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初雪草  作者: 彩坂初雪
第四章
33/40

4-3

 ちゃんと話を聞いてみれば、頭ごなしに否定するほど悪い案、ではないような気はした。だが、まず、前提条件が少しおかしいのだ。

 俺は結婚式については、中学時代に一度、母に連れられて行っただけで、それ以上の知識はない。ただそれでも一つ、分かることがある。

 主役は、結婚するご両人だということだ。

 広木は今、喋れる状態じゃない。つまり、結婚式をやろうとするのなら、やる前に、広木の気持ちを誰かが代弁して、その相手に伝えなければならないのだ。それは本来、他人が介入してはいけない領域だ。誰かが背中を押す、くらいのことはしても、口にするのは本人で、答えるのもその相手本人でなければならないだろう。

 それを、他の人間がやってしまってもいいのか、どうか。

 広木が喋れない以上、そうしていいのかどうか、分からないのだ。


「でも記録は、残ってる、よ」


 数秒黙っていた小雪が、パソコンに目を向けて、言った。

「……あのファイルに、か?」

「うん。一度、広木と二人の時、はっきり聞いたことがあるから」

 俺が知らない、ということは俺が初雪荘に来る前の出来事だろう。

 読んだからこそ分かるが、小雪のファイルは絶対だ。小雪視点だから、少し偏ってはいるけれど、書いてることに間違いは見当たらなかった。

そこに、広木の気持ちが残っているのか。

「でも、だとしても、本人の許可を取らずに俺らでっていうのは――」

「じゃあ、このまま、何もしないで見送って、それで終わりでいいの?」

「……」

「私は、嫌だよ」

 もし他に案があるなら出して、と小雪は付け加える。

 ここでぱっと他に良い案でも出てくればいいだのが、そう簡単に出て来るはずがない。

 俺だって、小雪と気持ちは同じだ。広木のために、なにかしてやりたい。たとえ数週間の仲でも、友達だったことに変わりはないのだ。小雪や亜希さんほどでなくても、やれることがあるのなら全力で協力したいと思ってる。

「案がないなら、多少無茶でもすぐに行動しないとダメだよ」

「でも、結婚式って、いくらなんでも唐突すぎないか……?」

「そう思うなら、夏希が良い案出してよ」

 睨む、までいかないが、キツイ視線を送られた。

 少し、瞳に水気があるようにも思える。

 小雪は、明らかに焦っていた。

 広木はあと一週間もつかどうかという状態だ。気長に考えている暇はない。あと一年は大丈夫と言われていたのにここまで早まったのだ。今回だって、医者の言葉を信用していると痛い目をみる可能性もある。

「……朝食まで、考えさせてくれ」

 時間がないのは承知しているが、それでも、勢いで押し切るべきではない。

 視線に力を込めて返すと、小雪は渋々といった様子ではあったけど、了解してくれた。


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