3-2
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自傷行為発覚時以上に気まずい空気を互いに纏って朝食を食べ終えた後。
「お前ら、朝からなにやってたんだよ」
食堂に残っていた俺に、広木が声をかけてきた。
「おかげでこっちは寝不足だぞ」
「すまん」
小雪が逃げ込んだのは、広木と亜希さんの部屋だった。
小雪が出て行った数分後、広木から「小雪が変な声あげて部屋に飛び込んで来たんだがどうした?」というメールがあったのだ。俺は謝るとともに、二人で解決するから放って置いて欲しいとお願いしていた。
「あんな小雪初めて見たぞ?」
広木はカウンターでコーヒーをもらい、戻ってくるなりそう言った。
「なんかあったのか?」
聞くと、広木は正面の椅子に腰をかけつつ、一言、「壊れてた」。
「壊れてた?」
「ああ。三十分くらい亜希姉がなだめてようやく落ち着いたんだが、顔真っ赤にして泣きまくってな。誰か親しい人間が死んだわけでもないのに小雪がガチ泣きしてるところなんて初めて見たぞ」
「マジか……」
その言葉に、少なからず驚く。
面倒事を嫌う性格から、のらりくらりとなんでもやり過ごし、アニメや動画サイトの生放送くらいにしか興味を示さない小雪が、大泣きしたのか。それも、親しい人間が死んだ時と比べられるレベルで、だ。
一度そう思ってから、いやいやと心の中で否定する。
当たり前、かもしれない。
それだけのことがあのファイルの中には記されていたのだ。
決して他人に見せたくないであろうモノを他人に見られて、平常心でいられる方がおかしい。小雪にとって、それほど隠しておきたいものだったのだろう。
「小雪本人はなにも理由を喋らないんだが、夏希に聞いても同じ、でいいのか?」
半ば答えが分かっているような口調で問われる。
「……悪い」
迷惑をかけてしまっている手前、理由をほんの少しだけでも話した方がいいのだろうが、そうもいかない。小雪の許可が出ない限り、喋るべきではない。
「そうだろうな、ま、別にいいさ。……夏希――」
「ん? なんだ?」
「しっかり、やれよ」
「分かってる」
広木はブラックコーヒーをごくりと一気に飲み込むと、立ち上がり、頑張れよと俺の肩をぽんと叩いて食堂を出て行った。
「俺も戻るか」
食堂にいれば、小雪に出くわす確率は低い。
ちょっと考えをまとめたくてここにいたのだが、逃げているわけにもいかないだろう。今現在、小雪が自室にいるのかどうかは分からないが、とにかく戻ってさえいればいつかは小雪も帰ってくる。その時が勝負だ。
なによりもまず、謝らなくてはならない。
あれは、間違いなく小雪のトップシークレットだ。例えるなら、スリーサイズとか、女の子の秘密とか、それらと同等か、それ以上の秘密のはずなのだ。安易にその部分に触れてしまったことを、謝罪しなければならない。
そこまでは、いい。
謝らなくてはいけないことくらい重々承知している。
だがその後は?
「……行き当たりばったり、ってわけにもいかんよな」
ふうとため息を吐く。
さっき、朝食を食べた時の雰囲気からして、すぐに小雪が部屋に戻ってくるとは考えにくい。可能性はゼロではないが、大泣きするほどのことがあった後だ。また広木たちの部屋に行っていると思っていいだろう。昼食までに戻ってくるかも怪しいところだ。
とりあえず、部屋に戻ってゆっくり解決策を考えよう。




