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第35話 凶兆、そして産声あがる

 ラルフ達の獅子奮迅の活躍により……行く手を阻む魔物の気配は消えた。


 毒々しく、悍ましい壁と地面を抜けると――――奥に、さらに禍々しい気配を感じる…………。


 美しく蠱惑的で、殊更禍々しい光を放つ玉が…………人影と共に見える。


 そう。




 ついに――――


「――辿り着いたぞ! 宝玉・『憎悪の泪』……そして賊どもめ!!」


「……間違いないですぞ、ラルフ殿。あれこそ宝玉、そして手配中の盗賊団の首魁!!」


 ――――これまでの門番たちの凶悪さ、強さから想像していた首魁は――――


「――な、なんだあ、てめえら。う、う、上の階を守ってた野郎どもは……ど、ど、何処行きやがったんだ!?」


 予想に反し、ラルフ達の姿を目にしただけで狼狽えている。首魁の隣に2人魔術師と思しきフードを目深に被った取り巻きがいる。


「お前の手下……ジャミル、ミラディ、そして美術館ミュージアムらは、我らが打ち破り、今は我がレチア王国の監獄だ。――賊ども、投降し、すぐにその宝玉・『憎悪の泪』を返せ! さもなくば……王国の名の下にこの場で断罪するッ!!」


 ロレンスは王国属宮廷魔術師の紋章ライセンスを掲げ、強い口調で賊たちに告げる。


「ち、ちち、チキショウ! あと、ほん~のちょっとで……『魔王様』から救いの力を頂けるってのによオ~ッ! 数で圧倒的に不利じゃあねえかああああ…………」


 盗賊の首魁は、頭を抱え、しばし狼狽する。


「……『魔王様』……またそれかね…………まるで神か何かでも崇めるような口ぶり。一体、何があるというのだ…………?」


「……どうせ、魔を崇める狂信者ファナティックにでも吹き込まれたのでしょう。しかし、『救いの力』を頂くとは――――やはり貴様ら、宝玉からこの異常な力を引き出すつもりでいたな!!」


 狼狽していた首魁が――――ゆっくりと頭をもたげ上げ、その淀んだ目をこちらに向ける。


「――――こうなりゃあ、しょうがねエ。やぶれかぶれだ! いくぜオメエら! バラせッ!!」


「来るぞ!!」


 首魁と取り巻きは、ナイフと魔術杖を手にこちらに襲い掛かる。


 だが。


「ふんッ! だりゃあッ!!」


「ぐおおっ!!」


 まず突出してきた首魁のナイフを受けたウルリカだが、まるで手応えを感じなかった。すぐさま切っ先を戦斧で逸らしたのち、強烈な中段蹴りを叩き込む。あっさりと吹っ飛ぶ首魁。


「YAAAAAAAAAAAAOOOOOOOO!!」


 続けて、ヴェラが改造ギターを駆使した音波動を放つ。人体は魔族のような体組成では無いので直接効かないが――――


「ぎゃああああ、ぐべええええろおおおお」


 その凄まじい音圧は、まともに喰らえば耳へのダメージは避けられないだろう。ラルフ達は辛うじて耳を塞いでいたが、音波動の直撃を喰らった取り巻きの一人は三半規管がやられたのか、吐瀉物をまき散らしながら泡を吹いて倒れる。


「風よ!!」


 ロレンスが風魔法でもう一人の取り巻きを薙いだ。バランスを崩して魔術杖を落とす刹那――


「――隙アリだ。」


 ブラックが拳銃を抜き、すかさず麻酔弾を撃ち、腿に命中した。たちまち崩れ落ちる。




「? こんなものか…………」




 なんと。




 もう決着がついてしまった。



 相手に攻撃する隙も無く、修羅場をくぐったラルフ達の技と装備で、全力を出すこともなく、終わってしまった。




「へっ! なーんでーえい! てーんで弱っちいの!!」


 ヴェラが勝利の角笛ファンファーレよろしく、ギターを掻き鳴らして勝利を祝した。


「ぐ……ちき、しょう…………」


 首魁は朦朧としながら、辛うじてそれだけ吐き捨てる。


「どうやら、終わったようだな」


「やったー! これでひと財産ねー!!」


「くひひ。ど~やらあ、俺様の務めもぉ、こ~こまでがあ~……」


「やりましたな、ラルフ殿! すぐにこの賊どもを捕縛しますゆえ、貴方は宝玉を――――?」


 何か。




 何か、様子がおかしい。




「――――あ、アア、ア……ア…………」




 ――――ラルフは、ラルフだけが、ひと際強く感じていた。




 目の前の宝玉・『憎悪の泪』が、まるでとてつもない生物の卵の如く……獰猛に拍動していることを。


 


 ドッド…………ドッド…………ドッド…………




 どんどん、得体のしれぬ拍動は強まる――――!




「え? なになに?」


「ニャニャ!! 宝玉が……まさか――――」







 K Y O O O O O O O O O O O O O O ッ ッ ッ ! ! 





 ――――この世の物とは思えぬ、否。






 この世ならざるモノの、異形の産声が――――世界の総てを呪わんとする邪悪の化身の雄叫びが、遺跡全体を鳴動させた――――





 宝玉は砕け――――中から、『それ』は現界した。




「魔……王――――!!」




 ラルフの面持ちは、今朝見た得体のしれぬ悪夢に怯えたそれと同じになっていた――――

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