最終話 得たもの,失ったもの
「誰か,誰か助けてよ」
そう美華は叫び,その叫びは誰にも届かなかった。
実際誰にも届かないことは美華自身もわかっていたし,自分の意志であろうがそうでなかろうが人を殺しかけたのだ。その報いは受けなければならないとすら思っていた。
しかしそう分かってはいても理不尽に思えてしまう。
そう思い美華はただ涙を流すことしかできなかった。
そんな時だった。
その声を聞きつけたようにヒーローはやってきた。
「美華いるか?」
そういって加藤は美華のいる部屋に入った。
「英くん?」
美華は信じられないものを見るような目で加藤を見つめる。
「なんで?なんでここにいるの?」
「そりゃあおまえ・・お前を助けに来たに決まってんだろ」
そう加藤は少し恥ずかしそうに言う。
「なんで?あたしが何をしたか忘れたっていうの?」
「忘れるわけないだろ。それより時間がない。早くいくぞ」
そう言いながら加藤は美華を縛っていたベルトの様なものを鍵を使って外して,美華の手を引く。
「でもあたしに助けてもらう資格なんてない。あたしは英くんを殺しかけたんだよ。それなのになんであたしを」
「俺はおまえがウイルスに感染したせいで助けたことぐらい知ってる。それが理由なんだろ。だったら仕方ないじゃねえか。それが理由でお前をたすけにいかないなんてことありえないだろ」
美華はそう言われて自分が許されていることにようやく気付く。でもそれと同時にふといつもこうやって自分は加藤に救われて迷惑をかけて許されていることを思い出す。
「あたしいつも,本当にいつも英くんに救われてる。本当にいつも。なんで?なんであたしなんかを助けに来てくれるの?」
「別に。俺はただ恩を返してるだけだよ。俺だって美華,お前に救われてるんだ」
「あたしは何にもしてない。ただあたしは英くんにすがって依存してるだけで何にもしてない。英くんはこんなあたし嫌いだよね」
「そんなことない」
「そんなことあるもん」
「そんなことない」
「そんなことあるもん」
そんなくだらない言い争いを始めてしまった。
「ああもう,俺はお前が好きだ」
加藤はそんな言い争いがどうにもじれったくそう叫んでしまった。
「そんなこと・・へ?なんていった?」
そう美華は首をひねり尋ねてくる。
「だから俺はお前が好きだって言ったんだ」
「本当?」
「本当だ。こんな大切なこと嘘なんてつくか。」
「嬉しい。あたしも好き。大好き」
そう言って本当にうれしそうに笑う。
その様子がどうにも可愛らしすぎて,加藤は美華を抱きしめる。
「それにさ。俺が君を助けに来るのだって,ただ君が好きだからなんだ。俺は君とできるだけ本当にすこしでも長く君と一緒にいたかった。だからなんだ」
「ありがと。でもあたしが救われたばっかりじゃ悪いよね。」
「それもさ,俺はお前に救われてた恩返しをしてるだけなんだよ」
「恩返し?あたし何もしたような覚えないけど」
「俺がいじめを受けていたことは知ってるか?」
「いじめ!?いつ?」
美華は本当に知らなかったようで,抱き着くのをやめ加藤を本当に驚いたようなかをして見つめる。
加藤は知らないだろうと予想はしていたが本当に知らなかったことを驚くとともに苦笑し,
「やっぱり知らなかったか。俺が一つ前の家から引っ越す前の年,小学4年生だったっけか,その年にさ俺はクラス中からいじめを受けてたんだよ」
「でも友達いたじゃん。千葉君とか,米山君とかあの子たちはどうしたの?」
「ああ,あいつらもいじめる側に回ったよ」
「それ本当?」
「ああ,引っ越した後もどうにも友達をつくる気にならなくてな。転校先では友達をつくらず一人っきりだった」
「そんなことがあったの!」
美華はそう言われて本当に驚く。美華はたしかに引っ越しをした前と後ではたしかに変わったとは思っていたけれどそんなことがあったなんて図と一緒にいたとおもっていたそんなに大きなことも知りもしないとはショックだった。
「その時にさ,俺,君がさ,俺を連れ出したんだ。人は一人じゃ生きていけない。でも俺は他人を信じるのが怖かった。でも俺は君のことは信じられた。君がずっと一緒にいてくれたからだ。俺は君に依存してしか生きていくことができなかったと思う。だから俺は本当に君に救われたんだ」
「じゃあ,あたしと英くんは一緒だね」
そう言われて加藤は何となく美華が何を言いたいのかわかった。
「ああ,俺は君に依存していた」
「あたしも英くんに依存していた」
(これは共依存というのかもしれない。でも一生一緒にいれば問題ないじゃないか)
そう加藤は思った。
「俺は君がいないと生きていけない」
「あたしも英くんがいない生活なんて考えられない」
「だからさ美華俺とずっと一緒にいてくれないか?」
「英くん,あたしをずっと一緒にいさせてください」
そう言って美華は笑った。
加藤はきっとその笑顔を一生忘れることができない。
そう思った。
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あの後,すべての問題の解決し日常に戻れそうになるまでに1ヶ月かかった。
とはいっても加藤は何もしていない。交渉やらなんやらは四宮がすべてやってくれた。
この事件のことは世の中で大きな話題になった。
当たり前である。逃れられないような証拠とともに政府が人体実験を無理やり行っていたことを大々的に報じられた。しかもその実験のせいで死人が出たのだ。それで話題にならないはずがない。
そのせいで国会では毎日のように責任問題の追及が行われ,この事件にかかわった職員は総じて退職を命じられ,もちろんあの橋本という男も例外ではないらしい。
加藤はなぜかヒーローのように祭り上げられなぜか実名まで乗せられていた。
それを四宮に問い詰めたのだが,
「あれ許可もらってなかったか?」
などととぼけやがった。
加藤がそのせいですこし出歩いただけで有名人のようにうわさされるようになった。
まあその他諸々あったのだが加藤と美華はようやくまた学校に通えるようになったのだがあの事件から1か月後の今日である。
あらかたの準備を終え加藤は学校に向かおうと家を出る。すると,家の前に携帯をいじっている美華がいる。
「お前,今日も俺を待ってたのか?」
「別にいいでしょ。か,彼女なんだから」
そう恥ずかしそうに顔を赤めがながら言う。
(ああもうかわいいなあもう。)
美華の様子を見てそんなことを思い,
「ほらいくぞ」
顔が赤くなったのが自分でもわかったのでそう言って早歩きをして美華にこの赤くなった顔を見せないようにする。
「ちょ,ちょっと待ってよ」
そう言って美華は俺を追いかけてきた。
それから少し行くと学校が見えてきた。いくら久しぶりと言っても通鬱になるのが学校というものである。加藤は憂鬱になり,思わず,
「はあ」
そうため気をついてしまった。
すると唇に柔らかいものがあたった。
「は?」
今加藤は美華にキスされた。加藤にとってはもちろんファーストキスである。
「もうため息つかない。幸せが逃げて行ってしまうよ」
だが美華は顔が心なしか赤くしていた気がするがそれ以外はいつも通りにしていた。
「ちょっと待て,お前いま俺にキ,キスしたよな」
「もう恥ずかしいでしょ。言わないでよ。それともいや・・だった?」
そう美華は恥ずかしそうにして顔を赤らめてから,加藤を不安そうな顔で見つめて言う。加藤はただ嫌だった。美華をこんな顔をさせるわけにはいかない。
そう思い加藤はそっと顔を近づけ唇を重ねた。
「ん」
美華はそんな声をだして驚いたような顔をしてからそっと目をつぶった。
それから加藤にとっては永遠のような十数秒経過し,そっと離れる。
「ふざけるな。俺がお前のこといやなわけないだろ」
そう叫んだ。
「うん!」
そう美華は笑う。だがそう笑ったのは一瞬だけで,美華の顔が一瞬で曇ってしまう。
「どうした?」
加藤はそんな顔をする美華が見たくなかったのでそう尋ねる。
「いや,さやかと違って,あたしだけこんなに幸せでいいのかなって,そう思っちゃったの・・。ただそれだけだから気にしないで」
美華から実験されている途中に何があったのか聞いてはいる。
しかし,美華がそのことをどう感じてどう思っているかを理解することはできない。けれど・・・。
「大丈夫。大丈夫だ」
加藤はそう言って美華を抱きしめる。
「一生俺が守ってやるそう誓うから。俺はそんな顔をさせるのをもう二度と見たくないんだ。だから笑ってくれ・・。頼む」
「ありがとう。でも大丈夫。これはきっとあたしが自分で乗り越えないといけないと思うから。ただ一緒にいてくれるっていう約束は守ってね」
そう言いながら,美華はぎこちない笑顔を作る。
「ああ,約束する」
そう加藤は美華に向かって誓った。
この事件はいろいろな人が傷ついた。けれどたしかに得たものがある。だからせめてその得たものを大切にしたい。
そう加藤はよく晴れた青空を見上げながらそう思った。
これでとりあえずこの作品は完結となります。ここまでお付き合いしてくれた皆様本当にありがとうございました。この作品の続編などについては作者の活動報告の『「俺は彼女に殺される」について』をみてもらえばいいと思います。後,次回作も構想を練ったり,していますので今後ともよろしくお願いします。
感想,レビューなどお待ちしております。




