い出した、セツナと言う人間の生きてきた道を―――


「…そうね、それより早く校庭に出ましょう」

「あぁ、そうだな」

「え?ティア?セツナ様?」

『セツナ…』


唯一セツナの五年間を知らないアリシアだけが理解していない様子だった。セツナは何一つ間違ったことを言ったと思っていない。しかしその無自覚が更にティアを苛立たせていった……


「戦場では弱いものから死んでいく、そうだろ?」

「ごめんなさい、私は戦場を知らないから」

「………そうか」


ティアは突き放すように話すとセツナは少し寂しそうな表情となる。

セツナが悪いわけではない、セツナの育った環境が異常なのだ。それを理解していてもティアは苛立ちを隠すことは出来なかった。


♢♢♢


校庭にはもう生徒が全員集まって整列していた。ギンも事情を話しておりこれから森へ向かう、という様子だった。

不安だと嘆く者、戦闘だと冒険心を高ぶらせる者、冷静に生きることだけを考える者、様々な生徒がいた。


そんな騒めいている生徒達にセツナ達は入り、森へ向かうためのヘリにに乗り込む。ヘリは日本が異世界で作り出し、これも魔力によって動く。


ヘリは森のすぐそばへ着くと着陸する。そこで生徒達は降ろされる、ここからは自分達の足で進むのだろう、と生徒達に緊張が走ると同時に重い空気に包まれる。


「ここから先は魔物が出る、戦闘経験がない生徒は教員と行動しろ!以上!………それと、生きてくれよ」


ガイルが生徒達にそう言うと、戦闘経験のある生徒が森に入り始める。しかし圧倒的にその数が少数であり、更にその中のほとんどが戦闘経験が無いはずの日本人だった、魔物と呼ばれる未知の生命体と戦った異世界人はほとんどいないのにも関わらず、日本人が多い理由は顔を見れば容易に想像出来た。


「戦場と遊園地を履き違えてるみたいだな」

『セツナ、あの人達…死ぬよ?』

「死にたいんだろ、俺はそのまま進む」

『えー、助けようよー』

「……善処する」

『よろしい♪』


そんなことを言ってセツナとルナは森に入る。アリシアは戦闘経験が無いらしく教員と入ってくるらしい。ティアは生徒が死なないようにとサポートに回る様子だった。

ブクマ、評価等、よろしければ入れてくださると大変喜ばしい限りでございます。

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