第11話 信じられるか
「手を挙げろ」
そちらを向くと白衣を着た男が拳銃をこちらに向けて立っていた。
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「想定外だな」
四宮は竹下がハッキングした監視カメラで加藤が白衣の男に拳銃を突き付けられている様子を見ながそうつぶやいた。
恐れていたことが起きてしまった。外から人が入ってこないように注意してはいたのだがあの白衣の男はどうやら病院の中から現れたらしい。まさかこの時間に研究所内にこんな遅くに人が残っているとは予測できなかった。
「おい竹下!私たちに何かできることはないのか」
「すみません。僕はハッキングしかできませんので援護もできそうもありませんし,志摩もいそいで向かっているのですがまだ全然遠く間に合いそうにありません。僕たちにできそうなことは何もありません」
「糞っ!私たちは見守ることしかできないのか。あと少し本当にあと少しだったのに。私たちはこんなところで失敗するわけにはいかないんだ」
「しかたないです。今はただこのスーパーコンピュータをハッキングしていられる時間を伸ばしましょう。時間を稼ぐことができれば志摩が追い付いて白衣の男を倒してくれるはずです。」
「いくら志摩でも拳銃を持っている相手を倒せるのか」
「わかりません。わかりませんが今は祈ることしかできません」
「加藤くん今は時間を稼いでくれ。私たちは出来るだけ時間を稼ぐ。」
四宮は祈った。自分の無能さに唇をかみしめながら。
すると,突然竹下のパソコンからブーブーと警報が鳴る。
「どうした!?」
「すみません。今までは完全にハッキング出来ていたのですが,突然ハッキングが解けそうになっています。これは緊急のハッキング対策プログラムでしょうか。まずいです。このままではハッキングが解けてしまいます」
「くそッ!またか。このままでは長く持たない」
そうつぶやいて急いで竹下の援護をしようとあわただしく動き始める。これでは時間が圧倒的に足りていない。
「加藤くん,出来れば何とかしてくれないだろうか。本物のヒーローのように」
四宮はそんな願望をつぶやいた。
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「早く手を挙げろ!」
加藤は想定外の事態過ぎて惚けてしまっているとその白衣の男にどなられる。
「わかりました。わかりましたから銃を下ろしてください」
そう言いながら手を挙げる。
まずい。これは本当にまずい。時間がない上に銃を突き付けられている。このままでは動けずこのままでは時間が経過しすぎてこの作戦は失敗だ。それ以前にこの男が通報されて捕まってしまったら加藤たちはただの犯罪者で終わってしまう。
「おろすわけがないだろう。そんなわざわざ危険なことすると思うか」
その白衣の男はそう言いながら近寄って来る。その声を聴いていると聞き覚えがある気がする。その顔をよくみてみると,一つ思い浮かぶ顔があった。
「あなたはあの時の警察官の橋本?」
この白衣の男は事件のあと目覚めた後,加藤を事情聴取に来た警察官の橋本であるということに気付いた。
「おや,君はたしか我妻さんの幼馴染の加藤くんだったかな。」
「どうしてその警察官の橋本がここにいるんだ」
「はは,警察官ではなくこの研究が専業だ。あの時は我妻さんが本当にウイルスに感染しているかどうか
確認のときのために来ただけだったのだがな。まさかこんなところであるとは思っていなかったな」
「はは,俺も会いたくなかったですよ」
加藤は縛られながら無理やり頬を挙げ言う。
とりあえず時間を稼ぐことが出来れば志摩が警備室を押さえてからはこちらに来ることになっている。それまで会話をして出来るだけ時間を稼げば志摩だったらなんとかしてくれるかもしれない。
「俺をどうするつもりだ?」
「まあ通報するにもこの研究のことを知られるわけにもいかないな。とりあえず話しでもしようか」
「話?俺が言うのもなんだけど。そんなことしていて大丈夫なのか?」
「まあいまほかの研究員と連絡を取れそうもないな。この時間だ。おそらく電話に出ることはないだろう。まあ明日当たりにほかの研究員と話しながら決めるよ」
今はもう夜の3時やそれぐらいの時間である。普通の人であればもうすでに眠っている時間だ。
「君はそう言えば我妻さんの幼馴染だったか。もしかして幼馴染を助けにここまで来たのかい?」
「そうだけど,何か?」
「ははそれはすごい。本当によくここに入ってこれたね。もしかして協力者でもいるのかな?」
「・・・」
加藤はとりあえず黙秘をすることにする。
「まあその程度で話さないだろうね。まあでも話さないということは協力者はいるということなのだろうね。」
「どうしてそんなことが分かる?」
「話さないということは話したくないことがあるということだろう。きっと君にはかばいたい人がいるのだろう。それぐらいわかるさ。でも協力者がいたところでここにきても無駄だろうね。俺にはこれがある」
橋本はそう言って拳銃を見せつける。
「ちっ!」
加藤はつい舌打ちしてしまう。
(そうだよな。拳銃に立ち向ける人間なんているわけないよな)
隙をつけば可能かもしれないがもうすでに橋本には警戒されてしまっている。この状況で何とかなるとは思えない。
「はは,図星だったかい?」
「いや,くそっ」
このままではまずい。相手の隙を見つけるどころかこちらの情報をどんどん持っていかれていく。しかも仲間がいるとばれてしまえば隙を見つけ出すことがどんどん難しくなってしまっていく。
「はは,悪い悪い。少し大人げなかったかな。その代わりに何か質問はあるかいそれに答えてあげよう」
「じゃあ一つ聞いてもいいか」
加藤は少し悩んだが時間を稼ぐ意味も含めて,気になっていたことを聞くことにした。
「何でこんな実験をするんだ?」
こんな実験を政府がしかも極秘で行う必要がある理由が加藤には理解できなかった。その理由がいあまり理解できなかった。
「ふむ,では君は社会契約説という主張を知っているかい?」
橋本はそう切り出した。
それは道徳哲学か何かなのだろうか。加藤は本を少しは読むほうではあるが哲学などと難しいことなど まったく興味がなくそういう本など読んだことがない。
「いえ,知りませんが」
「大まかに説明するとだな。イギリスの哲学者,ホップズが唱えたものなのだが。もしも政府がなくってしまった状態これをホップズは自然状態と呼んでいるのだがこの自然状態になってしまうと『万人の万人に対する不断の戦争状態』になってしまうという」
「『万人の万人に対する不断の戦争状態』?」
またも聞き覚えのない声が響き聞き返す。すると,橋本は加藤が聞き返すことを分かっていたというように,
「それはな。誰にも勝利のない戦争とホップズはそう言っている。待っているのはだれもお互いを信じあえず絶望しかない世界だ」
そこで橋本はそこで一度話を区切り,
「その世界とはもしも政府が崩壊した時,人々は絶望して食糧を貯え,武装し,隣人を締めだし始める。人の社会は政府の信用によって成り立っている。それが社会契約説だ」
まあある程度社会契約説については理解できた。だが・・・。
「それが何か政府を動かしえていることに関係があるのか?」
「まあ今説明した通り社会とは信用に成り立って言えるのだ」
「もしもウイルスが日本いや世界中に広がってしまったとしよう。ウイルスとはさっき説明した通り感情を暴走させる。すなわちウイルスによって人が何をするかわからない状態になってしまう。つまりだ・・・」
そういってから橋本すこし重要なことを追うとためてから,
「人の信用が壊れてしまう。すなわち社会が壊れてしまうだろう」
橋本はそれからさらに「具体的に言うとだな・・」とつぶやき
「人の社会は罪を犯せば罰せられるという信頼によって成り立っている。だとするならば罪を罰する政府がなくなればそういう状態になるだろう」
その話はあまりに突飛すぎて,
「そんなことには・・・」
なるとは思えないと加藤が続けようとするが橋本は加藤の声を打ち消すように大きな声で,
「ならないわけはないだろう」
「なぜ?いまあなたが言った顔とは絵空事でしかない。それを試したわけではないんじゃないのか」
「それはな,人は利己的な生き物だからだ」
橋本は「それに・・」とつぶやいてから
「そんなふうにはなら・・ない」
「嘘だな,君だって見てきたはずだ。人がどれくらい醜いかを」
橋本は加藤を見抜くような目で見ながらゆっくりと告げ,さらに続ける。
「すべての人が自分のために嘘をつき他人を欺き,いくら親しい人であったとしても自分のためだとしたら裏切ることもあるだろう」
橋本はすべてをあきらめたような顔で言い,
「そんなこと誰だってわかっているはずだ。そうだとしたら・・だ。人がいつ裏切るかわからないのにどうしてそれを信じることができる?そんなことできるわけがないだろう」
人が信じられない。というのは加藤にもよくわかる。
加藤だって昔いじめによって裏切られたトラウマがいまだに心の中に巣食っている。
だけれど・・。この男が言っているのは違う。
そう言い切れる。なぜなら・・。
「人は利己的ってのは間違えていないとは思う。でも,それでもだ。人を信じない理由にはならない。人は利己的だとそう分かっている俺だって美華に殺されかけたけど,美華を信じてここまで来た」
「それでは人が利己的だとそう分かっているのに君はどうやって人を信じればいいと言うんだい?」
そう橋本は純粋に疑問に思っているような目でこちらを見てくる。
「それは俺が美華を信じたかったから。それだけだ。それに別に俺じゃなくてもみんな他人を信じたいと思っているはずだ」
加藤はそう言いながら,
(本当は美華がいないと生きていけなかったなんて言えないな)
とそう思っていた。
すると,橋本は動揺し,手を震わせながら,
「だとしたらこんな実験意味がなかったなんて言うのか」
「そうに決まってるだろ」
と加藤が言うと,橋本は動揺したのか,
「そんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけないそんなわけない・・・」
と下を向きながらそうつぶやき続けている。
橋本はその錯乱した状態から何をするかわからない。だとしたら今のうちに倒しておかないと銃を乱射してきてもおかしくない。
そう思っているとふと橋本が持っている銃が目に入る。
すると,加藤の足は力が抜けぴくりとも動かない。
(糞っ!動けよ俺の足!ビビってんじゃねーよ)
とそう思い加藤は足を思いっきり叩くが動かないままだ。
(俺は美華を助けないといけないんだよ!)
(そうだ俺は美華を助けるんだ。助けるんだそう誓ったんだ)
加藤は縛られていた時に挟んでいた指を使ってロープを外す。
「おおおおおおおおおおお・・!」
そう叫び橋本へと一気に近づく。
「なっ!」
橋本は驚いたように固まってしまう。
「おらああああああ!」
加藤はその隙に橋本を殴り飛ばす。
「うっ!」
橋本はなすすべなく殴り飛ばされる。だが所詮ただの高校生の力では殴っただけでは気絶なんてするわけがない。
「くそおおおおおおおおおおお!」
橋本は飛ばされた後すぐに立ち上がり,叫びながら拳を握り,加藤のほうに向きなおり殴り返そうとする。
だが加藤はすでに橋本が殴り飛ばされた時に落とした銃を手に取っており,取っ手ではなく銃身の方を握りしめ,鈍器のようにした銃を振るう。
「おああああああああ!!!!」
ガツン
そんな鈍い音が響き,橋本は崩れ落ちた。
「はあはあはあ・・・」
加藤は息を切らし座り込む。
「お前はさ。きっと少し前の【誰も信じられないで美華に気持ちを伝えられなかったときの俺】なのかもしれないな」
加藤はそうつぶやいてからとりあえず息を整えることにした。




