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先日、広木にも同じような答えを返された気がする。
「なんですかその小雪らしいって」
「そのままの意味だよ。小雪ちゃんがずっとここで生活していることは知っているだろう?」
「それは、はい。知ってます」
病気を聞いた時、知らされている。
「だからだと思う。推測だけどね」
「……?」
理解できず、首を傾げると亜希さんは続けて説明してくれる。
「小雪ちゃんは、わたしや広木なんかよりもさらに長い間、ここで生活しているわけだ。それはつまり、わたしたち四人の中で誰よりも多くの『死』を経験していることになるんだよ。その大半は自分と関係のない赤の他人の死だろうけど――」
一拍置いて。
「当然、身近な人間の死も、体験しているはずだ」
思わす、「あっ」と声を上げてしまう。
「わたしが来た時にはもう広木君がいたけれど、広木君が来る前は、どうだったんだろうね。誰か、他の人が小雪ちゃんの隣にいたんじゃないかな? その人がどうして今いないのか、分かるよね? だから――」
「そういう、どうにもならない現実を何度も見ているから、自分のことも諦めてしまっている、ってことですか」
「わたしはそう思う。なにせ、広木君に聞いたところによると、小雪ちゃんが引きこもりがちになったのはわたしが来る少し前くらいかららしくてね。それまでは、活発で明るい女の子だったって聞いてる」
「マジすか」
「マジだよ」
ふざけた調子ではなく、亜希さんはきっぱりとそう言った。
あの小雪が活発で明るい女の子だったというのは、驚き以外のなにものでもない。
今の小雪は、面倒事を嫌い、食事以外は部屋に引きこもり、好きなことしかしないのだ。とてもじゃないが活発で明るいという印象は持てない。
もしも、彼女が以前は明るく、活発な女の子であったとするならば、今の彼女へと変えてしまったきっかけはおそらく、亜希さんの言葉通り、
「身近な人間の死」だろう。
ついさっき、小雪が俺よりも死を多く経験しているのにどうして未来を見ないのか、と思ったが、逆だ。死を多く経験しているからこそ、小雪は諦めてしまったのだろう。
「もしかしたら、前にも俺や亜希さんみたいな人と会ったことがあったんでしょうか?」
「……その可能性も、十分あるだろうね」
「ですよね」
俺も亜希さんも、お互いに視線を向けず、宙へと泳がせた。
確証はないが、小雪が『未来』を捨ててしまっているとしたら、その可能性が一番高い。
俺や亜希さんと同じように小雪のすぐ近くで未来を語った人物がいて、そして――なにもできずに亡くなった可能性、だ。
ただ身近な人間が亡くなったというだけで自分自身の将来を切り捨ててしまうとは考えにくい。きっと、小雪の近くには、俺たちと同じような存在がいたのだ。
「なんというか、嫌な意味で、小雪らしい、って感じですね」
「そうだね」
先日、広木に「小雪らしい」と言われた時は呆れ半分ではあったけれど、嫌な意味合いではなかった。どちらかというと、友好的な雰囲気ですらあった。
今回は違う。
長く初雪荘にいた小雪だからこそ、という意味での「小雪らしい」だ。
あまりいい気分で聞ける「らしい」ではない。
「だから」
宙へ視線を泳がせたまま、亜希さんポツリ。
「わたしはその辺のことは深く聞かないようにしているし、わたしとは関係のないことと割り切って自分の将来を見ている。夏希君も、気になるだろうけど、あまり小雪ちゃんの生活態度については口を出さない方がいいと思うよ」
「みたいですね。気を付けます」
ため息混じりに、そう答える。
人が生きるだの死ぬだの、そもそもこれまで縁がないことだったのだ。何度も経験し、辛い思いをしてきただろう小雪に対して、口出しできるわけがない。同室である以上、気になってしまうことはあるだろうが、そこは割り切るべきだろう。
「ま、とりあえずわたしたちはわたしたちで頑張ろうよ」
「はい」
俺と亜希さんは、それから十数分ほど、今度はしっかり前を向いて、互いの将来を語り合った。




