10、異世界突入
「じゃあ母さん、行ってくるよ」
「えぇ……その、気を付けていってきなさい」
『私がいるから大丈夫ですよ!』
「………うん、ルナちゃん、頼んだよ」
この日、セツナとルナは予定通り異世界へ行くことになっていた。本来はミライも来る予定だったのだが、先日の一件で「私には母親の資格がない」と言って拒否をしたのだ。
「向こうに着いたら私の知り合いがいるからそいつを頼るんだよ」
「わかったよ、それ言うの何回目だ?」
昨日からこの言葉は何度も言っている。しかし、セツナは毎回違う反応をするのでミライは嬉しくて仕方ないのだ。
ついこの間まではセツナは「了解だ」の一言で済ませていただろう。
それが変わったのだ。昔のようにまた話せる、その実感が欲しいためにミライは何度も言うのだ。
「ルナ姉、早く行こう」
『はいはい、セツナはせっかちさんだね~』
「それとセツナ」
「ん?」
「…すまなかった」
「………あぁ」
そんな挨拶をして、ゲートを潜るのであった…
♢♢♢
ルナはゲートからどんなに離れても魔力が注ぎ込まれる。それは異世界でも同じらしい。
三年間、常に身体に魔力が入り続け人間の身体が負荷に耐えられなくなり精霊となっているのだという。それから五年間もゲートから魔力は送られ続けている。
ゲートの中を進みしばらくそんな話をしていると、小さな光が見えた。
そして光を追うように進むとそこには…
「おぉ…」
『すごいね~』
辺りには異世界の住民と日本人が一緒に会話していたり、見たこともない魚が露店で売っていたり、魔物をペットのように連れている人もいる。
セツナには目に映る全てが新鮮だった。
「君、セツナ君だよね?」
セツナとルナが辺りを見ていると、セツナに突然話しかけてきた人がいた。優しそうな雰囲気の細い男性だった。
「…あんたは?」
「ワタル教授の元部下…かな…へ?」
セツナは気付けばその男の後ろに回り込みナイフを首に添えていた。ワタルの部下、その言葉を聞いてセツナはルナを守るために動いたのだ。
「質問に答えろ」
「は、はい…」
男の顔は青ざめていく。
「お前はルナ姉の敵か?」
「ルナ姉…?あぁ、ルナちゃんの事か…そうだね…僕は最後まで教授を止められなかった。だから敵なのかもしれない…あの時は本当にすまなかった…」
「………」
セツナは男の言葉でワタルの計画を止めようとしていたと判断しそっとナイフを戻した。
『ちょっとセツナ!謝りなさい!』
「…すまなかった」
セツナはルナに言われ渋々謝罪の言葉を口にする。
「いや…君がルナちゃんを失ったあとどんな日々を過ごしてたか知っているからね…ルナちゃんは残念だったけど…」
「何を言っている?ルナ姉はここにいるぞ」
セツナはそう言ってルナの頭に手を置く。
「え?何もいないけど…あ、そうか…セツナ君は幻覚が見えるまでに…」
『何か凄い誤解されてるけど…』
「ルナ姉、今霊体化してる?」
『うん!だから今私の姿が見えるのはセツナだけ!』
「…頼むから実体化してくれ」
ルナは精霊になってできる事が沢山あった。【霊体化】と【実体化】もそのうちの一つだ。
【実体化】の状態では周囲の人に見える。しかしルナは良く歩き疲れると【霊体化】するのだ。
【霊体化】の状態では契約者のセツナ以外には姿は見えず声も聞こえない。霊体化と言っても物には触ることが出来る。そして浮いている状態になるので歩く必要もなく楽らしい。戦場でセツナの動きについてこれる理由は【霊体化】しているからだったりする。
「セツナ君、ルナちゃんは…実はもう…」
『お久しぶりです!キクチさん!』
「へ?ルナちゃん!?ウソォ!」
男の名前はキクチというらしい。
「な、なんでルナちゃんが…?」
『セツナの契約精霊になったんです!』
「精霊!?」
「驚いてるところ悪いが、案内をしてくれないか?」
「あ、あぁ、そうだったね。ごめんごめん」
驚きを深呼吸で落ち着かせると「さぁ、こっちだよ」と言われる。セツナとルナはそれに着いていく。
向かう先には駐車場があり、キクチは自分の車に乗るように言う。
「この車はね、魔力で動くようになってるんだ」
『変なところで異世界ですね』
「空気汚染とかあるからね、しかも魔力1だけで十キロは走るから便利だよ」
キクチはミライに何も教えてもらえていなかった。ただ【セツナを送るから面倒を見ろ】それだけ書かれた手紙を受け取ったという。
「そういえばセツナ君は五年前、向こうで何してたんだい?」
「戦場で敵兵を殺していた」
「え!?」
「それ以外は特に何もしていないな」
「そ、そっか……でも、十歳からってわけじゃないだろ?」
「いや、十歳から四日前まで毎日に日課だ」
「セツナ君…」
「どうした?」
キクチは突然振り返る。その時のキクチの瞳は潤んでいた。今にも泣きそうであった。
「セツナ君、僕をいつでも頼っていいからね?」
「いや、大丈夫だ」
セツナは無表情で即答する。そしてセツナはルナを抱き寄せて言う。
「今はルナ姉に頼ってる状況だが、いつかルナ姉を守れるようになる。それが今の目標だからな」
「そうか…そうだね。いつかルナちゃんを守れる男にならないとな!」
『えー、お姉ちゃん少し寂しいな…』
そんな話を一時間ほどしている内に目的地に着いたようだ。メーターには時速50キロと表示されていたので50キロほど進んでいるだろうとセツナは予測していた。
セツナは通った道も全て暗記している。その警戒は長年の習慣というもので中々取れるものではなかった。
「セツナ君、別に警戒しなくてもいいんだよ?」
「え?あぁ、別にそんなつもりは…」
『セツナ、道を曲がるたびに右とか左とか口に出してたよ?』
「すまない…」
「いや、相当な環境で育っていたらしいし、そうなるのは仕方がないと思うよ。それより着いたから降りようか」
「ここは…?」
着いたところは巨大な門だった。門の隣には【王都第一学園】と書かれていた。門の向こうには綺麗な校舎がある。
「セツナ君がこれから通う学校さ、ちょうど三日後は入学式の時期だからね」
「…通、う?」
『入学式…?』
「セツナ君はもう十五歳だろ?普通なら今年で高校生な訳だ」
確かにセツナは十五歳で高校生なのだが、十歳の時から戦場で生きてきたのでまともな教養を受けていない。更に受験を受けていないので高校に通えるわけがないのだ。
「この学園は異世界人と日本人が一緒に学んでいるからね、学歴なんて関係ないんだよ」
「…そうか」
「ここの学園長には君の上司が働きかけてくれてたみたいでね、まずお金の心配はないよ」
「そういえば、俺はこっちの金を持ってないな…」
「え?君の上司は五年分の働きに見合ったお金を渡したと言っていましたが…」
『私が持ってるよ?』
「なんでルナ姉が持ってるんだよ…」
『セツナは無駄遣いしちゃうからお姉ちゃんが管理してるの!』
セツナはルナが人間だったころは、あっても使うか分からないようなものを買っていた。とはいえ、セツナは十五歳なので流石に無駄遣いはしないはずだが、ルナに任せた方が良いと判断したセツナは特に言わないことにした。
ルナは家事と共に家計簿の管理もしていたのだ。無駄なく予算を配分し年齢に見合ったお小遣いをセツナとステラに渡し、もしもの時のために貯金もしてあった。
「それとこの学園では二週間前は子供達が馴染めるように寮生活が出来るんだよ」
「俺は今日からここに住むわけだな」
「そういうことさ。じゃあ入ろうか」
『はーい!』
「そういえば…ルナ姉どうするんだ?」
『ん?お姉ちゃんもセツナと一緒の部屋で過ごすけど?』
「「え」」
ルナの放った爆弾発言を聞いてセツナとキクチはただただ、驚くことしか出来なかった。




