12.
「私は嘘を言っておりませんよ?」
道化の仮面を捨て去り、死刑執行人一族家長のハーシムネは慇懃無礼に笑う。
「願わくば、死が貴女様の救いとなります様に」
成りきった道化の癖が抜けず、ハーシムネは誰とも会わない隠し通路でくるりと一回転をする。
「死は若い、老い、貴族、乞食、金持ち、貧乏、身分の貴賤は選びませんからね!究極の癒しをアデライド様にもたらすでしょうなっ」
腰を左右に揺らし、腰の小道具をじゃらりと鳴らし彼は鼻歌を鳴らす。
段々低く狭くなる通路を、腰を屈めて通り
「あんなカボチャ顔など論外ですぞ」
麗人が処刑されねば、民草の娯楽にはならないのだとハーシムネは思い出し憤慨の声を荒げる。
うら若き貴族の令嬢が生を一刀両断にされる瞬間が
虐げられた市民の、まだ歯軋りをするハーシムネ自身の心を躍らす瞬間でもあるのだ。
人の生死をその手に握るーー彼は神になったとでも錯覚するのだろうか。
通路は鼻が曲がりそうな臭気を出す下水路へと続いている。
「これは、もう必要ないですなっ」
妙薬を入れていたのとは別の物をポケットから取り出すとハーシムネは下水にパラパラと落とし出す。
「王からは、せめてもの情けにお預かりした妙薬。ルヅィール様からは顔の皮膚が徐々に溶け出す丸薬を。王子様からは気が触れる寸前まで精神を昂らせ、痛覚を鋭敏にする丸薬。ライル様からは特になく……あの方は脳筋ですからな!はっはっ!丸薬の元手はブレイン様‼︎いやぁ〜恐ろしいですね、拷問執行人一族と取って代わるおつもりでしょうか⁉︎いやはや、醜悪な次世代ばかりではありませんか‼︎」
不敬極まりないが、彼等、汚れ役一族は常に時の権力者と繋がっているのだ。
気は大きくなるだろう。
彼は衣服に付いた煤を払い、鉄製の扉を開け鍵を厳重に閉める。
表へ出ると外気が冷たく彼を迎え、生暖かい空気と喧騒の最中、雑踏へと消えたーー。