13.
・王子の名前をエドワードからエンドルフに変更させて頂きました。
心が逸って眠れませんわ。
今に王子が「すまなかった。誤解していたんだ。叩いてしまった私を許してくれるかい?アデライド」と言って跪いて下さるの。
そうしたら?
私は許してみせるわ。
「これも、王妃になる試練だったのですわ」
艶やかに微笑んで寛容な所をお見せするのよ。
殿方はせっかちですもの。
宰相様もお父様も、謝って下さるのなら許してあげましてよ。
でも、無法者のレヅィールは許せないわ。
そうね、王子に頼んで、両の耳を切断してもらうわ!
鞭打ち100回もしてあげる。耐えられたら……許してあげてもいいわ。あぁ、でも癒しはしないのよ。男性ですもの。自力の治癒力で頑張ってもらいましょう。
痛がるレヅィールに「私は、耐えましたわ」と言ってやるのよ。
「楽しそうだな」
考え事に耽っていたら、ゾクリとする様な美声が聞こえてきました。
「エンドルフ王子‼︎」
涙が急激に込み上げてきます。
詰りたい。私の辛さや苦労をお伝えして、
悪かったと、もうしないと、婚約者はお前だけだと、
仰って頂きたいですわ。
「懺悔があるなら聞いてやろう」
王子は柵越しに一定の距離を取り、近付いてはくれません。
「懺悔?」
私に非はありません。
「謝られるのは王子ではありませんの?私は、王子を許しますわ。ライルやブレインも許しましょう。でもレヅィールだけは許せませんの。私の受けた恥辱や屈辱は消えませんわ」
「…………」
真摯に訴え見つめ続けますが、王子との視線は一向に絡み合いません。
「蜂蜜菓子の頭の王子も理解出来たんじゃない?」
突然、嘲る様なレヅィールの声が響きます。
「レヅィール、エンドルフ王子に不敬でしてよ‼︎」
窘ます。私に対しての態度も許せるものではありませんが、未来の王に対して何という口の聞き方でしょうか。
「馬鹿は死ななきゃ治らない。君の場合は死んでも治らないんだろうね?あぁ、連れて行け。手荒くな?」
「なっ⁉︎」
牢屋の鍵を乱暴に開け、なだれ込んで来たのは黒覆面の男達。
黒い袋を頭から被り目と鼻の所だけ、くり抜かれた異様な風体ーー
「きゃあっ」
髪を乱暴に掴みあげられ、引き摺られるーー
「痛いっ‼︎やめて‼︎歩くわっ、歩くからーーああっ」
縺れる足を待ってもらえずに、髪と手枷の鎖をそれぞれに持たれ、安定を失った私は地面に倒れこみます。
「あっ痛ぅ」
露出した部分に擦過傷が出来、じくじく痛み出します。
「お前達は何なのですか⁉︎私は公爵令嬢なのよ‼︎弁なさいっ」
はしたなくはありますが、悲鳴の様な声が出ます。
「…………」
「…………」
男達が無言のまま、レヅィールに視線を合わせると
「構う必要はない。ルドー公爵はそいつとの養子縁組は解除している。それは、出生の分からぬ馬の骨だよ。ただの塵だ」
レヅィールが信じられない言葉を吐きました。
「なっ‼︎ーーっ、やめ……ま、待ちなさい、まだ、ああっ……痛いっ」
無骨な男達は、更に私を引き摺ります。
「待て。立たせろ」
王子の一声で静止しました。
「っ。んんっ。痛い、ですわ」
悔しくて泣きたくなんてありません。
私を庇って下さったエンドルフ王子は、辛そうに俯かれています。
きっと、何かの事情があるのですね。
これも試練なのだと捉えて、私は身仕舞を正しました。
「もう大丈夫ですわ。連れて行きなさい」
命令すると、男達はさっきより幾分ゆっくり動き出しましたわ。
「ーーっ」
レヅィールの宰相そっくりの榛色の瞳が射抜く様に私を捉えています。
獰猛な獣の様な目は、妖しく光り、血肉滴る獲物を見つけた様に細められるーー
待って?あれ、は。
人の持つ瞳ではないわ。
あれはーー何?
地下は広く、点々と灯る明かりを頼りに私達は
歩き続けましたわ。終わりの見えない先へーー