3-3
とか軽く考えているからこうなる。
「おかえり~」
小雪は普通に部屋に戻ってきていた。
考える時間など全くないままご対面となってしまった。
「お、おう。ただいま」
挙動不審になりながらも入室する。
小雪はテーブルに座り、いつも通りノートパソコンをいじっていた。
「……」
なにか言われるのではないかと身構えたが、数秒待っても言葉はない。というか、小雪は「おかえり」と言った後、視線をノートパソコンに戻している。
「どうしたの?」
それどころか、突っ立ったままの俺に不思議そうな顔を向けて来る。
「いや」
不思議なのはこっちだと思いつつ、とりあえず彼女の前の席へ移動する。
椅子に腰を下ろし、まじまじと小雪を見つめる。
朝食時は気まずさが先に立ってしまい気が付かなかったが、目が、赤い。広木の話に間違いはなかったようだ。明らかに、泣きはらしたような顔になっている。
「なに?」
見つめられていることに気付いたのか、尋ねられる。
なにじゃないだろうと視線で訴えて見るが、小雪は可愛らしく、あるいはわざとらしく首を傾げて、今度は動作で「なに?」と言ってくる。
「……」
あくまで何事もなかったかのように振る舞う小雪を見て――数秒の後、納得した。
めんどくさいからスルー、ってことか。
朝食時に物凄く気まずくなったことを踏まえ、おそらく小雪はこれ以上事態がこじれることを回避しようとしているのだ。俺が朝食時か、もしくは今、ずばっと切り込んでいれば、小雪もそのつもりで対応したのだろうが、俺はただ気まずくて黙ってしまっている。小雪にしてみれば、自分の一番知られたくない部分を知られた後なのだから、俺以上に内心穏やかではないはずだ。その上、相手がなにもアクションを起こしてくれないとなれば、居心地が悪いどころではないだろう。
たぶん小雪は、とにかく自分の居場所であるこの場所で、せめて普通に過ごせるよう対応しているのだ。面倒事を回避して、できるだけ生きやすい――過ごしやすい場を作る小雪らしいやり方だ。煮え切らない態度を取ってしまっている俺なんかより、むしろ潔い気すらする。
でも。それでいいわけがない。
俺が、この場でするべきはそうじゃない。
小雪の振る舞うままに合わせれば、勝手にファイルを見たこともお咎めなしで済むだろう。何も見なかったことにして過ごすことだってできる。
けど、それは、駄目だ。誰にも自分の心を見せないこのお姫様の心は、普段の彼女からは想像できないモノで一杯のはずだから。それを、知ってしまったから。
進む、べきだ。
「小雪、話がある」
俺は、小雪の赤くなった目を見つめて、はっきり言った。
対して、小雪は少しだけ悲しそうな、辛そうな表情でぽつり。
「分かった」
ノートパソコンを畳んで、そう返してきた。
◆
俺はまず、ごめんなさいを連打した。
ゲームのボタンを連打する時と同じノリで、連打しまくった。
小雪は途中で「あまり謝られると怖いからもういいよ」と止めてきた。で、勝手に見たことについては「しょうがないから」と許しをもらうことができた。
「じゃあ、本題、いいか」
「うん」
俺はどっちを先に話そうかと思う。
ノートパソコンに書かれていたことは大きく二つ。
小雪の気持ちの問題と、もう一つ。
病気のこと、だ。
先に話すべきは、後者だろう。
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずはっきりさせたいことがある」
「なに?」
一度、ぎゅっと目を瞑ってから。
「小雪の病気の、限界温度がどんどん上がってるってのは、本当か?」
核心部を突いた。




