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小雪がなんでと言うより早く、亜希さんは畳みかける。
「どうしても、広木君が、そんなことをしてもらって、喜ぶとは思えないんだ。広木君は誰より楽しむことを優先していた。それ故に、だからこそ、自分以外の誰かに迷惑がかかることをあまり良く思っていなかった。もちろん、その先に大きな楽しみがあるというのなら別だけど……けど、結婚式は、違う。絶対に広木君は喜ばない。わたしには、その確信が、あるんだ」
亜希さんは、悲しそうに、泣きそうな声音で、そう言った。
確かに、広木には、そういうところがあった。楽しむことを第一としているからこそ、全員が楽しめるようにと周囲にも気を配っていた。俺と初めて会った時も、俺が仲間外れにならないよう、ちゃんと気を利かしていた。
だから広木が喜ばない、というのはなんとなく分かる。
だけど――
「亜希姉、広木は、自分の口で、亜希姉と付き合いたいって言ってたんだよ。良くしてくれている親御さんに恩返しをしたい、とも言ってた。亜希姉の言うことも、なんとなく分かるけど、広木自身の希望を、私はちゃんと聞いてる。それでも、駄目かな?」
そうなのだ。
小雪が今口にしたように、俺たちがやろうとしているのは、広木自身が希望していたことなのだ。それを最後に叶えてあげたいと思ってなにが悪いのか。
「駄目だ」
「どうして?」
「絶対、結婚式、では広木君が喜ばないと分かるからだ」
「……?」
亜希さんは、何度も、駄目だと繰り返す。
俺と小雪は視線を交わして、
「亜希姉、なにか理由でもあるの?」
きちんと、聞いてみる。
すると、亜希さんの様子が、変わる。
「理由なら……ある。はっきりとした理由が、一つ」
亜希さんは、今にも泣き出しそうな表情で。
震えてしまっている声で。
分からないという俺たちに――
「わたしはっ、広木君のことが、好きじゃない、からだっ」
悲痛な声で、致命的な欠陥部分を、教えてくれた。
「分かってる。わたしがここで、たとえ嘘でも了承すれば、丸く収まることくらい、分かってる。何度も、考えた。何度も考えたけど、どうしても、無理なんだ。わたしには、それで広木君が喜んでくれるとは、到底思えない。だから、受け入れられない」
もうほとんど泣いているような、言葉を紡ぐのがやっとという感じで亜希さんは語った。
小雪と俺は、信じられないような、恐れていた部分を突かれてしまったような、そんな気分で独白を聞いて。
それを、受け入れられなかったのか、小雪が食い下がった。
「亜希姉、でも、広木はもうすぐ、この世界からいなくなっちゃうんだよ? 亜希姉の気持ちは分かったけど、でも……」
でも、なんだろうか、と自分でも思ったらしい。言葉が続かなかった。
対して、我慢の限界だったらしい亜希さんが、声を荒げ始めた。
「そんなことっ、言われるまでもなく分かってる。だから、本当に悩んだんだ。わたしがオーケーさえすれば、それで広木君の望みは叶う。もうすぐいなくなってしまう広木君に、最後のプレゼントができる。そんなこと、言われるまでもなく、分かってる」
「だったら、」
「だからっ、わたしは駄目だと思ったんだよ。そんな風に、最後だからとか、もうすぐ死ぬからとか、そんな理由で、オーケーしたくなかったんだ。小雪ちゃんは、それで、広木が喜ぶと思うのか? そんな決め方で押し通して、広木君が、満足すると思うのか?」
痛々しい叫びだった。
亜希さんが、一番苦しんでいる。
横から見て、俺はそう思った。
亜希さんは、広木のことを異性として好きではないと言った。本心だろう。
反面、広木はもうすぐ他界する身だ。できることなら、最後くらい広木が残していたという希望を叶えてやりたいという気持ちもあるはずだ。
その狭間で、悩んで、雨に打たれて、やっと、決めたのだ。
俺はこの時点でもう無理だ、と悟った。
主役である亜希さんが突っぱねた以上、どんな形で進めても上手くいくとは思えなかった。なにより、一番の主役である広木が、喜ぶとは到底思えなかった。
なのに、俺の隣にいた女の子は。
「このっ 意気地なし!」
普段からは考えられないような、とんでもない声量で、叫んだ。




