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バイオレンス魔法少女  作者: 川澄
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002.キャンパスライフ!

(今回のお話は7分で読めます)

私は天才魔法少女。私にはマジカルパワーが宿っているのだ。

「それは正しくはスペシャルぼっちパワーという言うのだわん・・・。スペシャルぼっちパワーというのは、やたらノリが悪くて、服装がヤバイ、 おまけにKY(空気が読めない)という三拍子そろった、つまり今の君の様な孤立したぼっち大学生に秘められた潜在能力の事で、ぐえっ」

「むぎゅうっ」

「げほふぇほえほ・・・く、苦しい!背後からツインテールで首を絞めないで欲しい」

23歳と3か月にして魔法少女になった私は、長い髪をサイドでまとめ、形から魔法少女道を究めることにした。ツインテールはチョーク攻撃、つまり器官圧迫にとても効果的だ。世間で売れている魔法少女は、魔力が切れたら物理も使うものだ。今度、敵にも試すとしよう。

「それはそうと、前回はあたしの大活躍で悪のXXXX団を追い払ったのよ!ちょっとはあたしを褒め称えなさいよね」

「大活躍じゃないわん!危うく街が全住民ごと消滅するところだったんだから」

「うーん、もともと何にもない地方都市だったからねぇ」

「まあ確かに・・・い、いや、それだけは正義の味方として、言ってはいけない気がするから・・・とりあえず次からは、少しくらい正義の味方としての節度ある行動を・・」

「あーはいはい。今、アニメに夢中だから後でね」

「こらぁぁぁ、ワンワン、ワンワン!ちゃんと聞けぇー」

シッ!私は慌てて犬の口を抑えた。あまりワンワンと吠えられると他の住民に大家さんへ通報されてしまう。私の住む木造アパートでは、当然ペット禁止なのだから。

時計は午後1時半を指していた。

「それはそうとご主人様、そろそろ制服から私服へと着替えないと、また大学に遅刻するわんよ」

今、私は厚手のカーテンを閉め切った薄暗いアパートの部屋の中で、高校時代の制服姿のままパソコンに向かっている。

大学生になってからも私は大好きだった高校時代の制服を着ては昔を思い出しているのだ。

「はーい、はいはい」

私は生返事をしつつ、制服を丁寧にハンガーにかけてクローゼットにしまった。

「23歳にもなって、自分から好んでセーラー服を着てくれる女の子はなかなかいないわん。彼女を魔法少女に選んだ僕の選択は正しかったわん・・・」

堕落した主人に悟られぬ様、野獣は密かに目を光らせた。

「じゃあ、一応四時限の出席だけとって来るから・・・お留守番お願いね」

「いってらっしゃい!」


結局今日の私はついついアニメの録画に夢中になってしまい、四限目のミクロ経済学の授業からの遅い登校になった。

もう弁護士の夢なんかもうとっくに挫折しているのだし、魔法少女という世にも珍しい就職先(?)を手に入れている今、この際大学なんか

何年留年しても構わないといった心境に達しつつある。そんな投げやりなことを考えつつ、私は授業の行われる講義室に入るなり、言葉を失いかけた。

講義室の中はいつもは閑散としているのに、今日はリア充そうな学生でいっぱいだった。

どこを見渡しても幸せいっぱいのリア充・・・。リア充の山。

「い、息苦しい・・・これじゃどこにも座れないじゃないのよ・・・何なの!!?何なのよ・・・・」

古今東西、ヒーローにも弱点はつきものだ。ぼっち魔法少女ヒロインの場合、リア充に囲まれて授業を受けてはいけない。それではとても精神カが持たない。

出席を取ることも出来ずに慌てて構内から逃げ出したところ、学ラン姿の怪人が学生を追い掛け回して毒電波を飛ばして襲っているのが見えた。

本日の敵登場である。

「うははははは!この大学の学生をマインドコントロールしてリア充だらけにしてやる。意欲と活気に溢れた優秀な学生を大勢増やして、卒業した後は更に洗脳を強化して悪の組織の構成員に無理やり就職させてやる。そうすれば、東日本征服などあっという間に果たしてくれるわぁ!」

「すべてそういう事だったのね。キャンパスをリア充だらけにするだなんて、なんて残酷なマネを。ぼっちはただでさえ大学生活自体が苦痛だというのに・・・」

さぁ、スーパーヒロインに変身だ!悪を蹴散らして正義を示すのだ。

らき☆すたーりんぐいんふぇるの(魔法のステッキ、普段は13センチくらいのサイズで携行に便利なのだ!)をかばんから取り出し、私は変身のポーズをとった。

「マジカル少女参上、悪魔はとっとと地獄へ帰りなさい!」

「ははは!現れたな。今こそこの前の恨み、晴らしちゃるぞい」

そのとき私の電話の着信音が鳴り響いた。

「ん?メールだ・・・。春歌はるかとお父さんから?・・・なになに・・・んんん!?」

「どうした?戦わないのか、狂戦士」

「あんた、ちょっと一緒にうちまで来てくれない?」

「はあ?」

私は怪人を連れて電車で一時間あまりの実家へと向かった。


夕方五時。神社の境内の隅っこにある私の実家。

今日は、妹が専門学校で知り合って出来た彼氏を連れて来ている。

先ほどのメールの内容は、今日は春歌に初めて出来た彼氏の小清水こしみずくんが遊びに来るから、家族みんなで夕飯を食べようというものだった。

春歌と小清水は二人きりで、リビングで仲良さげにくつろいでいた。春歌は編み物をしながらテレビを見ている。ケーブルテレビのチャンネルで洋画が流れているのは、たまたま見ているのであろう。

春歌は料理も編み物も大得意。今編んでいるのは、小清水にプレゼントするマフラーだろうか。

その光景を怪人と私はリビングの引き戸の隙間から、こっそり覗いている。

「小清水くん、もうすぐ完成するからね」

「やっぱ春歌って、編み物上手いじゃん。出来上がりが凄く楽しみになってきた」

それにしても、大学ぼっちの私を差し置いて妹が先に彼氏を作るとは。妹はいつも私の後を着いてきたはずだった。私に憧れ、高校も私と同じ進学校に行きたいと言ってくれた。そうだ、そのために私が成績の足りない妹の勉強を一年間かけて見てあげたのだ。

「春歌の奴・・・妹のくせに・・・あなくちおしや・・・・。あ、そうだ!いいこと思いついた! お前、あとで完成品のあのマフラーを股間に巻いて皆の前に出てきなさい!」

「えぇっどうしてですか、っていうか、それはいくら何でもマズくないですか?」

「やるといったらやるのよ!これはサプライズなのよ。びっくりイベントを起こして、春歌を驚かせるの!出来るわよね?」

「まあ、汚れ芸人としてはやれなくもないですが・・・」

この男は話してみるとまあ悪くない奴だった。怪人は声優を目指してアルバイトに励んでいた。なかなかいい役がもらえず、金に困っていた矢先に悪い仲間からいい稼ぎ口があると誘われ行き着いたのがテロ集団だったというわけだ。


午後7時過ぎ。今日の夕飯のメニューはすき焼きだった。

父、母、姉二人、私、春歌・・・家族全員が集まり、そしてお客さんの小清水が食卓についた。小清水がビールを注ぐと、父は緊張がほぐれて上機嫌になった。

「小清水くん、たくさん食べて行きなさい」

「ありがとうございます」

しばらく家族たちから小清水への質問タイムが続いたが、ずっと私は無言で肉をほおばった。

「春歌が彼氏を連れてくるなんて、母さん感激だわ。あんたはいつになるかしらね」

などと、母からの軽いからかいもスルーした。

私は春歌が自分より先に恋人ができたことを憎々(にくにく)しく思う感情と共に、怪人と共に仕掛けた悪のたくらみにちょっぴり罪悪感が芽生えてきた。

「ところで、お姉さんは司法試験を目指してらっしゃるんですよね、すごいっす。尊敬するなァ」

「え・・・まあ、別に尊敬だなんて、それほどのことじゃないですから・・・」

ああ、そうか。とっくの昔に挫折したことなんて妹は知らないのだ。留年のことも家族では両親しか知ってはいない。

「お姉ちゃん!どうしたの?さっきから渋い顔しちゃって」

「え・・・いやぁ、何でもないのよ。あはは・・・」

破壊だ。何もかも破壊されてしまえばいい。

春歌。悪いけどそろそろぶち壊しにさせてもらうわ。これであんたもお終いね。

春歌「えへへ・・・今日はお姉ちゃんにプレゼントがあるんだよぉ。私の部屋にあるからちょっと持ってくるね」

「え・・・?プレゼント・・・・まさか・・・」

春歌は立ち上がり、廊下へつながる引き戸を開けた。そこへ予定通り上半身裸の怪人が乱入。

一同呆然。引きまくる家族たち。春歌は突然の変質者の出現に驚いて、しりもちをついた。

「あぱらぱーー!どうだ、赤フン魔人参上だぞぉ!ハァ~すっぽんすっぽんすっぽん・・・」

春歌「えっ・・・誰。 何なの、どうしてなの?・・・ひどいよ。その赤いマフラー、大好きなお姉ちゃんにあげようと思ってたのに・・・、小清水くんにも本を見ながらデザインとか選んでもらって、せっかく苦労して作ったのに・・・」

春歌はぽろぽろ泣き出した。


これは、まずい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!


「うわーもうっ・・・ほらやっぱり言ったじゃないですか!あなたがあんな提案するから、妹さんが泣き出して、大変なことになっちゃったじゃないですか!」

「え、お姉ちゃん・・・?」

「ち、違うわよ。あたしとこの変態は何の関係も・・・」

「お姉ちゃん最低!」

「あぁぁっ・・・待って春歌!!!!」


春歌は二階の自分の部屋に篭ったきり、私が何度呼びかけても返事をしてくれなかった。

すっかり食事会どころではなくなり、小清水くんには帰ってもらうことになった。私は何も言えずに、ただただ小清水くんに頭を下げるしか出来なかった・・・。

その後は気がつくと、私と怪人男は共に居酒屋でやけ酒をかっくらっていた。

「ハァ・・・・。僕らいったい今日は何をやってたんでしょうね」

「うるさいわね・・・。ここ割り勘にしてあげるからもっと遠慮しないでガンガンあんたも飲みなさいよね」

「ええっ・・・、もうカンベンしてくださいよぉ。怪人の仕事なんて給料安いし、それに明日は飲食のバイトの予定が朝から入ってんですから・・・」

「うるさい!飲め!」

今日は最愛の妹が彼氏を連れて来て、家族紹介をして、みんなで一緒に食事をして大切な記念日になるはずだった。

それなのに は、好きでもない男、というか怪人と朝までお酒を飲んで過ごしたのだった。

第三話へ続く。


続きは近日公開予定です。ぜひご覧ください。

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