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小雪の病気が発覚してから一週間は、特になにがあるわけでもなく普通に過ごした。
健康診断も体験し、初雪荘の暮らしにも慣れてきた。
「よくやるね~」
「まあな」
ここのところ勉強にかなり熱が入っている。
先週、そして今週も、医務室へ運ばれていく人を見かけた。本当に、他人事ではないのだ。こうして過ごしている間にも誰かが苦しみ、死んでいっている。
俺は広木や亜希さんが遊びにでも来ない限り、とにかく勉強に励んでいた。
ま、それはそれとして。
「あんまり根詰めると良くないぞー」
小雪がキッチンから間の抜けた声をかけてくる。
そんな小雪を見ていると、例の言葉が脳内再生される。
俺と同じような病気を持ち、俺より「死」を何度も経験していながら、小雪は毎日をだらだらと何もせずに過ごしている。アニメを見ることが悪いとは言わないが、本当にそれしかしていない。一生懸命勉強をしている目の前で、そういう姿を見せられるのだ。やっぱりちょっと気になってしまう。
小雪は、未来を見ていないのか、と。
「ほい、お茶」
「ん、さんきゅ」
小雪が冷たいお茶を持ってきてくれた。
小雪本人は、相変わらず熱いお茶だ。
なんとなく、集中力が切れてしまった。
「ちょっと亜希さんたちんとこ行ってくるわ」
出されたお茶をぐいっと一気飲みして言う。
「用事?」
「いや、気分転換。小雪も来るか?」
「ぅく……私はいいや。行ってらっしゃい」
激熱のお茶にためらいなく口を付けてから、小雪はひらひらと手を振って見せた。
面倒そうだと思ったことにはとことん付き合わないのが小雪だ。一週間一緒にいて、広木の言うことが分かってきた。ただ友達の部屋に行くだけのことでも面倒だと感じるらしく、亜希さんたちが訪ねて来ない限り、小雪が二人と話している姿を見たことがない。どうやって友達になったのか、甚だ疑問だった。
「あ、どのくらいで戻る?」
ドアの前まで行ったところで、小雪がパソコンを開きながら聞いてきた。
「さあ? でも話始めると結構盛り上がるからな。すぐには戻らないと思うぞ。なんか用でもあるのか?」
「別に。女の子にはいろいろあるんだよ」
艶のある長い黒髪を払いながら、にこっと笑われる。
一週間一緒に過ごして、その辺のこともある程度理解していた。たまに、小雪は俺に隠れてこそこそなにかをしていることがある。一度、不意打ちでなにしてるのかと話かけたら、白い肌を耳まで赤くして本気で怒られた。結局、なにをしているのか分からなかったが、「女の子にはいろいろある」というヤツだろう。
「じゃあ行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい」
小雪に見送られて、部屋を出る。
俺と小雪の部屋は一階、亜希さんたちの部屋、202号室は二階にある。階が違うだけでどっちの部屋も階段のすぐ脇にあるため行き来するのは大した手間じゃない。たったこれだけの距離を、小雪は面倒くさがるのだ。筋金入りだ。
俺は階段を登り、亜希さんたちの部屋の前まで――
「っと?」
来たら、ドアが勝手に開いた。
「お? 夏希君?」
「ども」
中から亜希さんが出てきた。
「ひょっとして遊びに来たとか?」
「そんなとこです」
亜希さんはあららと申し訳なさそうな顔になる。
「今、広木君の親御さんが来てるんだよ」
「親御さん?」
「そう。広木君って凄い愛されてて、週に一度は絶対親御さんが顔出しに来る。わたしも挨拶はするけど、いつもすぐに席を外してる。家族独特の雰囲気があるからね」
渋い表情を浮かべる亜希さん。
「なにか作業中だったりしたんですか?」
「そうなんだよ。ちょうど執筆中でね。前もって伝えてくれればいいんだけど、広木もいつ来るかは知らないらしくて、毎回同室のわたしが追い出される形になる」
「そりゃ大変ですね」
あははと苦笑いで返すと、亜希さんは広木を真似て「しゃーないけどね」と言う。




