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「初めまして、桜川広木だ。亜希姉と同じ202号室の住人だ。よろしく頼む」
「よろしく」
翌日、朝食を終えて部屋に戻って数分後、亜希さんともう一人、同年代の男子が部屋へやってきた。夏の風を彷彿とさせる爽やかなオーラを体中から放出しており、体育会系だと一目見た瞬間に判断できた。
「広木は暑苦しいけど良いヤツだよ。とりあえず広木がなにか言い始めたら従っておけばいいと思う。だいたい楽しいから」
キッチンでお茶を淹れている小雪が紹介してくれる。
続いて、
「そうだね。広木君は暑苦しくて一緒に生活してるとなんだコイツって思うことが多いけど、なにか言い始めたら従っておくといい。そこそこ楽しいから」
俺の隣に腰を下ろしている亜希さんも紹介してくれる。
「小雪も亜希姉も、もうちょっとマシな紹介できないのか?」
「十分マシな説明でしょ? 広木のモットーを汲んで紹介したんだから」
「そうだぞ。いつでも楽しく元気一杯にっていうのが広木君のモットーだろう?」
「そりゃそうだが……」
彼は口をへの字に曲げるが、心底嫌がっている様子はない。むしろ楽しんでいる感じだ。
勝手知ったる仲間内のノリだった。
俺が流れに着いていけず、三人のやり取りをぼんやり眺めていると、それに気が付いたらしい彼が改めて自己紹介をしてくれる。
「かなりてきとーな紹介だったが、だいたいは当たってるよ。亜希姉と俺、それから小雪は結構前からなにかあると一緒にいる。夏希は小雪の同室ってことで、声かけることになると思うけど、そん時はよろしくな」
「分かった」
頷いて見せると、亜希さんと同じような爽やかな笑顔を向けてくれた。
百八十五センチはあるかという背丈のせいか、最初部屋に来た時はちょっとびびったのだが、気さくで取っ付きやすいタイプだ。良い友達になれそうだった。
「あ、そうだ、一応言っとくぞ」
「なにを?」
「病気」
軽く、なんでもないことのように広木は説明し出す。
「なんだったかな? 慢性硬化病? とか医者に名付けられた。ほれ、触ってみん?」
「ん?」
「いいから」
戸惑っていると、ぐいっと手を引っ張られ、広木の腕をぐにぐにさせられた。
「……あれ?」
「分かったか?」
「なんか、硬い感じがするんだけど」
率直な感想が口をついて出た。
強引に引っ張られて揉まされた広木の腕は、変に硬かった。筋肉で硬くなっているとかそういうのとは違う。硬くなっている――というより固まっている感触った。
「広木の病気は、全身の細胞がガチガチに固まっていくものだよ」
小雪がキッチンからお茶を持って出てくる。
「他の病気でも、体が固まって動かなくなることはあるけど、身体全てが同じ速度で全て固まっていくなんてことは他じゃ例がない」
小雪の説明を受け継いで、広木本人が説明してくれる。
「要は、全身が完全に固まってしまった時点でアウトだ。内臓も、なにからなにまで固まってるから、死ぬ時は即死に近いらしい」
「ちなみに――」
お茶をテーブルに並べながら、小雪が付け足す。
「余命はあと一年と診断されているよ」
「え?」
あと、一年?
びっくりして広木をじっと見つめると、
「おうよ。あと一年だ」
にかっと笑われる。
「それ、ホントなの?」
思わず疑いの目を向けてしまう。
「本当だよ。なんなら昨日の診断書でも見せてもらえばいい」
「信じられないなら持って来ようか?」
小雪と広木は二人してお茶をずずずと飲みながら答えてくれる。
亜希さんは苦笑いでいるが、内心、どう思っているのだろうか。