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バイオレンス魔法少女  作者: 川澄
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004.真相編。見城アキの視点から、

(このお話は5分で読めます)

私は敵を目の前にして変身能力が発動できなくなった。

「変身が出来ない…どうしたらいいの?このままじゃ、やられる」

「変身できない相手でも、こっちは容赦なく攻撃するからな。死ねい」

敵の少女は両手で天を仰ぎ、まぶししい光を自在に操った。

「待って」

声もむなしく、私の身体は、光の魔法にあっけなく吹き飛ばされた。 私は自分の命が消えていくのを感じた。そして、夢からの目覚め。


朝。また、朝が始まる。

私はカレンダーと時計の針を見る。十一月十三日 七時三十三分。

夢の中で殺されたとき感じた痛みの感覚がわずかに残るが、これが夢だとわかったらすぐに痛みは消えた。 また今日も同じ、いつもの辛い夢からの目覚めだ。

タバコを取り出し、火をつける。

悪夢の苦しみから目覚めれば、次は親友、"見城みしろアキ"を失った寂しさが込み上げてくる。


(真相編。見城アキの視点から、)


八月下旬のある日。

私、見城アキは、大学二年の夏休みを利用して、はるばる京都へとやってきた。

修学旅行で京都に訪れて以来、久しぶりにこの土地へとやって来たのは、司法試験の合格を目指す高校時代の友達から、彼女の進学先である京都まで遊びに来ないかと絵葉書をもらったからで、私は懐かしく嬉しい気持ちでいっぱいだった。

「せまいところだけど、我慢してね」

招いてくれた部屋は、三階建てのワンルーム・マンションの一室で、あちこちに本の山が出来ており、やや圧迫感は感じるけれど、よく片付いていて十分な広さだった。私は、彼女が四人姉妹の末っ子でありながら、なかなかいいところに住んでいるものだと驚いた。

「やっぱりすごいな~法律とかの本ばっかりだね」

「ほとんどチラッとしか読んでない物もあるから、積みゲーみたいなもんなんだけどね」

「何だ、それじゃ私と大して変わんないよ」

そう言って私がにやりと笑ったら、「あんたと一緒にするな」と苦笑まじりの突っ込みが入る。

ああ、これだ。昔に戻ったような嬉しいような懐かしさ。刻が経っても私達の仲って全然変わらないんだ。 あの頃の時間をひるがえってきたようで、嬉しかった。

その時ふと、生ごみが腐ったような異臭がした。これはキッチンスペースからだろうか。 私は彼女の食生活について尋ねてみることにした。

「ねえ、いつも食事はどうしてるの?」

「えっ…コンビニ弁当とか学食で済ませる事が多いわね…」

「うぷぷ、料理下手はやっぱ相変わらずなんだね。未だに鍋とか破裂させたりしてるの?」

「うるさい!破裂なんかさせるか」

「大丈夫。当分は私が面倒見てあげるよ」

「おっ、サンクス!」

「うむ。全て私にまかせるがよい!」

私は部屋の冷蔵庫を開けてみた。

発泡酒2本、サラダドレッシング、マヨネーズ、バター、味噌、卵。卵はいつの卵だろう?。出来合いで済ませられそうなものは何もなかった。

「まずは買出しから必要のようだね…」

私はこの京都滞在中の食事係を任されることにした。頭の中には彼女が喜びそうなレシピがいくつも浮かんでいた。


この部屋を訪れてから、一週間が過ぎた。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、この旅行も明日が最終日だ。 私が通うデザイン系専門学校の新学期が始まるので、私は自宅のあるあの町まで戻らなくてはいけない。 彼女はというと、今日は大学で司法試験の勉強サークルの用事があるという。

彼女は、「なるべく アキと一緒に付き合ってあげたいからサボっちゃおうかな」と言ってくれたが、私は、

「ダメだよ。あなたがずっと弁護士になりたいって言ってたの。しっかり応援してあげなきゃ」

そう言って、強引に彼女を大学へ送り出すことにした。 そうしたかった理由は本当は別のところにある。

今日 私は親友へのプレゼントを選ぶため、一人で街へ出かけるつもりだ。なぜそう思ったのかと言うと、私が昔、誕生日プレゼントであげたアニメ系のアイテムが部屋の中に大切に飾ってあったから。

ごめんね。 どれだけ長く時間が過ぎても、今も自分との友情を大事にしてくれている… 彼女の律儀さに自然と笑みがこぼれた。

今度はもっとちゃんとした物を贈ることにするよ。つまんない自己満足のプレゼントじゃなくてもっと女の子らしい物を、だね。

部屋の玄関ドアに鍵をかけて、マンションの三階から二階へ降りる階段の踊り場でばったりと冬木と遭遇した。

冬木は高校時代のクラスメイトで、あの子と妹の春歌、そして私の三人でよく一緒に過ごした仲だった。

「おう、アキじゃんか。久しぶりじゃね」

「冬木?どうしてここに?」

「私もアイツの近くに住みたくて、マンションも同じにしたんだ。今は京都で就職もしているんだよ、まだ全然ひよっこのスポーツインストラクターなんだけどなー」

「へぇ、全然知らなかった。何であの子はこのことを教えてくれなかったんだろう…?」

「あいつってそっけないんだぜ。遊びに行っても部屋に入れてくれないし、顔合わせても挨拶もしてくれねーしさぁ」

私は思った。そういえば、あの子はいつも勉強ばっかりで、冬木にはあまりなついていなかったからだ。私はそのまま冬木の部屋に招かれた。

「おー、広い。さすが社会人は違うね。 あっちの部屋より広いじゃん」

「そんなことないってば。つか、ここはみんな2LDKの間取りだし」

「えっ?でも…」

冬木としばらく話した。冬木は時々、何か引っかかる点があると口にした。先ほどから特に気になる何かが思い出せないでいて、不明瞭な感覚があるそうだ。

私もまた、ある違和感をはっきりと感じていた。私は一度、出かけずにあの部屋に戻ることにした。


おかしい。やはり一部屋しかない。しかし確かに冬木の部屋は、リビングと六畳間が二つ。 さっきインターネットでこの物件の間取り図を見せてもらったけど、やはり冬木の部屋は一部屋多くある。いや、この部屋に一つ部屋が少ないのか。

私は、室内の壁を探ってみた。怪しいのは一面に並んだ本棚、隠された物を頑なに閉ざすように並んだ書籍の列。ここに扉があるようだ。

私は彼女がいない今のうちにこっそり本棚をずらしてみることにした。たくさんの本を棚から降ろすと、棚の裏にベニヤ板が立てかけてあることに気がついた。

板をどけると、ようやく少し扉が見える。更に時間をかけてようやく私の小さな体が一人分通れるくらいの隙間を作ることができた。

私は彼女に悪いと思いつつも、その隠し部屋の中に進入を試みる。もし何か辛い悩み事でも抱えているなら、今の君を知りたいと思うから。


「うっ」


私は吐き気をこらえ切れず、うずくまってしまった。

そこには以前の生ごみの腐ったような匂いがますます強烈に立ち込めていたからだ。

薄暗い部屋の中央。ガスコンロの上に乗っている、一人暮らしにはやけに大きな寸胴鍋。腐臭はそこから放たれていた。

フタを恐る恐る開けてみると、にごった汁にまみれて、ところどころ金粉のようなものが浮いている。

この鍋は何なのだろうか。そもそもこれはあの子がやっている事なのか?こんな隠し部屋で一体何を煮込んでいるのだろうか?

近くにあった菜箸さいばしで鍋の中身をすくってみると、黒く青い髪の毛のような物が巻きついてきた。 この髪の毛は何か。

思わず驚いて倒れたところに何かに手が当たり、電気が付いて部屋が明るくなった。室内灯のリモコンに触れたらしい。

初めてこの部屋の全容が明らかになる。散らかった辺りを見渡してみると、

文化祭でのチアダンスのときに皆で撮った写真、ラテン語で書かれたような古い本、新聞記事や週刊誌の束、人の骨らしき欠片かけらや動物の死骸のようなもの。

そこはまるで悪趣味な黒魔術か何かの実験施設のようだった。私は身震いと鼻を刺すような異臭をこらえつつ、あたりを探った。

新聞や週刊誌の見出しは、「サイコパスの殺人鬼」「通り魔 襲われた女子大生(20)死亡」とあった。殺害された被害者の氏名、その見慣れた文字に私は目を奪われた。

何者かに殺害された県内在住の女子専門学校生、「見城アキ」。 私が殺害されたニュースを伝える記事だった。いずれの媒体も三年前の同じ日付を私の死亡推定日時として伝えている。もちろん私は殺されてなどいないし、地元での通り魔殺人などと、そんなニュースは聞いたことがなかった。これは一体、何の冗談なのだ。

かたわらに「DIALY」と表紙に書かれたぼろぼろのノートを発見した。彼女の日記帳と思われた。部屋が匂うのも気にせず、私は夢中でその日記帳のページをめくった。


「…200X年八月二十日。

ついに私は魔女のカを手に入れた。

まだ信じられない。私、死んだアキを生き返らせることが出来たの。

修学旅行の思い出の地、京都で再開した私達。アキは私が守るんだ。


八月三十一日。

古書店で見つけた黒魔術の本を読んでいろいろわかってきた。

この魔法は完全じゃないみたい。重要なのは、死んだ本人が魔法の事を知ると魔法が解けてしまうってこと。そうなったら大変。絶対ばれないようにしなきゃ。

それと、この魔法には他にも、術者に対していくつかの代償がある。


――代償1.その能力は己を孤独だと感じていなければ、その力を発揮、維持できない。

私は毎日 親しい友だちが誰もいない大学へ行く。どうせ友だちなんていないんだし、これは平気。ただ、魔術で記憶を操作してある冬木には悪いことをしているな。

家族との繋がりは、貯金通帳を開いて確認する仕送りの金額。それ以外ほぼ無くなった。

アキさえ生きてくれさえいれば私はきっと幸せ。それだけで私は十分なのだと自分に言い聞かせている。


――代償2.永久に悪夢に悩まされる事。

私は夜、必ず悪夢を見る。正確にはこれらは悪夢ではない。無数にある私の可能性の一つ一つ。亜種平行世界線での出来事。

昨日は春歌に殺される夢、その前は私が皆に仲間外れにされる夢、その前は私が子供の誘拐犯になる夢。

時期を変え、場所を変え、幾度かはハッピーエンドで終わる夢、旅先で親切な人々とめぐり合い、救いを得られる夢も見るかもしれない。

しかし、すべては夢の繰り返し、孤独な現実は私の精神を蝕み、悪夢は私をさいなみ続ける。私の不幸と孤独は生涯永遠に続くのだろう。

だけど、私はどんな犠牲もいとわない。 "彼女"の生命の器が満たされるために。その優しい魂が存在を信じ続けるために。」


日記はたったこれだけだった。ここで全て終わっていた。ふと、足元に何かが触れるのを感じた。

髪の毛だ。突然、私の髪の毛が自然に抜け、足元に落ちている。何本も、何十本も。

枯れ葉でも散るように、黒く青く光ったフィラメントの束が、自然と崩れるようにぷつりと千切れた。

手に取ると、髪の毛束はいくらでも腕にからみついた。

すると、今度は急に喉のけ付くような不快感、強烈な吐き気と共に胃液がこみ上げてくる。

私は堪えきれずに倒れし、床に向けて酸っぱいつばを垂れ流した。苦しい。死んでしまう。救急車を。

いや、どうやら一一九番は必要なさそうだ。私は自分の身体が徐々に透明になっていっていることに気付く。

そうか。

もう亡くなっていたのか私は。私は、私が崩れていくのを感じた。


完。

最終回です。ご覧いただきありがとうございました。


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