2-6
◆
思ったより早くなったけど大丈夫かな?
もう少し屋上で涼んでいたいという亜希さんと別れて自室へ戻る途中、そう言えばと思う。部屋を出る際、あまり早く戻らないと小雪に告げている。必要以上に遠慮しないように、と二人で決めてはいるが、男女で同じ部屋にいるのだ。その辺の気遣いはある程度するべきだろう。
「ちょっとぶらぶらしてから戻るか」
呟き、部屋とは違う方向へ歩き出す。
ただ単調に足を動かしていると、なんとなく、初雪荘へ来てからの出来事を思い出す。
小雪との衝撃的な出会いから始まった、非日常の時間。常識が通じない病気を持っている人たちと出会い、始めて死というものを生で見たりもした。
感じたことは一つ。
異常、だ。
それが正直な感想だ。
すっかり馴染んでいる俺が言えたことではないかもしれないが、一般校で体験してきたことと何もかもが違いすぎている。
特に、違和感を覚えるのは人と人の距離感。
一般校でも、息が合えば数日でいろんな人と仲良くなれる。なにが好きとかなにが嫌いとか、そういう風に友達になれる人は少なくない。けれど、いきなり自分の人生観や、家族のことを、たった数日で平然と話せるような仲になれる人間はほとんどいないだろう。
不自然、極まりなかった。
不快感はない。もともと俺は誰かと話すのが好きなタイプだ。自分のことをはっきり口にできる関係というのは悪くない。
不満はない。だが、違和感はある。
一週間程度で親友のようになれてしまっている、濃密な時間感覚に。
皆が皆、心のどこかで焦っているのだ。余命がどうとか言われても、そもそも原因が分からない病気ばかりだ。本当にその余命で合っているかどうかすら怪しいのだ。一日を大切にしようとするのが当たり前だろう。
そう、思うと。
頭に浮かぶのは同室の美少女さん。
亜希さんと広木とは、それこそ親友のようになれている。なにも隠し立てすることなく、常に本心で語り合えている自信がある。
けれど、小雪はどうだろうか?
俺は、ずっと一緒に過ごしているあの絶世の美女のなにを知っているのだろうか。というより、誰か、小雪の本心を知っている人間はいるのだろうか、とすら思う。
広木や亜希さんが口にしたことは間違いではないと俺も思っている。超が付くぐらいの面倒くさがりなのは明らかだし、それを本人が気にしていないのも目の前でずっと見ている。昔、活発で明るい子だったという彼女が今のようになってしまったのは、身近な人間の死だろうという推測も、十分成り立っている。
でも、確証が、ない。
間違いではないと感じつつも、本人の口から出た言葉ではないことが、妙に気になる。小雪と一週間以上同じ屋根の下で暮らして――
小雪の本心に、触れたことがあるだろうか。
「……戻るか」
小雪のことを考えている内に、足が止まってしまっていた。
反転。そのまま部屋へと向かう。
「女の子の事情とやらに遭遇しないことを祈ろう」
別に遭遇したからどうということはないが、どうしてもその直後は互いに気を遣ってしまうのだ。できることなら遭遇したくはない。
ものの一分ほどで部屋の前に到着し、ドアを開ける。初めて入った時の印象が強くて暫くは緊張してドアを開けていたものだが、今はもう自宅と同じ感覚だ。
廊下を通り、なんの意識もせず、普通に部屋のドアを開けた。




