表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初雪草  作者: 彩坂初雪
第四章
34/40

4-4

     ◆



「それで、いこう」

 朝食後、部屋に戻って来るなり小雪に問い詰められた俺は、小雪の案を採用することに決定した。

 いろいろ考えたが、決め手になったのは小雪が書き続けている文書ファイルの存在だった。小雪は、友達を第一に考えて、詳細に日々のあれこれを記録している。あの文書ファイルは小雪そのものと言っても過言ではないくらい、大切なモノなのだ。その中に、広木が親に恩返しをしたいということ、そして本人が言ったこととして、好きな人がいることが記載されているのならば――間違いはないのだ。

 親に恩返ししたいという気持ちも共感できる。特に広木は、おそらくは俺たちの中で誰よりも愛情を注いでもらっていたはずだ。俺が将来、親に恩返ししたいと思うのと同じかそれ以上に、強い気持ちがあったとしてもおかしくはない。

 それに、理由はまだある。

「じゃあ、早速行動開始しよう」

「ああ」

 小雪のポニーテールを追いかけながら、おそらく小雪も自信があるからこそ、この案を出したのだろうと考える。

 俺と小雪が向かう先は、広木のいる特別病棟、ではなく、広木と亜希さんの部屋だ。


 広木が好きな相手は、亜希さんだ。


 男女で同室になれば、お互いのことを意識して当たり前だ。価値観が合わない場合もあるだろうけど、広木と亜希さんの場合は、噛み合っているように見えた。もし、広木が告白していれば、亜希さんはオーケーしただろうという確信に近いものが、俺にも、小雪にもあるのだ。

 結婚式、と言うと少し大げさに聞こえるけれど、要は、広木と亜希さんがほんの一時でも結ばれたというコトを証明したいのだ。亜希さんがオーケーしてくれるのであれば、ほとんど成功したも同然だ。

「亜希姉、入るよ」

 特に躊躇せず、小雪は部屋に入った。

「ん、ああ、おはよう」

 部屋の作りそのものはほとんど同じだ。

 亜希さんは、小雪がいつもそうしているように、テーブルにパソコンを開いて座っていた。常ならば、そこのは亜希さんが書いている小説が表示されているはずだが――。

「なにしてるの?」

「特になにも」

 パソコンはスリープモードらしく、画面は真っ黒。その真っ黒な画面に亜希さんは向かっている形になっていた。

 亜希さん自身はというと、普段の先輩っぽい雰囲気が消滅している。目の下には隈があり、昨夜、眠れたのかどうか怪しいところだ。朝食時にもちらちら見えていたが、服装は昨日のまま、ショートの髪の毛もあっちこっちへ跳ねている。たった一人で過ごした夜が、どれほど辛いものだったのか、察するに余りある状態だった。

 そんな亜希さんを見て、小雪は数秒立ち止まってしまったが、

「座るよ」

 すぐに気を取り直して、亜希さんの正面に腰を下ろした。

 俺はその隣に座る。

「なにか用かな?」

 亜希さんはパタンとノートパソコンを閉じて、生気のない瞳を向けて来る。小雪はそこでまた気おくれしたような表情を一瞬作ったが、ぶんぶんと頭を振って本題に入る。

「亜希姉に、提案があるの。大切な、話」

 小雪らしからぬ真っ直ぐで、意欲満々という言葉。

 その姿勢になにかを感じたのか、亜希さんは少し驚いてから、「分かった」と居ずまいを正してくれた。



 俺と小雪の提案を聞き終えた亜希さんは、暫くの間黙り込んだ。

 小雪の話の途中、亜希さんは幾度か俺を見て来た。昨日まで自分と大差ない精神状態だった小雪が、こんなにも前向きな発言をしているのだ。なにかあったのは間違いないと思えるのだろう。であるのなら、俺がなにかをしたと考えたはずだ。――まあ、たぶん正解だ。

 さて置き。亜希さんは俺と同じく「結婚式」という単語を聞いた瞬間こそ「なに言ってるの馬鹿じゃないの」という顔をしたが、小雪にはっきりと理由を聞かされてからは、真面目に案を吟味し始めたようだった。同時に、生気が全く宿っていなかった瞳に、光が入った気がした。広木のためになにかできるかもしれない、ということは亜希さんにとっても、歓迎すべき話だったようだ。

で、今、黙考中、だと思う。

 ちなみに、小雪は自身の文書ファイルについての明言を避けた。広木に実際に聞いたことがある、という風に話した。記録のあるなしは大切ではあるけれど、間違いではないし、亜希さんも疑いはしないだろう。小雪的には、俺にばれてしまったとはいえ、やはりあのファイルはおいそれと他人に話したいものではないらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ