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第三再編 魔人連合襲撃事件


 新年を迎えた王国を襲った魔人達による侵攻、通称「魔人連合襲撃事件」から既に一週間が経過した。


 東西南北の四つの門と、王城、貴族街、住民街。


 合計で七ヶ所をほぼ同時に攻められた王国は先手こそ取られたものの、王の采配、そして優秀な幾人もの人材の働きによって、被害を最小限にとどめて迎撃に成功した。


 しかしそれでも国民と魔術師の両方に被害が出たことに変わりはなく、新年早々王都は暗然とした雰囲気に包まれていた。


 国全体に広がる不安を取り除くべく、国は一夜を喪に服した後に、この防衛で表立って活躍した者たちへの論功行賞を大々的に行い、それを国民達にアピール。



 「英雄ヒーロー」を作り出すことで、話題の意図的な転換を行なった。



 巨木の魔人から南門前を死守した、グランベルグ公爵家当主「スラン・グランベルグ」とプロイズ家元当主「マズル・プロイズ」。


 悪名高き「ミカルザハの大群」を率いた魔人を北門から撃退した、聖教国四大司教の一人「ウェザー・マリア」。


 西門前を占拠した魔人二人・・を同時に相手し、無事人質を救出したS級冒険者「ヒノ」。


 東門から侵入しつつあった狂人・・を退けたフランベリック公爵家当主「バルトロ・フランベリック」。


 王城内に侵入した魔人を相手取り、王を護った親衛隊の面々達。


 住民街の人々を守った「全身黄金色の異形・・・・・・・・」の人物は、正体不明の上に行方不明のため除外。



 そして、国民達が一番熱をあげている最年少の英雄がいる。


 オリシス公爵家長男、「ラムセス・オリシス」。


 神童として貴族達の間に名を広めていた少年は、いまや国民的な有名人へと成長していた。


 「魔人によって・・・・・・攫われた・・・・」フランベリック公爵家の長女を見事取り返し、魔人の撃退・・ではなく討滅・・に成功した魔術師。


 囚われのお姫様を救い出し悪を挫いた、物語の主人公のようなその活躍は、悲劇の中にドラマを求めた民衆達の心を大きく掴むこととなったのだ。


 要するに、耳障りが良いのだ。


 辛い現実から逃避させるのに最も都合の良いストーリー性を持つ故に、人々はそれを持ち上げ、受け入れる。


 彼を讃える劇場や、彼をモチーフとした書物の登場もそう遅い話ではないだろう。


 なにせ、国全体でその動きをバックアップしているのだから。


 良く言えば広告塔、悪く言えば見世物。


 そんな様々な思惑の渦中にいる彼は現在、何をしてるかというとーーーー。



「おうおうラムセス、お前随分と目立ってるじゃねぇか! おおん? ちょっとこっちにツラ貸せや」


「ゴルドくん、流石にそれはガラ悪いよ?」


「っだぁ〜! うるっせぇぞマスキン! ちったぁ気を利かせて合わせるなりなんなりしろや!」


「あはは、ごめんね?」


「ゴルド君、マスキン君…………」


 チンピラに絡まれていた。


 魔人の襲撃によって一時中止となった「貴族祭フェスタ」。


 その再開が今日、ついに行われることになっていた。


 ラムセスは開始から様々な人々に声を掛けられていた。


 それは他の家の当主だったり、その子息だったり。

 あるいは、一つ年下の子供達であったり。


 息をつく暇もなく訪れる彼らに対し、ラムセスは笑顔を絶やさず丁寧に対応していた。


 そんな中に現れたのが、何時ぞやのようにマスキンを後ろに控えさせたゴルドだ。


 彼を見た他の子供達は、その空間に穴を開けるように他所へと散っていった。


 ラムセスと比べると、とんでもない人望である。


 ゴルドはキツめの視線を和らげ、上機嫌そうにラムセスへと話しかける。


「主役サマがまぁ辛気クッセ〜顔してんじゃねぇか! うん? なんかあったのか? 女と喧嘩でもしたか? 話してみろよ、俺様達の仲だろ?」


「ゴルドくん、流石に馴れ馴れしくない?」


「だーかーら!! 少しは黙って見てろっての!!」


 ゴルドはラムセスと肩を組み、耳元に顔を寄せて口を開く。


 そんなゴルドの行動によって、周囲の人々の視線からラムセスの顔が遮れた。


 ラムセスはやや迷惑そうな表情をしながらも、どこか疲れた様子を醸し出しながらゴルドに対応する。


「ゴルド君、久しぶりだね」


「まぁ一週間経っちまったからな! で、どうしたよ…………ただ疲れたってだけの顔じゃあなさそうじゃねぇか? 心配事か? あの獣人はどうした? なんで此処にいねぇんだ?」


「心配事…………そうだね。ホルス、うちで雇ってる冒険者が「事件」で怪我をしてね…………傷は完全に治した筈なんだけど、目覚めなくて…………バステトは屋敷でその看病をしてもらってるよ」


「はーん? そいつの事がそんなに心配か?」


「…………当たり前じゃないか」


 サンリルオンの攻撃によって片翼を失ったホルスは、あの日から一度も目覚めていなかった。

 もう痛みは感じていない筈なのだが、毎晩魘されており、それはラムセスが彼女の手を握らなければ止まる事はなかった。


 王都に揃った優秀な魔術師に見せても、結論は変わらなかった。


 分かっている事は、目覚めない原因は精神的な何かが関与しているという一点のみ。


「僕はこの「貴族祭フェスタ」が終わったらすぐにでも家に帰るつもりだよ。父上なら、父上なら何か分かるかもしれないからね」


「そうか…………そうか、なぁラムセス。お前は良くやった方だと思うぜ? ベンニーアの奴を助け、魔人のクソ野郎をブチ殺してやったんだ。だからそんなに自分を責めんなよ」


「…………なんか、意外だね」


「あん? 何がだよ」


「こうして君と普通の友達みたいに話している事が、だよ。正直最初の出会いからして仲良くできるとは思ってなかったからね」


「…………ハッ、言うじゃねぇか。俺様達は数少ない公爵家、だろ? 仲良くしていこうぜ? 長い付き合いになるだろうからよ!」


 怒鳴るような口調でありながら、他の人に聞こえないように小さな声を出すという器用な事をしているゴルド。


 ラムセスはそんな彼に対し、曖昧な笑みを浮かべていた。




 そんな彼らの周囲の人々が、ざわつき始める。


 ゴルドは騒然とした雰囲気に眉を顰め、周囲を見渡す。ラムセスも同様にして、空気の変化の原因を探していた。


 そして、それはすぐに見つかる。





ラムセス・・・・!!」







 それは黒いワンピースのようなドレスを身につけた、一人の少女だった。


 セミロングの黒髪を切り揃え、赤い瞳が宝石のように輝いている。


 首元にはネックレスのようなものが掛けられており、彼女の瞳と同色の鉱石が埋め込まれている。


 そして片耳には蛇を模したデザインのピアスが付けられていて、シルバーの輝きが髪色とマッチして魅力を引き立てている。


 着飾った美しい少女が、そこに立っていた。


「ベンニーア…………?」


 その姿を瞳に映したその瞬間、ラムセスは軽い目眩と頭痛によって足元が覚束なくなる。


「おい、大丈夫かよ」


 ゴルドは組んでいた肩を解きながら、ラムセスの体を支えて転倒を防ぐ。


 ゴルドの心配するような声にも反応を示さず、ラムセスは自分に襲いかかった違和感の正体を探っていた。



 ベンニーアが魔人によって人質に取られ、それを偶々目撃した・・・・・・ラムセスが戦闘に巻き込まれ。


 ホルスが作った隙を突いて彼女を救出。


 その後、目覚めたベンニーアと協力して・・・・魔人を葬った。


 それがあの日起こった出来事であり、ラムセスの記憶にある全て。



 その筈なのに・・・・・・ーーーー。



「ラムセス…………? どうしたの?」


 心配そうに覗き込んできたベンニーアの顔を見たラムセスは再び頭痛を感じていた。


 彼の中にある何かが囁くのだ。



 大切な事を・・・・・忘れている・・・・・と。



『我が王よ…………』



 知らないはずの誰かの声が、ラムセスの頭の中に木霊する。


 その声によって、ラムセスは何かを掴みそうになりーーーー。



「えぇ!?」


「お〜!!」


 マスキンとゴルドの興奮した声が、それを遮った。


 しかし、今のラムセスにはその二人に文句を言う事も出来なかった。


 それは、何故か。



「ーーーーんっ」



 ベンニーアの小さな唇が、ラムセスの口を塞いでいた。

 ラムセスの両頬を手で押さえ、顔を斜めにしてより深く・・・・口を合わせられるようにしている。


 ラムセスは目を見開き、呆然としてその場に硬直する。


 ラムセスよりもベンニーアの方が身長が低いため、頭痛で前屈みになっていたラムセスの顔が、背伸びしたベンニーアの丁度目の前に置かれていたのだ。



「えへへ、元気でましたか?」


「…………えっ?」


 笑顔でラムセスに語りかける彼女の顔は、やや赤く染まっている。

 ラムセスはその唇へと動く視線を、止める事が出来なかった。


 そんなラムセスに見せつけるように、ベンニーアは舌で口元をひと舐めする。

 その行動は、少女に似つかわしくない色気を孕んでいた。


「じゃ、じゃあね・・・・!!」


 動揺の冷めないラムセスの横を、ベンニーアが通り過ぎようとする。


 ラムセスとすれ違う瞬間、ベンニーアは一言だけ口を開いた。




「ーーーーありがとう、わたしの王様」


「…………えっ?」



 ラムセスがその言葉の意味を訪ねるよりも早く、ベンニーアはその場から走り去っていった。


 ラムセスが周囲を見渡すと、そこには騒つく沢山の人々。


 そして赤面するマスキンと、ニヤつくゴルドがいた。



「おうおうおうおう!! いつの間にお前…………お前って奴は!! ハッ、ハハッ…………ギャハハハハッ!!」


「えっ…………二人ってそういう…………」



 勝手に盛り上がる二人を見て、ラムセスはため息を吐いた。

 これからどんな事を言われるのか、それに察しがついたからだ。



「おう、ツラ貸せよ。根掘り葉掘り聞き出してやる」


「僕も気になる、かも」



 自身に迫る二人を抑えながら、ラムセスはふと思い至った。


「そういえば…………」



 目眩も頭痛も違和感も、綺麗さっぱり無くなっていた。










「うぅ…………恥ずかしいです…………」


『よくやりました!! 未熟者なあなたでもやれば出来るんですね! お手柄です!! 役得です!!』


「で、でも…………ちょっとはしたないのではないですか?」


『何をいうのですか! まだまだこれからですよ!! 次はもっとディープな奴を! あなたならもっと出来ますよ!!』


「は、はわ…………も、もっとディープな…………」


『ライバルがいないうちに差をつけていかないとダメなんですよ! 帰ったらまた練習です!! わたしが選んだ勇者として恥じる事のないレベルまで鍛えますからね!! 分かりましたか!!』


「は、はひ…………わ、わかりました」


『よろしい!!』


 誰もいない通路で、二人分の声が響く。


 しかし、その場にいるのは一人の少女だけだった。

 誰かが此処を通りかかる事があれば、変人として誤解を受ける事だろう。


 しかし、その心配はない。


 そういうこと・・・・・・になっているから、心配ないのだ。



『我が王…………貴方様の元を少しの間でも離れること、どうかお許しください』


「…………? ヴィジャト様、なにか言いましたか?」


『なんでもありません。さぁ、帰りますよ! 時間は一瞬たりとも無駄には出来ませんからね!』



 一つ目の試練は終わりを迎えた。


 カルトゥーシュは継承され、一人目の勇者が誕生した。


 ならば、次に訪れるのは…………。



『どうか、ご無事で』



 それもまた、試練に他ならないだろう。

 今回のファラオ'sキーワード


 「第三再編」


 魔人襲撃事件→魔人連合襲撃事件


 防衛成功判定、再編完了。


 人類滅亡の危機は、遠ざかりました。

 歴史改変、運命操作、成功です。


 「不死王イモータル・キング」の出現率、減少。


 破滅時計の針が、巻き戻ります。

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