3-10
「小雪……」
涙は、まだ止まっていなかった。
俺が歩くのをやめると一緒に止まってしまうので、手を引っ張って彼女をベッド脇まで連れて行き、そのまま座らせる。
さすがにこれ以上はどうしようもないかなと思って離れようとすると、
「――ん?」
後ろから、服を引っ張られる感触。
小雪が俺の服をくいくいと引っ張っていた。
「どした?」
なるべく優しく問いかけてみるが、小雪は涙を零すばかりで返答がない。
首だけ後ろを向いた状態でどうしたものかと迷っていると、今度はぎゅーっと服を引っ張られた。これは、傍にいて欲しい、ってことでいいのだろうか。
「えっと……隣、座っていいのか?」
こくり。正解らしい。
同室とはいえ、男と女だ。小雪のベッドに上がり込んだことも、座ったこともない。おそるおそる、という感じで小雪のすぐ隣に腰を下ろす。
「て、おいちょっ!」
直後、小雪は俺の肩に寄りかかってきた。いくら異常事態でもさすがにマズイだろうと反射的に体を離そうとするが、またしてもぎゅーっと服を引っ張られる。
そこで、始めて気付く。
手が、震えていた。
「……」
小雪は、本当に恐れているのだ。一人にされることを。
男女とか、そういうことを気にする余裕もないくらい、小雪は怖がっているのだ。
俺は一言、分かったと口にして、小雪に肩を貸した。
小雪が泣き止んだのは、それから十数分後。
「寝るなよなー」
泣き止んだ、と言うのは語弊があるかもしれない。泣き疲れたらしく、俺の肩を枕代わりにして眠ってしまった。
「しゃーな……あ……」
しゃーないと言おうとして、止まる。それは、広木の口癖だ。いつの間にか俺も使うようになっていたが、広木がいない今、使うのは憚られる。
でも、本当に、しょうがない。
小雪は、下手したら数年分の涙を今日一日で流したのだ。
朝、隔離部屋から帰って来たら、自分のトップシークレットを覗かれていてパニックになり、そうかと思えば、何年も同じ時を共にした人間が倒れた。許容量を超えてしまったのだろう。
「よっと」
俺は小雪をお姫様抱っこで抱えて、ベッドにちゃんと寝かせてやる。
思った以上に軽く――とはならず、普通にそこそこ重かったが、たぶん俺に腕力がないせいだろう。小雪の体は抱いてみて初めて分かったが、本当に細い。もともと、筋肉がつくような生活を送っていないのだから当たり前と言えば当たり前だが、たぶん、女子の中でも軽い方だろう。
「おやすみ」
俺の服を掴んだままだった手を優しく解いて、毛布をかける。
「俺も寝るか」
欠伸を噛み殺す。
できれば、小雪と少し話をしたかったのだが、こんな状態では無理だろう。
それに、俺だっていろいろあって今日は普通の日の何倍も疲れている。シャワーを浴びようか少し迷ったが、それすら億劫で、俺は自分のベッドへと潜り込む。思っていた以上に疲れていたらしく、俺はベッドに潜り込んでから数分後には夢の世界へと落ちていた。




