11、黒薔薇の庭園
「キクチさん、学園長とやらはどんな奴なんだ?」
三人は校舎の廊下を歩きながら学園長室へ向かう最中だ。セツナの上司が話したところ学園長がセツナに興味を持ったのだという。
「学園長は先祖代々神位精霊を引き継いでいる一族なんだよ」
「神位精霊?ルナ、知ってるか?」
『えー、精霊に種類なんて初めて知ったよ?』
ルナは精霊になった時、能力の使い方と精霊の基礎知識は自然と知っていた。なので知っているのではないかとセツナは考えたが全く分からないようだった。
「じゃあ簡単な違いを説明しましょう」
キクチは歩きながら種類と違いを簡単な説明をした。
【下位精霊】
霊体の状態で実体化が出来ない、物に触れることが出来ない。
【中位精霊】
霊体化と実体化を使える、霊体化の状態では物に触れることは出来ない。
【上位精霊】
霊体化と実体化が使える、霊体化の状態でも魔力を消費するが物を持てる。
【王位精霊】
霊体化と実体化が使える、霊体化の状態でも魔力消費無しで物を持てる。
【神位精霊】
霊体化と実体化が使える、霊体化の状態でも魔力消費無しで物を持てる。
自分と同等、もしくはそれ以上と認めた王位精霊を神位精霊にする権利がある。
「精霊の強さは魔力の量だと言われていてね、生前に魔力が多かった生物が精霊になると言われているんだ」
「…ルナ姉」
『…うん』
キクチの説明でセツナには疑問に思ったことがあった。それはルナも同じようでどうしようか考えていた。
「ん?セツナ君どうしたんだい?」
「…ルナ姉は多分、王位精霊だと思う…」
「えっ!?」
そう、ルナは今まで当たり前のように霊体化の状態で物を持ち上げていたのだ。魔力を消費している様子もなく持ち上げているのでキクチの説明の通りならルナは王位精霊という事になる。
「セ、セツナ君…それは本当かい?」
「…ルナ姉」
『ほいっ』
セツナの合図でルナは傍にあった花瓶を持ち上げる。
「うわぁ!花瓶が!」
「ルナ姉、戻して」
『はいはい』
花瓶を戻し話を続ける。
「セツナ君…これは凄いよ…王位精霊は属性の数しかいないと言われていて…」
「学園長室…ここか」
「しかも王位精霊って言ったら自分だけの属性を作り出せるって言うし…」
セツナは学園長室と書かれている扉を見つけ、ノックする。
「はーい、どなたですか?」
返ってきたのは女性の声だった。そしてセツナが驚いたのはそこではなかった…
(日本語…か)
そう、日本語で返ってきたのだ。異世界なのならば言語も違うはずだが…とセツナは一瞬考えるが、投げかけられた問いに答えるほうを優先した。
「王位精霊の契約者なんて言ったら世界に数えるほどしかいなくて」
「セツナ…と言っても分からないだろうが…」
セツナはキクチを放置して問いに答える。しかしセツナという名前を言ったところで分かる訳もない…
「入って」
「分かるのかよ…」
言われた通りにセツナは扉を開け入室する。扉の先に広がっていたのは高級そうな家具が置かれている部屋…ではなく真っ白な部屋だった。
「…広いな」
『私達が通ってた小学校の体育館ぐらいかな?』
部屋の壁や床、天井にもグレーの線が一定間隔で入っており番号が刻まれている。おそらく自分の位置を把握するためだろう。
「…」
『…0,5』
次の瞬間、セツナはナイフを取り出し横薙ぎに振るう。
パキンッ!
「驚いたわ、まさかこの攻撃を避ける、ではなく破壊するとは…と言うか普通じゃ避けるのも不可能な速さですよ?」
飛んできたのはツララだ。当たったら怪我じゃ済まないだろう、しかし銃弾が飛び交う戦場をナイフ一本で無双している状況なのだ。銃弾より遅いものなど、セツナにはスローに見える。
『ティア、あの精霊はツララが来るタイミングを読めていたらしいぞ』
「え!?嘘!」
セツナとルナの目の前に現れたのは、二十代後半ほどの見た目の女性だ。
しかしセツナはそれが人間ではないことは知っていた。
尖った耳、金色の髪、整った容姿。
軍の資料で見た【エルフ】だと考えていた。
エルフは大昔、森に集落を作り生きていた。けれど人間は整った容姿のエルフを奴隷として飼おうとした。それが原因で戦争となり、両種族は大きな被害を受けた。
そして戦争の末に和平条約を結んで今となっては戦争の過去など忘れてエルフも人間の国に馴染んでいるそうだ。
『セツナ、あれ』
「あぁ、大きさは資料と違うがあれは―――」
問題はその隣だった。ティアと呼ばれたエルフの隣には白銀の鱗を身にまとい翼を生やしている。この存在もセツナは資料で見ていた。
「竜種だな、しかも精霊か」
竜種は一万年以上生きると言われている、しかしその繁殖力は弱くそれだけもう絶滅しているのだという。一万年を生きる竜種だからこそ精霊になれたのだろう。
けれどティアの隣にいる竜種は資料の情報より遥かに小さい、幼体でも体長十メートル超えるととある言い伝えには乗っているらしいがその十分の一ほどの大きさなのだ。おそらく魔法で何かしているのだろう。
『ティア!あの小僧、人間なのに霊体化のワシを見れるようじゃぞ!』
「多分、魔力の量が多いのでしょう。でもそれなら―――」
ティアは口角を上げてセツナを見る。
「少しは楽しめるかしら」
ティアは手をセツナに向け、ツララを飛ばしてくる。
「………」
セツナは同じ攻撃手段にガッカリしてナイフでツララを破壊しようとする。
シュッ
「…これは」
確かにセツナはナイフでツララを破壊しようとした。けれど出来なかった…
そう、そこに落ちていたのはツララの破片ではなく…綺麗に切断されたナイフだったのだ。
「込める魔力の量を調整したらそんな刃物意味ないわよ」
「………」
ナイフをその場で捨てる。しかしセツナはナイフ一本しか持っていない。それ以上必要ないと思っていたからだ。そしてツララにやられたのか腕から血が出ていた。
「その武器捨てていいの?もう無いんでしょ?」
「無ければ創ればいい」
「…へぇ」
気付けばセツナの手には血のように真っ赤な剣が握られていた。
「地面に流れた血を剣の形に固めたんだ。それはユニーク?」
「さぁな」
地面には腕から流れ落ちたはずの血が一滴も無い。これはセツナが以前、魔法の使い方を知った時に思い付いたのだ。
【血の支配】、この能力は半径五メートルの全ての血を自由に操れるのだ。
「腕の傷が治ってる…?」
「なんだ、何もしてこないのか…じゃあ」
「ッ!」
次の瞬間、部屋は黒い霧に包まれる。セツナが【闇玉】を霧状にして部屋にまいたのだ。この霧で視界が悪くなると同時に、生命力を吸い取れる。問題は術者であるセツナの視界も悪くなることなのだが、ルナとの契約から瞳の色が赤くなり視界はクリアになっている。
吸い取った生命力はルナと共有が出来る。
『むっ!ティア!左右から来るぞ!』
「こ、これは!」
ガキィン!
「ほう、それも魔法か」
セツナは血の剣でティアを刺したつもりだった。けれどティアの手前で謎の壁に阻まれたのだ。
『グッ!』
「ギン!?」
黒い霧で状況が分からないが、ティアは相棒の精霊の苦しそうな声を聞いて思わず名前を呼ぶ。
パリンッ!
そしてセツナは謎の壁を物理技で破壊し、ティアに迫る。
「くっ!」
「終わりだ」
セツナは血の剣を振り下ろそうとする。しかしそれが振り下ろされることはなかった。何故ならセツナの手は凍っていたからだ。おそらくティアの魔法だろうと察したセツナは凍っていない足で回し蹴りを喰らわせる。
「キャア!」
『ティア!?こ、この!しつこいぞ!』
『セツナの邪魔はさせないよ』
黒い霧の向こうではルナがギン(竜)を攻撃しているらしい。
『これは…黒薔薇!?』
ギンの言葉を聞く限り、ルナは【あの力】の一部を使っているのだろうとセツナは察した。
「さて、ティア…とか言ったか?いきなり襲った理由を聞こうか」
「…フッ」
ティアがクスッと笑うとセツナは身体の動きを止める。その様子を見たティアは立ち上がる。セツナは先ほどの回し蹴りで身体の何本か骨は破壊したつもりだった…いや、確実に破壊していた。けれど平然と立ち上がるティアを見てセツナは驚きを隠せない。
「何故…グッ」
理由を問おうとしたが、セツナは息が苦しくなる。
「貴方の周りに結界を張ったわ、どう?息も出来ないでしょ?壊そうとしても無駄よ、私の結界の硬さは…」
バギッ
「…へ?」
「確かに硬いな、向こうではこんなに硬いものは見たことがない」
「う、嘘でしょ?込められる魔力の量はあれが最大なのに…それをあんなに簡単に?」
「それで?襲った理由を答えろ」
「遠距離がダメなら…」
ティアは氷で剣を創り出す。それを持って走ってくる。どうやらセツナと剣で勝負するらしい。
「………」
「やぁ!」
「それは真面目にやってるのか?」
「ッ!」
ティアが剣で襲い掛かってきた姿を見てセツナは溜息を吐きながらそんなことを言った。
セツナは剣を床に刺し、氷の剣を手で掴む。
「これならさっきのほうがまともだな」
バギッ
セツナは無表情で氷の剣を砕く。そしてセツナはティアが次の策を即座に考えているうちに腹を殴り壁に飛ばす。もちろん相手は女性なのでセツナは手加減した、手加減しなければ腹が貫通する。
「クッ、どうすれ……」
バンッ
「……ば?」
ティアは隣の壁を見る。すると壁には穴が空いており、そこには血が付いていた。
「範囲内から飛ばせば銃弾並みの威力はでるらしいな…」
目の前にはそんなことを言っているセツナがいた。セツナの【血の支配】は半径五メートルが範囲だが、その範囲内から固めた血を飛ばせば銃弾並みの威力を発揮するのだ。
「もう聞くの面倒くさいから殺すか」
セツナは地面に刺した血の剣を大量の銃弾のサイズに変える。
「ひっ!」
「お前は俺の敵だ、だから敵は殺す」
そして血の銃弾はセツナの合図で一気にティアへ撃たれる。
『世界は月下に染まる』
飛ばした瞬間、そんな声が聞こえる。その次の瞬間………
「白い…花?」
部屋の至るところに白い花が咲いていた。
「闇玉も消えているな…何が起こった?」
辺りを包む黒い霧も消えていた。セツナが自分から消した訳じゃない、強制的に消されたのだ。
「あの女は…!」
セツナは白い花が咲く前に血の銃弾で殺したはずのティアを探す。そしてティアのいた場所には…
「茨の壁か…」
血の銃弾は白い花の茨に受け止められていた。正確には茨の集合体が盾となって守ったのだ。
茨の壁は生き物のように何処かに消える。茨の壁の中からはティアとその精霊、ギンがいた。
「助かったわ、ギン」
『ふん、油断しよって』
「だってセツナ君が超強いんだもん!」
『そうじゃな…あのルナという娘の方も人型精霊とは思えぬ強さじゃ、逃げるので精一杯じゃった…』
この白い花はあのギンという精霊がやったのだと即座に理解する。それと同時にルナを探す。
『セツナごめん、あの竜、変な言葉言ったら突然消えて…』
「ルナ姉、変な言葉って?」
『うん、世界は月下に染まるって言ってた』
「なるほど…それが奴の能力か」
そんな会話をしながらティアとギンをどう倒すか思考を巡らせるセツナ。
『おい、そこの小僧』
「セツナだ」
『そうか、ではセツナ。この勝負はお主らの負けじゃ』
「なに?」
『この部屋はもうワシの支配領域となった。普通の魔法は発動できぬし、ワシの命令一つで…ほれ』
ギンが指を軽く動かすと、白い花の茨がセツナとルナの足を絡めて動けなくする。
「なるほど、普通の魔法は無理か」
セツナは闇玉が発動出来ないのを確認すると血で銃弾を一つ作成する。
「ユニークはいいみたいだな」
銃弾を飛ばすが即座に茨の盾が現れ防がれる。
『無駄な足掻きは止せ、その茨はあと十分もすれば身体全体を包むじゃろう。そうすれば息も出来なくなりお主は死ぬ』
「そうか、この状況じゃ確かに死ぬな」
『だろう?だから』「だが」
竜の言葉を遮り、セツナはニヤリと笑う。
「この状況だったら…だろ?」
『…何が言いたい』
「ルナ姉、出来るか?」
セツナはルナに問いかける。その問いにルナは『もちろん、準備は出来てるよ』と答える。
『何をしても無駄じゃ!ワシの支配領域である限り…』
「支配領域である限り…なんだろ?」
『ま、まさかその小娘の能力は…!』
ギンが気付いた時にはもう遅かった。ルナはもう準備を終え、いつでも使える状況だった。
『黒薔薇の庭園』
ルナがそう言い放つと、白い花は全て消えて黒い薔薇の世界に包まれた。
これがルナの能力、ルナの好きな場所を【支配領域】にする力。
その能力は最大で日本全域を包むことが出来る…
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