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16、友達

「うぅ…また失敗した…」


そこは一のAの教室からちょうど三百メートルほど離れた場所だった。そこで青い髪の男子生徒…アリシア・ロードランスは一人泣いていた。


「父上、昔からに仲間を作れって言われてきたけど僕には無理そうです。学園に入学したら信頼できる仲間を作ろうって考えて友達の練習になりそうな男の子見付けて声かけたけど昔からの癖で数フレーズ話すと緊張してやっぱり無理でした。先立つ不孝をお許しください」

「お前、自殺でもするのか」

「わわっ!」


アリシアは突然背後から聞こえた声に驚く、何故ならアリシアは幼い頃から近くにいる生物の気配を悟ることが出来たのだ。なので気配を全く感じなかったセツナに驚きの声を上げる。


「君はさっきの…えっと…」

「セツナだ」

「セツナ君…どうしてここに?」

「友達になりに来た」

「え…?」


アリシアにはセツナが何を言っているのか理解できなかった。人と話すと緊張して逃げ出すのでアリシアを見た同年代の子は「嫌われた…」と言って関りを持たないように気を遣われていたのだが、アリシアはそれが分からずにいつも一人泣いていた。それなのに何故追いかけてまでそんなことを言うのか。


「俺は正直どっちでもいい(何か友達になれって言われたから来ただけだし)」

「それは…(僕に選ばせるってことかな?)」

「友達になるか?(戻りたいから早くしろ)」

「………(セツナ君は…今に大切なことを教えようとしてるんだ。それは自分から手を伸ばす事、それが出来ない僕にはいつまでも友達が出来ないと言ってるんだ…)」

「ならないなら、俺は行くから(何も言わないし別にいいよな?)」

「待ってくれ…(チャンスは一回、ここで乗り越えなければ僕はいつまでも成長しないと言ってるんだ…凄い人だ、さっき気配を感じれなかったし…)」

「なんだ?(面倒だな…早くしろよ)」

「僕を…(決めた…もうこの人しかいない)」

「ああ(友達になってくださいとか言うんだろうな)」

「師匠の弟子にしてください!」

「………」

「………」

「無理」

「弟子じゃダメってことは…メイドさん?」

「なぜそうなる、お前男だろ」

「じゃあご主人様ですね!セツナ様の方がいいですか?」

「………もういいや」


セツナは面倒になり、放置する。しかしアリシアはその「もういいや」は「もう(それで)いいや」と言う意味だと理解する。もちろんセツナはそんなつもりで言ったわけじゃない。


♢♢♢


「………」

『………』

「セツナ様の匂い…すー、はー、すー、はー」

「何でこうなった?」

「『こっちが聞きたい』」


セツナの腕にくっ付き匂いを嗅ぐアリシアの姿にティアは「どんな手段を使ったらこうなるの」と、驚きの声を上げている。

ティアは表舞台に姿を現さなくとも一応貴族なので国の重要人物の社交界の立ち位置などは記憶しているのだが、「アリシア様が情報と違うんだけど…」と言っている。


「とりあえず離れろ」

「やだ、もっとセツナ様を知りたい」

「よし、離れろ。そもそも男同士だからな、俺にその趣味は無い」


強引にアリシアを引き剥がし、自分の前の席に座らせてセツナは自分の席に戻る。

そうしている間に時間となり、生徒達は全員集まり担任を待つ状態となった。


ガラガラガラ


「よぉ!一のA担任のガイルだ!」

「副担任のキクチ シンジです、よろしくね~」


そこに現れた先生は…セツナの知る人物で仕組んだのではないかと再び疑うが、ティアはセツナがガイルが知り合いだと知らない。

キクチは分からないが、ガイルは偶然だろうとセツナは推測する。


「今日だが、この後に生徒全員で自己紹介してから解散になる。じゃあまず俺が自己紹介するからな…コホン、俺はガイル、平民の出だ。担当授業は魔法学だ。特技は読唇術、これは魔法とかじゃなくて訓練の賜物だな」


ガイルが軽く自己紹介を終えると、一番前の席の生徒から自己紹介を始める。セツナは一人ずつ自己紹介を記憶していると、アリシアの番になった。


「アリシア・ロードランス、よろ」


クラスの生徒のほとんどは英雄の子孫であるアリシアの自己紹介を楽しみにしていたことだろう。


どんな魔法を使うのか、特技は何か、学園での楽しみ、そんなことを生徒達は自己紹介でしていた。しかし、名前と「よろ」の二言だけで自己紹介が終わってしまい、拍手すら忘れている。


そんな中セツナは気付いていた…アリシアの膝が尋常じゃないほど震えていることを…そして「よろ」の後にとんでもなく小声で「しくお願いします。友達百人欲しいです」と言ってことも…


「え、えっと…じゃあ次は後ろの…おぉ!セツナか!」


セツナは自己紹介のため、立ち上がる。先生が知っているとのことで少し注目を集めている。


「セツナ」


そう一言言ってセツナは着席する。

理由は二つあった。一つは魔法などの情報を話すことは自分の戦術を話す事だと考えていたのだ。生徒は魔法適性を普通に話したりしていたが、セツナは無駄な情報を流したくなかったのだ。

そしてもう一つは…面倒くさかったのだ。


「う、うん、じゃあ次はその隣の…」

「ティア」


隣にいたティアも立ち上がりそう言うと、着席する。ティアの場合は家名や魔法適性を言うとバレると考えたのだ。


ガイルが来る前から可愛い、カッコイイなどで注目を集めていた二人の酷過ぎる自己紹介にクラスの生徒達は啞然とした。


「おい!お前【月の死神】だろ!」


静寂が支配する教室で一人の男子生徒が立ち上がり、セツナに向って言い放った。黒髪黒目から日本人だとセツナは判断する。


「えっとお前は…クドウ タケルか、タケル、月の死神ってのはどういうことだ?」


ガイルは名簿を見てタケルという名前を確認する。


「こいつは何を聞いても月を探してるとか訳わからないことを言いながら街を歩いて不良を見つけては殺していたんです!その所業から月の死神って言われてたんですよ!」


セツナにはまるで心当たりがなかった。おそらくルナが消えた後の三年間を言っているのだろうと推測できたが、不良に絡まれても殺すことはなかったのだ。何故ならセツナを見た瞬間、怯えて逃げていくのだから。そして月ではなく「ルナ姉」と毎回セツナは言っていたのだが、脳内で変換されているようだった。


「えぇ…怖い」

「殺してるって…」

「それ何がしたいんだよ…」


クラスはそんな声で包まれる。日本人は「いや、殺したら捕まるだろ」と言っているが、異世界人はそう思わなかったらしい。奴隷制度や戦争があるからこそ、信じてしまったのだ。


「………」


しかしセツナはいつも無表情で反論すらせずに聞いていた。その様子を見ていた日本人が「なんで何も言わないんだ?」と少し不思議そうに見ている。


「おいおいおい、何とか言えよ~月の死神さんよぉ~」

「お前」

「あ?」

「今すぐ逃げたほうがいいぞ」

「はぁ?何言って―――」


次の瞬間、タケルの立っていた床に黒薔薇が咲く。


「な、なんだこれ…クソッ!取れない…」


黒薔薇の茨はタケルの足を拘束し、そこからどんどん身体を包み始める。


「お前がやってるのか!?くそ!こんなの俺の魔法で…」

『無駄』


その時、タケルの目の前にルナが実体化して現れる。いきなり現れた少女にクラスは何が起きたか理解できていない。

そして長年ルナを見てきたセツナには分かっていることがあった。


(ルナ姉…怒ってるな)


「魔法が使えない!?ど、どうして…」

『セツナに謝って』

「お前がこれをしてるのか!?」

『セツナに謝って』

「お、おい、今なら許してやるからこれを消せ」

『セツナに謝って』

「なんで俺がこいつに謝らなきゃならねえんだよ!俺は事実を…」

『そっか』


茨は既にタケルの首から下を包んでおり、やろうと思えば身体から血液を全て抜き取って栄養分に変えることだって可能な状況なのだ。それ以前にタケルは寝ていない、なのでルナは相当手加減しているのだ。


そしてルナがタケルに背を向けると、茨の一部が首の上に上って来る。


「ま、待てよ!俺が何したんだよ!」

『じゃあセツナは何をしたの?』

「それは…そう!不良を殺しまくって…」

『その光景を貴方は見てた?』

「い、いや…噂だけで…でも」

『そう、なんの確証も無い噂でそんなこと言ったんだ。じゃあもう―――』


黒薔薇の茨に命令を下そうをした瞬間、ルナは突然頭に走った衝撃によって気絶する。ルナが意識を失ったことで黒薔薇は消える。そしてルナの気絶させた人物…セツナはルナを支える。


「ルナ姉、やり過ぎだ」


気絶したルナは自然と霊体化する。そしてセツナは気絶したルナひょいっと持ち上げると席に戻る。

その日、クラスにはセツナの悪口を言ってはいけないという暗黙の了解が決まった。

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