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番外編 魔人連合対策本部


 王国内の某会議室にて。


 先日王国を襲った前代未聞の災難、通称「魔人連合襲撃事件」についての緊急会議が行われていた。


 「貴族祭フェスタ」という祭典をピンポイントで狙われたこの事件はしかし、「貴族祭フェスタ」が開催されていたという理由で想定よりも遥かに少ない犠牲で幕を下ろした。

 王国全土から集まっていた腕利きの貴族や冒険者達や、各国から外遊に来ていた実力者の手によって、防衛は果たされたのだ。


 しかし、それでも被害が出てしまった事は覆せない。


 魔物や魔人による被害は天災の一部に含まれるが、だからといって国民の犠牲は許される事ではない。


 魔人がお互いに手を組み、組織を打ち立てる事など誰も想定していなかった。

 いや、何人かは可能性として意見していたこともあったが、それも前例がなかったために仮説を立てるには弱かった。


 今回こそ撤退させる事に成功したものの、今後も争いが続く事は明白であり、一刻も早い対策が必要不可欠である。


 「貴族祭フェスタ」で王都に集合していたこともあり、その会議は速やかに開催されることとなった。



「では……ここに魔人連合対策本部を設立し、第一回魔人連合対策会議の開始を宣言します。本部長は私、フランベリック公爵家のバルトロ・フランベリックが勤めます。各人なにか質問は…………はい、無いようですね」


「進行係はわたし、カリオストロ・ファイナが勤めます。早速ですが、お手元の資料をご覧ください」


 淡々とした開始に反比例するように、その場は緊迫した雰囲気に包まれていた。

 老若男女問わず眉間にしわを寄せ、張り詰めた感情を抑えているのが伝わってくる。


 進行係の指示に従って、その場に集まった魔術師の面々はそれぞれの目の前に置かれた冊子を手に取り、目を通す。

 全員が読み始めたことを確認した進行係は、最初のページの議題から取り上げる。


「今回の襲撃に参加していた主だった魔人について説明します。


 まずは「魔人連合」という組織の名前を告げ、「連合国」の設立を宣言した魔人、「ピュグマリオン・・・・・・・」。大胆にも王座へと直接侵入し、王へと向けて宣戦布告を行いました。


 直ちに近衛兵が取り抑えようとしたものの、「|透明な防壁を作り出す」「相手の次の行動を見抜く」「幻影を作り出す」などの多彩な行動を見せ、次々と集まった魔術師達の攻撃を全て捌き切りました。

 この能力はあくまで目撃者の証言から推測したものであり、詳細は不明。


 また、ピュグマリオンと名乗った魔人本人についても同様に一切の詳細は不明なままです。


 過去のデータにも照合するものは存在しなかったため、少なくとも今回が初めての観測となります。

 人相については、添付されたものを参考にしてください」


 進行係の述べた内容は、その殆どが資料に記されたものをそのまま読み上げただけに過ぎない。

 しかし、その内容に貴族達は唸る。


「王座まで侵入を許すとは、いったい警邏は何をしていたんだ。これは明らかに責任問題になるぞ」


「侵入経路は不明ですが、手段はおそらく「幻影を作り出す能力」の応用だと思われます…………」


「それにしたって、こんな簡単に…………」


「いや、それよりも「魔人連合」の目的はなんだ? 何故わざわざ「貴族祭フェスタ」で戦力が集まっているところを攻めてきたんだ?」


「まずは警備の見直しをするべきでは?」


 それぞれが問題点を指摘し、議論が混沌の中へと向かい始める。


「静粛に」


 進行係の一言で、疑論を始めていた全員が口を閉じる。


「まずは全ての魔人について周知することが先決です。異論はありますか?」


 声が上がらないことを確認した進行係は、一つ頷くと続きを読み上げる。


「次は南門から数キロ先に出現した魔人について説明します。


 全体で百メートルを越える大きさを持つ魔人、識別名は本人曰く「ラヒリウロ」。


 グランベルグ家当主とプロイズ家のご隠居によって足止めが成立、最終的には撤退させる事に成功しています。


 民間の証言によると、巨大化する前の姿が存在しているとの事です。

 三メートル前後の女性の姿と、樹木と獣を掛け合わせた巨人の姿。


 どちらも特徴的というか、一目瞭然なのでよく覚えておいてください。

 こちらも過去の目撃証言は存在していません。新規の手配書を発行してください」



 その後も出現した魔人について、一体一体確認を進めていく。


 そして、とうとう最後の一体へと話が移行する。



「最後に…………フランベリック公爵家長女を攫った後、オリシス家長男であるラムセス・オリシスに討伐された魔人についてです。


 種族はドッペルゲンガー、識別名は「サンリルオン」。


 様々な対象を選択し、その相手に化ける能力を持っています。

 フランベリック公爵家長女を連れ出す際にも、城勤めの侍女の姿を取っていたそうです。


 化けた相手の能力も模範することが可能なようで、離れた場所に移動する力を利用して闘技場へと逃走。


 それを目撃し、追跡したラムセス・オリシスによって討伐されました。


 詳細については資料に記されていますが、不明な点も存在しているため、証言だけではやや信憑性に欠ける部分もあります。


 しかし、こちらは過去にも同一のものと思われる存在が出現しているため、信頼できる情報と判断しました」


 進行係は口を動かしながら、チラと自分の隣のバルトロの様子を伺う。


 自分の娘が危険に侵されたということもあり、バルトロは心中穏やかではないのだろう。

 拳は強く握りしめられ、眉間には何本ものシワが発生している。


 その気迫に押されてか、他の参加者の間にも強い緊張感が漂う。


 そんな口を開き辛い雰囲気を切り裂いて、進行係は話を進める。



「以上が、今回の襲撃の主要メンバーです。この情報を前提として、会議を進めたいと思います。まずはーーーー」


 その言葉をきっかけとして、議論は白熱していく。

 国の主要施設などの警備体制の見直し、各国への情報の共有と戦線の同盟、国内での交通に必要な身分証明の方法。


 魔人が手を組み、組織的な侵攻をしてくる事で発生する様々な問題への解決案の提示。


 議論を尽くしても尽くしきれないほどに、課題は山積みだった。


 しかしそれも時間の流れとともに一つ、また一つと結論がうまれ、対策が定められていく。


 何度も休憩を挟み、一晩が明け、また一晩が明けた。


 これ以上語り尽くすことが出来ないほど全員が疲弊し始めた頃、静かな場にポツリと誰かの独り言が響いた。



「ーーーーでも結局こいつら、何がしたかったんだろうな」


 本当にただ口から漏れてしまっただけ、といった様子で発言者は言葉を続ける。

 背もたれに身を預け、天井を見上げて口を開く。



「これだけ大規模な行動を起こしておいて、結局は手駒を一人失って撤退だろ? 流石に人材の運用が下手くそすぎるんじゃないか? ………………だって、そうだろ? ドッペルゲンガーなら王の暗殺だって出来たわけだし、わざわざ公爵家の長女を攫う必要なんかないじゃないか」


 その言葉に反応して、他の貴族も口を開く。


「少なくとも、やろうと思えばもっと此方に被害を出せた………………そういうことだよな?」


「だいたい、なんでラヒリウロは南門からあんなに離れた場所に出現したんだ? もっと門の近くに…………いや、そもそも他の魔人の手引きがあれば侵入も出来てたんじゃないか?」


「確かにそうだよな…………魔人の脅威度に対して被害も少ないし…………」


「いや、おかしくないか? こいつら全員がほぼ同時に撤退したんだよな? なんで撤退したんだ? タイミング的にはサンリルオンが倒された直後らしいけど、それを察したのか? そこまで情報のやり取りが出来ているのなら、もっと効率的に攻めることも可能じゃないか?」


「侵攻する以外に、何か目的でもあったのか?」



 冷めかけていた空間に、急速に熱が篭っていく。

 「魔人は人を襲うもの」という前提に捉われ、疎かになっていた部分へと言葉のメスが切り込まれる。



「戦力の分散が目的だったのか? 各個撃破するためにわざわざ存在感を主張したのかもしれない」


「少なくともピュグマリオンが王に危害を与えなかった理由にはならないだろう。あいつの攻撃で倒れた奴らは全員気絶止まりだった。それは何のためなんだ?」


「宣伝だったのかもしれないぞ? 自分たちの存在をアピールすることで、今後の奴らの活動に益がある可能性もある」


「確かに…………他国の使者がいる以上、一度で人類全体に宣戦布告することはできるが…………」


「じゃあ、それは何のためだ? 敵を増やして意味なんてあるのか? 魔人だからって理由で片付けるのは思考停止だと思うぞ」


「やっぱりおかしい。やってる事の規模と現実の被害が釣り合わなさ過ぎる。こちらは先手を取られたんだぞ? こちらの戦力が整っていたからといって、これは明らかに出来が良過ぎる」


「なんだ…………何かを見落としているのか? だとしたら、それは…………」


 結論の出ない議論、疑問だらけの行動。


 魔人達のとった行動は、考えれば考えるほどに不自然で意味不明なものが多かった。


 気のせいで済めば、何も考えていなければそれでいい。


 しかし一度膨らみ始めた疑心というものは、決して簡単に頭の中から振り払われるものではない。


 積極的でありながら一歩も前に進まない会議の中で、一つの言葉が響く。



「陽動…………って事は考えられないか?」


「陽動? 確かに、南門前は気を引くための行動と取れるし、西門前は露骨に時間稼ぎだと思われるが…………」


「いや、そんなレベルの話ではない」


「? どういう事だ…………?」


 全員が注目している中で、一人の男が考えを述べる。



「もし、もしも、だ…………もしも、この魔人全員・・・・が陽動の為だけに暴れていたとしたら、その目的は…………どう考えられる?」


「バカな、ありえないだろう。だとしても、それはーーーー」




「ああ、なんの意味もない・・・・・・・・



 不確定な話だと念を押した上で、その瞳には確信に近い何かが宿っていた。



「だが、少なくともこの魔人全員の目的は同じものだと思っていいはずだよな? 魔人は自分勝手な性格の奴が多い。それがわざわざ群れているんだから、同じ目的を達成するために行動している、と」


「先ほど出た結論だな」


「じゃあ、その目的のために行動しているのならば…………全員が全員、陽動をしていたとするのならば…………そして、その上で撤退していたとするならば」




 そこまで喋った男は一度口を閉じると、溜まった唾を飲み込んでから言葉を吐き出す。



「俺達の知らない所で、既に相手の・・・・・目的が達成・・・・・されていた・・・・・…………なんて、考えられるんじゃないのか?」


 その場に沈黙の帳が降りた。


 誰もが最悪の結末を想像し、その不明瞭さに頭を掻き毟る。


 そのままの状態で数分の時間が過ぎ去り、進行係が会議を止める。



「休憩の時間です。各々頭を休め、規定の時刻に再度集まってください」



 その言葉で一人、また一人と席を立ち部屋から退出する。

 暗い雰囲気を切り替えるように、部屋を換気して空気を循環させる。


 議論は、まだ終わらない。

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