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友達を一番大切にしたいと願う少女は、死の淵を彷徨う大切な友人のために、なにを思ったのか。怒り心頭と言った様子で、怒鳴り散らした。
「そこまで分かってるなら、やってあげようよ! 最後なんだよ? これで、本当に終わっちゃうんだよ? 亜希姉がどういう気持ちであれ、形だけでもやれば、広木は喜ぶ。親御さんだって、ひょっとしたら嘘だってばれるかもしれないけど、それでも自分の息子のためにこんなことまでしてくれる仲間がいるんだって絶対喜んでくれるはずだよ。私は、絶対に諦めたくないっ!」
「ちょっ、小雪――」
「だから! そんなこと言われなくても分かってる!」
亜希さんの気持ちを少しは考えろと止めようとしたが、亜希さんの方も火が付いてしまったらしい。俺の言葉はかき消された。
亜希さんは未だ滴る雨粒を散らして、あるいは涙を散らして、怒鳴り返した。
「ずっと一緒の部屋で過ごしてきて、ずっと一緒に生活してきたから、わたしはそれじゃ駄目だって思ったんだよ。広木君はいつだって全力で、いつだって嘘偽りなく、自分の心に正直に生きていた。だから――最後だから、わたしたちが嘘をついて送り出すのは間違ってるんだよ!」
「それはっ、亜希姉の勝手な解釈だよ。自分が一番広木のことを知ってるみたいな言い方しないで。亜希姉なんか、ずっと自分のことばっかり考えて、ずっと自分の夢ばかりを追ってたじゃん! 私は違う。ずっと、皆のこと見て来た。だから分かる。広木だって隠し事の一つや二つはあったし、全部が全部、嘘偽りない姿だったわけじゃない。でも、恋心だけは、そこだけは、絶対嘘じゃない。そこに嘘をつける人なんていないもん!」
マズイ、と反射的に思った。
いくらなんでも、亜希さんの夢の話を引き合いに出すのは卑怯だ。
その辺りのことは初雪荘にいる者同士、触れてはならない禁忌に近いもののはずだ。
それを、しかもこんなタイミングで突っついたら――
「このっ!」
「亜希さんっ!」
亜希さんが、手を振り上げたのを、すんでのところで止める。
予想できていなかったら、小雪は本気で殴り飛ばされていたはずだ。
俺に腕をガッチリ抑え込まれたまま、亜希さんは喚く。
「そんなこと、言われる筋合いはない! そっちだって、いつもアニメ見て、動画サイトの生放送を見て、なにもしてなかっただろう! そんな人間が、なにが皆のことをずっと見て来たって? ふざけるな!」
「どっちがふざけてるの! 私はただ、広木の希望を叶えてあげたいって思ってるだけだよ! 嘘をつくのが嫌とか、広木が満足しないとか、そんなこと、自分のことばかり見ていた亜希姉に分かるわけないよっ!」
「おい! 小雪もっ! やめろ!」
今度は小雪が、亜希さんの胸倉を掴んで、首を絞め始めた。
慌ててその手を力任せに引き離すが、二人の勢いは止まらない。
「どっちが分かってないんだ! 小雪ちゃんはただ自分のやりたいことを広木君の言葉が残っているのを良いことにやろうとしているだけだ。少なくともわたしなら、そもそも本人に許可を取れない状態で、恋心をその相手に打ち明けるなんてことはしないよ!」
「広木の言葉を守ろうとしてるだけなのに自分のやりたいこと? 意味分かんないよ! 亜希姉こそ、好きでもない相手と結婚式をやりたくないから嫌がってるだけでしょ!」
……。
火花を散らす二人を見て、俺はぐっと瞼を閉じる。
広木のためを思うからこそなにかをしたいと言う小雪と、広木のためを思うなら勝手なことはするべきではないと言う亜希さん。
俺には、どっちが間違っているとは言えなかった。
どっちの言うことも一理ある。
だけど――。
「誰が自分のくだらない感情のためにやりたくないなんて言った!」
「広木のためを思うのなら、なにが正しいか分かるでしょ!」
「ああ分かるとも、結婚式なんて馬鹿な真似は絶対にするべきじゃない!」
どっちの言うことも分かるけど。
この、状況は――。
「分からず屋!」
「どっちがだっ!」
また、二人が、今度は同じタイミングで手を出そうとしたところで、
「いい加減にっしろおおおおおおっ!」
俺は力任せに、二人を引き離した。




