第1話 特別な,しかし平凡な一日の始まり
2話連続投稿となります。エピローグから読んでもらえると助かります。
俺がどうしようもなくガキのころの話である。
その時は,いつもが楽しかった。
親友だと思っていた人もいたし,友達もたくさんいた………つもりだった。
とある日,俺は教室でいじめられている子を見かけた。
その時,俺はほんの少し世界をしっただけでこの世界のすべてを知った気になっていた。だから俺は,正義は必ずむくわれ,悪は必ず断罪される。それが真実だとそう思っていた。だから俺は,正義の味方になりたい。
その一心で勇気をふりしぼり必死に止めに入った。
もちろん多対一で挑んでも勝てるわけがなくボロボロにされた。
そして,もともとはいじめられっこに向いていたいじめは,対象を変わる。
そしてそのいじめは次に俺自身に襲いかかってきた。
結果として,多かった友人や親友さえもいなくなり,いじめる側にかわってしまった。親友には,信頼しいろんな秘密を話してしまった。その秘密は,あっさりと広められクラス中に知れ渡ることになり,もちろん,ネタにされ,ばかにされた。
学校に行きたくないとは何度も何度も思った。しかし,やさしい両親と大好きな幼馴染に心配をかけたくなく,ひたすら通い続けた。
そのながい,ながい年度が終わると,ようやく,そのいじめはおわり迎えた。
俺が両親の仕事の都合で引っ越すことになったからだ。
俺にはいじめられたことよりもすべての友達が裏切ってしまったことのほうがショックだった。
それから俺はどうしても人を信じることができない。
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夢を見ていた気がする。
昔の夢だ。正直,思い出したくもない過去であり,それは今も俺の心を縛り付けている。それはきっと過去の呪縛というのだろう。過去は変えられないし,過去より人格は形成されるというそれなら,人は変わらないし,この呪縛は消えやしないだろう。そんなことを考えていた。
すると,
―――ばたん!と部屋のドアが開く。
「起きなさいよ!」
その一言で目が覚めた。
「なんだよ~」
目をこすりながら起き上がる。
「なんだよとは何よ!せっかくこんなかわいい幼馴染が起こしに来てあげてるのに!」
「っておまえ美華かよ!俺の部屋に入って来るなって言ってるだろ!」
彼女の名前は,我妻美華。俺、加藤英雄と同じ高校一年生で同じ高校にかよっている。茶みがかった黒髪でショートヘヤー。顔立ちは整っていて,確かに美人だとは思う。だが,自分でかわいいと言っている部分がもうすでに性格が残念だと思う。
こいつの言った通り一応美華と加藤は幼馴染である。美華と加藤の家は両親が共働きである。それで家が隣どうしで子供の時によく遊んでいたなごりもあり,美華はよく家に来ている。まあほとんど妹に会いに来ているようなものなのだろう。
「クソ~まだ七時かよ!あと二〇分は眠れたのによ~」
「あと二〇分って,七時半には出ないとダメでしょ?間に合わないじゃん。朝ごはんも食べないとダメで
しょ」
「朝飯は抜けばいいし,男には準備は一〇分でできるんだよ」
男の場合は,化粧の時間などがないため,女と比べて比較的すぐに準備が可能だ。そのおかげで限界まで朝寝ることが出来る。それにすこし昨晩は夜更かししてしまったため少しでも多く寝ていたいと思っていた。
しかし,こんなふうに部屋まで入ってこられたら話は別だ。
「はあ」
ついいつもの癖でため息をついてしまう。
「ほらため息つかない。幸せが逃げていっちゃうよ」
「誰のせいだよ。誰の」
ついあきれてしまってそうつぶやき少し間をおいてから
「わかったよ。起きればいいんだろ」
「わかればいいのよ。さっさと準備しなさいよね。」
ばたん!とドアが閉められ,ろうかをかけていく音が聞こえる。部屋がようやくしずかになり,ふぅとついため息をついてしまう。
加藤にとっての今日という一日は特別な日になるのだが加藤はまだ知らない。とにかく加藤にとっての特別な一日はこのように慌ただしく始まりを迎えた。
美華が帰ったあと,加藤は冷たい水で顔を洗い,着替えを済ませ部屋を出てリビングへと向かう。そうすると,リビングをでて玄関へと向かっている妹,加藤愛菜を見かけたので声をかけた。
「おはよう,愛菜」
愛菜は振り向き,元気に手を挙げて,
「おっはよう!お兄ちゃん!」
加藤愛菜は,俺や美華と二つ年下の中学二年生である。黒髪のポニーテールで,加藤とは似ておらず,すれ違う相手が振り向いてしまってしまうほど美人である。
それにバドミントン部に所属しており,全国レベルの選手である。成績がすこし残念であるが,とても加藤の妹とは思えないくらいできた妹である。
そんなかわいい妹の頭に手をポンと置きながら,
「朝っぱらから元気だな~今日も朝練か?がんばれよ」
「うん!」
愛菜はとびっきりの笑顔をして元気に返事をした。
「それにしてもいつも朝が早いよな。朝寝むれなくてつらくなったりしないのか」
いつもは加藤が寝ているときに出て,朝会うことはめったにない。そんな生活出来るだけ寝ていたい主義の加藤からしてみれば考えられないぐらい大変なものに感じる。
「うーん………もう慣れちゃったからそんなに大変に感じないかな」
「そんなもんなのか」
「まあね。寝て青春を過ごしちゃうよりも絶対友達と一緒にバドミントンして楽しんだほうが楽しいもん。今は今しかないんだよ。楽しまないと」
満開の笑顔で愛菜はそんなことを言った。やはり頑張っている子の笑顔はまぶしいものだ。加藤にとって,その笑顔はあまりにも輝いていて,それに加えて可愛すぎたため,ついつい頭をなで続けていると
「ふにゃ~」
と愛菜は脱力しきった声をだして,安心しきった子犬のような顔をしている。ふと,玄関に向かっていたのを思い出し,
「そういえば愛菜,お前学校いく途中じゃなかったの?」
愛菜は,はっとしたような顔をして,
「もうお兄ちゃん!急に頭なでないでよ」
手を頭で払われる。
「わるい,わるい。」
と謝った。すると,愛菜はあまり気にしてないのかすぐに振り向き,
「じゃお兄ちゃん!いってくるね!」
といいながら玄関へと向かう。
「おう,朝練がんばれよ」
と声をかけ,キッチンへとむかい水を飲む。すると,愛菜は何かを思い出したように振り返り,
「お兄ちゃん,最近美華お姉ちゃんよく家に来るけど付き合い始めたりした?」
と突然そんなことを言われ思わず,
「ごほっごほっ」
とついついむせてしまった。
「は,はあああ!!!つ,つきあってねーし。な,何言ってんだ。お前。」
と焦りまくって,噛みまくってしまった。
「ふーん。お兄ちゃんたち,まーだ付き合ってないんだー」
とあきれた顔をしていわれる。
「いやまだもなにも付き合うわけないだろ。いつも通りだ」
自分がしてきたことをふりかえってみるが確かに美華が家に来る頻度が増えてはいる気はする。しかし,美華と加藤の関係は中学から変わらずいつも通りだと思う。しかし,愛菜はあからさまに,はぁーとため息をつき,
「もうお兄ちゃんは………」
といいながらじとぉーとした目で見てくる。意味がよくわからず,
「俺なんかしたか?」
と聞いた。すると,愛菜は
「ふんっ」
といいながらふりかえり,
「お兄ちゃんのヘタレ」
と愛菜は小さな声で言い捨てて,玄関へとむかい学校へと向かってしまう。
すると,とたんに家の中は静まりかえる。
「・・・」
両親はもうすでに仕事に向かっているので,いつもこの時間は一人だ。母親が作り置きされていた朝食を温めなおしもぐもぐと朝食をとる。ふと愛菜に言われたことを思いだしてしまう。
「わかってはいるんだけどな」
そんなことを加藤は,ポツリとつぶやいた。
朝食を食べ終わり,家を出ると何故か隣の家の前で携帯をいじっている美華がいる。
「おまえ,なんでここにいるんだよ。三十分も前に準備終わってただろ」
「なによ!せっかく待っててあげたのに。………あっ………いい今のなし!待ってなんていないんだから!」
「はあ,わかった。わかった。いくぞ」
加藤はなんとなく気恥ずかしくなって,ついつい目をそらしてしまう。
加藤を待っていないのだとしたら,きっと友達とでも連絡をとっていたのだろう。そう思うことにした。
そして,目をそらしたのをごまかそうとそのまま振り向き,歩き出す。少し恥ずかしくてついつい,早歩きになってしまった。
「ちょっ………ちょっと待ってよ」
美華はそう言いながら小走りでついてきた。
―――加藤と美華が通っている県立清水高校では,家が三キロ以上離れていなければ自転車通学をしてはならないという規則がある。そのため,二キロほどの道を歩いて登校しなければならない。二キロほどの道を朝っぱらから歩かなければならないのはなかなかの苦行である。
その道を朝起きてすぐの重い体を引きずりながら歩いていくと美華は,
「そういえば,あんた友達出来たんでしょうね」
といいながら美華はじとーとした目でみてくる。
「いや,できるわけないだろ。」
と言い返す。すると美華は,はぁーとため息をついて,
「もう高校でくらいは友達できると思ってたのに。」
美華はそんなふうにわざとらしく残念がって,
「ほんとあたしがいないとダメだね」
となぜか嬉しそうに笑って言った。
「うっせ。お前は俺のおかんか」
なんて会話をしていると,後ろからサイレンの音が響き渡り,加藤たちをパトカーが追い越していった。そのパトカーを見た美華は何やら思いだしたような顔をして,
「ねえ,きいた,きいた?この町で殺人事件があったようよ。」
と話しかけてきた。
「ほーん,また物騒な話もあったもんだな」
「そうそう,犯人はもう捕まったらしいんだけど,怖いよね」
と不安そうな顔をしていう。
「まあ,美華の場合は力強いし,逆にぶん殴って倒しそうだがな」
「なによー!」
「ぐはっ!」
と美華が拳を握りしめ,右腕をふりかぶってうった正拳突きが腹に突き刺さり,加藤は息を詰まらせて,膝をついてしまった。
「なにするんだ………。」
と加藤はつぶやくと,美華は頬を膨らまして,
「ふんだ,女の子に力が強いとかいうほうが悪いんでしょ」
ちょっとイラッとしたのでデコピンをしながら,
「うっさい」
と言い残し,学校への道を急ぐ。
「いたっ!もう待ってよー」
と追いかけてきた。
―――そこからすこしいった学校への道の途中になぜか人だかりが見えてきた。その人の多さについつい立ち止まってしまう。
「お!なんか人だかりができてるな。例の事件の現場ってところか」
「そうかもね,本当に,近い場所で起こったのね」
左右を見るとマスコミや野次馬などが大量に集まっているようで,人混みは道いっぱいにひろがっている。
「この人だかりじゃあ,人混みの中をかきわけていくしかなさそうだな」
この人混みの中にかきわけていかなければならないのかと思うと,ついついため息が出てしまう。
「ふう………いくか」
「うん」
美華もすこしいやそうにうなずいた。
なんとか人混みをかきわけて進んでいくと犯人が連行されてパトカーにのせられている姿がみえたが人混みがすごく,まじまじと見ることができない。
ようやく人混みをぬけると,美華のことが気になりうしろをみる。そうすると,美華は人混みにもまれて,
「きゃっ!」
と倒れそうになっている。加藤は必死に手を伸ばし美華の手をつかみ,何とか引き出すことができた。すると,引き出した反動で顔が近づく。
「「あっ!」」
ついつい美華も加藤も声をもらしてしまい,顔が赤くなっていることが自分でもわかる。
「す,すまん」
ハッと美華から離れ,手を放す。そうすると,なぜか美華は残念そうな顔をして,
「ありがと」
とつぶやいた。あかくなった顔をごまかすように
「いくぞ」
といいながらすぐに振り返り歩き出す,
「うん」
と美華はうなずいた。