壱話 始まりの夢
それは、はるか遠い昔の物語でごさいます。
そのころはまだ、あやかしと人とがいまのように、はっきりと別れておりませんでした。
夜な夜な人を喰らうモノ、人と共にいきるモノ
また、人からあやかしへと成るモノ、あやかしが人へ成ったモノ。
いろいろなモノが此の世をいきておりました。
さて、ここにございますのは、ただ二振りの刀でございます。
名を、
<星火龍刀>《せいかりゅうとう》
<月華虎刀>《げっかことう》
この刀を、そしてそれを受け継ぐ者を巡る「あやかし巡り夜話」
いま幕開けで、ごさいます。
「おかあさん、おかあさん。」
「なあに、瑠奈。」
ある山奥のとある山小屋で、五つ、六つになろうかという小さな、可愛らしい幼子が母を呼びました。
「これ、なあに?」
そう言って、さしだされた瑠奈の手には、一振りの刀がにぎられていました。
「まあ!瑠奈、それは我が家に伝わる宝刀よ。普通はこれに近づくこともできないのに、
さすがね。で、それをどうしたの?」
「うん、あのね、ほこらの前をとおってたらね、るなをね、呼んでたの。これが。」
そう言って瑠奈が差し出したのは、金色に輝く柄に、龍の紋様が濃い紺色の鞘に浮かぶ、
素晴しい太刀でした。
「それでね、銀色のはね、るなじゃないって思ったから、
これが呼んだんだっておもったの。」
「呼んだ?」
「うん!『こっちへきて、これをつかめ。』って呼んだの。」
少し興奮しているのか、頬を上気させながら、瑠奈は話しました。
その顔をじっとみつめていた母は、握っていた拳にぎゅっと力をいれ、
おもむろに、口を開きました。
「瑠奈、少しお母さんの話をお聞きなさい。」
めったに聞くことのない、母の厳しい声に、瑠奈は、その手の中の刀を握りしめて、
母のほうに向き直りました。
「瑠奈、その刀は、伝家の宝刀、真の名を『月華虎刀』というのです。」
「 ・・げっかことう?」
「ええ、そして仮の名を、『月夜刀』鍔にそう刻まれているはずよ。」
母の指差した月夜刀の鍔には、確かに瑠奈には読めない文字で何かが刻んでありました。
「お母さん、これ?」
「そうよ、えらいわ。それはね、あやかしを斬る刀だと、言われているわ。
あなたは、それにえらばれたの、これでもう母がいなくても、立派にやっていけるわね。」
「えっ?どうしたの?お母さん、どっかいっちゃうの?」
母は花のような顔で優しく瑠奈の頭をなでました。
その瞳が少しうるんでいたことに気がついたのは、母だけでした。
「月さん!おきてくださいよ。もう!」
寝コケている人間を起こそうと、十六、七の少年が声をかけながら布団をゆすります。
「・・・・うわっ。夢か?昔の夢なんて・・・」
「なにボソボソいってるんですか!仕事ですよ。」
起きたのかと思いきやまた布団に逃げ込む月さん。
「せ、星ぁ、あと半刻まてぇ。」
「なに言ってるんですか!
魔都、江戸一のあやかし調伏師『百月 瑠奈』ともあろうひとが!」
時は大江戸、舞台は【魔都】
あやかし巡りの御伽草子
いま幕開けでございます。




