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バイオレンス魔法少女  作者: 川澄
2/5

(補足・物語以前)

(今回のお話は5分くらいで読めます。)

 二〇〇X年三月。

"彼女"に告白されたのは、卒業式の後のことだった。あんなことは言いたくはなかった。あれは私の本心じゃない。

ありのままの感情を素直に受け止めることができなかった私は、"彼女"を避難した。


「あんた、まだ気づかないの?あたしは・・・・あ、あんたの事が嫌いなのよ、大っ嫌いなのよ。」

「え、そんな・・・嘘でしょ!?」

「あたしはただ・・・ただ孤立するのが嫌で、仲の良い振りをしていただけよ。バカじゃないの!変態!」

「ひどい・・・やめて!」


緑の芝と青い空、遠くからは記念撮影などをして夢中になる同級生たちの喧噪の声、私は逃げるようにその場を去った。背後から泣き崩れる声が聞こえた。誰よりも愛しいその声が。

「い、今更 告白なんてされたって辛くなるだけじゃない・・・せめて三ヶ月は前に言ってほしかったよ・・・そうすれば」

そうすれば、私は県外などには行かずに近場の大学を選んだろう。そして、私は"彼女"のそばにいられたのだ。

私は振り返らずに走った。泣き声がだんだん遠くなっていくのを感じた。

後味の悪い別れだった。そうだ、これでもう、会うことはないのだ。 私はこれから、死ぬほど勉強をしなければならない。夢だった弁護士を目指すのだから。そのために遠くへ行くのだから・・・。時刻はまだ二時半。ほかの同級生たちは浮かれ騒いで、卒業式というイベントのもたらす開放的な余韻を味わっているのだろう。私しか乗客のいない帰りのバスに乗り込むと、どっと涙があふれてきた。ふと携帯の着信ランプに気がつく。開いてみると

新着メールが四件あった。


from:XXXXX|title:さっきはごめんね

from:XXXXX|title:今度のあなたの送別会なんだけど。

from:XXXXX|title:今どこにいるの?

from:XXXXX|title:お願い!返信をして・・・


 "彼女"からのメール。手の震えが止まらなかった。どうして普段通りを装う文体でそんなメールを送ってこられるのか。だって私は。あんなにひどいことを。

バスの中ですぐに私は携帯電話の電池を外し、自宅に戻ると机の引き出しの中に無造作に放り込んだ。そうしたのは全ての誰かからのメールを見るのが怖かったからだ。この机は進学先のアパートへ運ぶ荷物には含まれない。

私は必死に勉強して孤独に耐えなければいけないのだから、これは仕方のないことなのだと自らに言い聞かせた。

もう、地元の友人もいらない。たかが連絡先が通じなくなる程度で切れてしまう、薄っぺらい人間関係じゃないか。


 町を離れるのは四月一日の予定のつもりだったが、私は両親に「早く向こうで勉強に集中したいから」などと理由を付けて予定を切り上げ、卒業式から三日後には逃げるように故郷を後にしていた。三日間、ずっと妹は何かを言いたげだったが、やはり"彼女"からあの時の話を聞いたのだろうか。私は「勉強したいから邪魔しないで!」と乱暴に言い放ってずっと無視をした。

結局、私は自分が傷つきたくないがために大事な仲間との関係をぶっ壊してしまった。

余りにも卑怯で、惨めで、自分勝手。

「春歌、冬木、そして本当は好きだった君・・・ごめんなさい。」


 実家の机の中に置いていった電話は、「連絡が取れなくなると困るからちゃんと持ってなさい!」ってお父さんに怒られて、実家から送ってもらった。でも私は、高校時代からの思い出の詰まったそれを見るのも嫌だったので、すぐにアドレスと電話番号を機種ごと変更したけど、古いほうの端末自体は手元に残してあるので、みんなの連絡先はそれを見ればちゃんと残っている。


 大学二年になった。

司法試験の勉強はわずか一年たらずで断念してしまった。

私はゴールデンウィークも夏休みも正月にも、あれから一度も実家には帰っていないのだから、今の私を家族は誰も知らないだろう。

ぼっち。メンヘラ。不登校児。引きこもり。タバコ依存症。腐女子。ニート。不眠。だめ人間・・・。

高校の時まで優等生だった私が、今では自分を形容する言葉もこのように様変わりしている。大学では一応数人の友人らしきものは出来たが、なかなか勇気が出せず、自分から声をかけることさえ出来ずにとっくに疎遠になってしまった。

ただ人と会話をするだけのことでこんなにも苦しむとは思わなかった。

全く、もう・・・。

今日で何度目かのため息をつく。

ああ・・・こんな時こそあの掛け替えのない友人達に悩みを打ち明け、頼るべきなのだろうが、もちろんそんな勇気はない。そもそもせっかく買い直した電話が今この部屋のどこにあるのかわからなくなっていた。

あの時、孤立したくないから"彼女"と同じグループに仕方なくいただけだと言った私・・・最初のうちは本当にそうだった。

同じクラスの冬木と君は、間違いなく大好きな友達だった。でも二人が他のクラスメイトと話している時は、私は、いつも会話の輪に入っていけずにひとりぼっち。二年生のときも三年生のときも、最後まで私はあの二人以外のクラスメイトとはなかなかなじめなかった。

そんなあたしを君たちは嫌な顔ひとつせずに優しく受け入れてくれたんだよね。特に"あなた"は最高の親友だった。

難関と言われたこの大学に合格したときも、離れ離れになるとわかってて、君は大喜びしてあたしの夢を応援してくれた。

でも学校生活最後の卒業式になって、寂しくて、耐えられなくなったんだよね。君があたしを大事に思ってる気持ちは、あたしは・・・ちゃんとわかってるよ・・・。

グスッ。あなたに会いたい。会って、謝りたい・・・、春歌にも。

いったい、大好きな人を傷つけてまで私が目指した道とは何だったのか。

君は、デザイン系の専門学校へ、冬木は高校の体育教師を目指して京都の大学へ進学した。春歌は栄養士になるため料理の専門学校に進みたいと話した。


「三人共、立派に夢を持ってるのはいいんだが…。しっかり勉強しないと叶う夢も叶いっこないよ。

まああたしが弁護士になれば、金銭的にも二人くらい少し助けてあげられるかも。」

いつかは本気でそんな風に思っていた。 余りにもうかつで、無邪気で、バカな思い上がりだった。

私が助ける・・・?皆を・・・? そんなこと出来るはずがない。いつも助けられていたのは弱い自分の方だったのだ。弱い弱い自分の方・・・。

私はクリニックで昨日、処方されたばかりの睡眠薬を取り出し、眠りについた。


 二00X年八月。私は大学を休学することになった。

 それは、大学に手続きをしに行ったときのことだった。つつがなく手続きを終わらせ、一息つこうかと思い、私はつい最近まで構内の喫煙所だった場所へ行き、ジュースでも飲もうかと考えた。すると、そこにひとりの女の子が休憩所のベンチにうずくまって泣いていた。知っている顔だった。

入学当初、ドイツ語の授業の時に、私に話しかけてくれた菜月なづきまさみさん。ペアを組めずに一人でいた私に声をかけてくれた優しい子だった。

「えっと、まさみ・・・だよね。どうしたの?」

「・・・さん。私ね。優しい世界が作りたかったの。世界中の皆が助け合って、ちゃんと分かり合えるような。でもね・・・今、私がやってることって、誰かを責めたり、憎しみあったり、そんなことばかりで、ね・・・もう疲れちゃったの・・・」

菜月の話は、何がなんだかよくわからなかった。はっきりとは言ってくれなかったが、どうやらサークルの人たちと活動方針か何かで揉めごとでもあったみたいだった。そういえば菜月さんはいつも社会に散々不満があると

話していた。でも私は別に何かに不満があって、世の中を変えてやろうとか思って法律を勉強したり、弁護士になりたかったわけじゃない。

そんな菜月さんの情熱とは、私は常に温度差を感じていた。大学で菜月さんとまだ疎遠になる前、菜月さんは何度か私に自分のサークルに遊びに来ないか誘ってきた。私にはよくわからない世界の、何やら大学と揉めている政治系のサークルだったことを覚えている。そういえば、私はどこのサークルや同好会にも結局行ったことがなかった。

 私は一番初めに菜月さんが口にした、「優しい世界」というフレーズが妙に心に突き刺さっていた。

優しい世界・・・私にとっては、かつての友人たちがいる世界。私が、ぶっ壊してしまった世界のことだ。

多分、もうどうやっても取り戻すことなんて出来ないであろう過去の世界。

 話しているうちに菜月さんは徐々に泣き止んでくれた。ベンチに座りながら、いろいろな話をした。

今自分が楽しいと思っていること、私が拾って飼っている犬の話、大学の友達の悪口、この話題の時は主に菜月さんが話してた。他にも政治とか経済の話などなど。

それでも結局、菜月さんが何がきっかけでそんなに世の中に対して不満を抱くに至っているのかはわからなかったが、きっと自分の力ではどうにも出来なくて、一生背負っていかなければいけない不安、多分そうしたものをずっと抱えてきたのだろうと思えた。別れの際、菜月さんは最後に私にこんな質問をした。


「…さん。あなたは今まで生きていて、幸せだった?」


 生きていてどうだったかなんて、それはもう悲惨で不幸だったに決まっている。だって私は今日、休学も含めて自分の夢を完全に葬りさることを自身に確認するために大学に来たのだから。それでも・・・私は少し考えてから、こう答えた。


「うん・・・、幸せだよ。高校の時に大好きな親友がいたの。あたしはその子に会えて・・・私の人生は、多分すごく幸せだった・・・。今日ね、まさみに会えて、初めてそのことがわかった気がする。」


 私はこれから故郷、あの町に帰ることになるかもしれない。多分、大学にはもう戻らないと思う。故郷へ戻ったところで今はまだ働ける見込みも考えられそうにない。どこか別の大学を受けて、人生をやり直すことになる。自分の欲しかった優しい世界・・・・どこまで取り戻せるかわからないけど、出来る限り頑張ってみたい。菜月さん、ありがとう・・・さようなら・・・・。


つづきは近日公開。 

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