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初雪草  作者: 彩坂初雪
第四章
32/40

4-2

「俺も、それは賛成だ」

 なにも言わず、ただ、賛成の意思を示す。

 小雪はうん、と頷いて、「ちょっと考えたんだけど」と前置きしてから、


「恋愛を使えないかなって、思うの」


 そう言った。

「今しがた、具体的なことは決まってないとか言ってなかったか?」

「あ、それは、二人で決めようってこと。最初に私の意見を言うから」

「分かった」

 恋愛、という言葉がちょっと気になったが、反論はしない。

 意見があるというのなら、真剣に聞かせてもらおう。

 小雪も、努めて真面目な表情で、考えたという案を口にする。



「結婚式、できないかなって」



 ん?

「――…………は? え、はあああああああ?」

「な、なにその反応。こっちは真面目に――」

「真面目か? それは真面目なのか? 結婚式って、俺らまだ年齢的には高校生だぞ。恋愛はまだいいとして、なにがどうなったら結婚式なんて言葉飛び出すんだ?」

 あまりに突拍子のないことを言われ、反論、というよりお笑いのツッコみを入れるように早口でまくしたてる。が、しかし、小雪の方はどうも本当に真剣だったらしく、心外という表情になっている。

「ちょっと冷静に聞いてくれる?」

 浮ついた気持ちなど一切ない、小雪にしては珍しいほど低い声音を発されて、黙る。

 俺は反発したい気持ちを抑え、とりあえず耳を傾ける姿勢になった。

「夏希も気付いているかもしれないけど、広木には、好きな人がいたの」

「ああ、それはなんとなく気付いてたぞ」

 相手が誰なのかも、な。

「その人の了解は当然必要だけど、もし、広木が――死ぬ、前にその人と結ばれるってことになったら、広木は絶対嬉しいと思う」

 死ぬ、という部分を言いたくなさそうにしながらも、小雪は言い切った。

 心の中で、そりゃまあそうだろうと同意する。

 誰だって好きな人と結ばれたいと思うだろう。失恋や片思いも恋愛の一つ、とは言うけれど、望んでそうしたい人間などいるわけがない。できることなら、誰だって好きな人と一緒になりたいはずだ。

「それで、結婚式、か」

「うん。駄目、かな?」

 自信なさそうに、上目遣いで尋ねてくる。

 いろいろ説明すべき部分が抜けていた気がしなくもないが、案そのものは理解できた。

 たぶん、こういうことだろう。

 まず、二つの前提条件がある。

 広木には好きな人がいる。

 広木は死ぬ前に親御さんに少しでも恩返ししたいと思っていた。

 これらを繋げてしまおうということだ。

 子供の結婚式を見て、喜ばない親はたぶんいないだろう。広木の好きな相手で、その相手も了解してくれた上でのことならば、尚更だ。広木も嬉しく感じるだろうし、親御さんだって悪い気はしないはずだ。

 無理は、出て来る。まず、広木の状態からして、自分の足で歩くどころか言葉を発することができないのだ。そもそも結婚式なんてことができるのかどうか怪しい。やるとしても、普通の結婚式のような盛大なものができるわけがない。

 さらに、初雪荘の職員に、明らかに迷惑がかかってしまうということ。そんなことをするとなれば、万一に備えて、医師に必ずその場にいてもらう必要が出て来る。いつ誰が倒れるかも分からないこの初雪荘で、たった一人の入所者のために、そんなことをしている余裕があるのだろうか。

 それに、なにより。

「もし、やるとして、それ、俺らが勝手にいろいろやっていいことなのか?」

「それはっ……そう、なんだよね」

 小雪は、ぐっと口を閉ざしてしまう。


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