9.
公爵令嬢の肩書きが取り払われた、ただのアデライドとなった一人の少女は意識のないまま、地下牢に繋がれたーー
「明朝、アデライドを処刑に致す」
王は刑執行の重要書類を執行人一族であるメイシーハ家長へと渡す。
「これは、これは若き蕾を散らされるか。高貴な淑女にも下賤な女にも、等しく赤い血が流れておりますれば……娯楽のない民草達も喜びますでしょう。搾取され、踏みにじられているのは自分達だけではないのだと」
白い髪を一つ括りにした枯れ枝の様に細いメイシーハは嫌らしく笑い、金歯を見せる。
執行人一族であるにも関わらず、心が弱い為、刑を執行した日は無意識の内の歯ぎしりが酷く、殆どの歯が擦り減ってしまった為だ。
「天は見ておられる。罪人にも等しく救済をーー
痛みに嘆く事なく、一太刀で命を刈り取らせて頂きましょうぞ」
カラフルなサーコートを羽織り腰のズボンに小道具をじゃらりと付けた風変わりな男は王と宰相と近習の前で道化の様に大げさに天へ向かって祈り、退出の挨拶をした。
「胡散臭い男ですな」
苦虫を噛み潰したかの様な宰相に
「腕は確かな男だ」
王は静かに口を滑らす。
俯き、溜息をつく王は気付かない。
宰相の榛色の瞳が妖しく光った事に。最早、憎しみと言う名の憎悪は宰相の意思なのか見えぬ何かに寄って操られているのかーーこの場に居る者で、答えを知る者はいない。
ただ、安らかに逝って欲しい王と
長き苦しみを願う宰相
国の重鎮達の思いは交錯するーー
未だ、庶子であるアデライドは自身の行く末も知らぬまま、黴臭い地下牢に拘束され、明るい明日を夢見ていたーー




