決して鬼ごっこではない
佐藤さん走る走る走る。まるで何から逃げるように。
しかし何から逃げているのかは皆目見当がつかない。
右足で水たまりを踏みしめて、飛沫も気にせず前に進むために左足を踏み出す。踏み出した先で犬のう〇こを踏みしめる。それも気にしない。
佐藤さん走る走る。
ひらめくギンガムチェックのスカートから、ティーンにうってつけの純白のパンティが顔を出す。
「おっ」
健全な男たちが人目もはばからずにそのパンティをチラ見する。もちろん佐藤さんは気にしない。
横断歩道の信号が赤になった瞬間に車道へ飛び出す。クラクションが唾のごとく佐藤さんに吐きつけられる。
「どこ見とんねんワレコラワレェ!」
ドライバーは関西弁だった。ここは新潟なのに!
佐藤さんは恐怖した。初めて脚が止まった。
「何見とんねんコラァ! わいは見世物ちゃうぞコラァ!」
佐藤さん走る。走る走る走る。まるで何から逃れるように。そして何から逃れようとしているのか、今なら分かる。
佐藤さんはこの世に存在する、あらゆる関西的なものから逃れようとしているのだ。