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OP

 M県のほぼ中央部に位置する陸上自衛隊吉岡駐屯地は、駐屯地創立60周年記念行事を翌日に控えていた。

 南東北唯一の機甲部隊である第6戦車大隊と第6偵察隊を擁するこの駐屯地は、付近に鉄道の駅が無く交通の便が悪いにも関わらず、毎年行われる駐屯地祭には、地元住民を始め、多くの見物客が訪れることで有名だ。

 観閲行進では何両もの74式戦車が轟音を立てて驀進し、訓練展示においては、敵味方に分かれた74式戦車や87式偵察警戒車などが、狭い営庭内で空砲を撃ち合う、派手なアトラクションが大きな目玉となっているからだ。

 特に駐屯地開設60周年の節目を迎える今年は、配備されたばかりの10式戦車と機動戦闘車(MCV)が初お目見えするということもあり、駐屯地周辺の旅館やビジネスホテルなどの宿泊施設は、1ヶ月以上も前から予約で満室状態だった。

 数年前の創立記念行事の時、某野党の参議院議員が、古くなった74式戦車を代替すべく、第6戦車大隊に10式戦車を、第6偵察隊に機動戦闘車を配備すべく働きかける! などと、来賓祝辞を述べていたが、数年後、よもやそれが現実になるとは、誰も想像はしていなかった。

 首都圏や西部以外で、真っ先に機動戦闘車が配備されたことについては、いちおう理由があった。

 日本と韓国の関係が悪化の一途を辿っている昨今、もし有事となれば、国内の在日朝鮮人が一斉に蜂起する可能性が考えられたからだ。

 吉岡駐屯地が所在する吉岡町の隣は、M県の県庁所在地であり、東北最大の都市である青葉市だ。

 青葉市には、在日朝鮮人が数多く棲息しており、東北で唯一の韓国領事館まで存在するし、カリアゲデブの肖像画に祈りを捧げ、反日教育に精を出す薄汚い朝鮮学校まである。

 事が起こった場合は速やかに急行し、そいつらを駆除するためなのである。

 ともあれ、東北で唯一10式戦車と機動戦闘車という新鋭装備を導入することになった吉岡駐屯地は、内外から注目の的となっており、特に配備されたばかりの機動戦闘車にとっては、今回が事実上の一般公開でもあった。

 創立記念行事前日である今日は、明日の式典や訓練展示に参加する支援部隊の人員や装備の受け入れが行われていたが、そこに面倒くさい連中が現れた。

 首からは「憲法九条固持! 戦争反対!」などと書かれたプラカードをぶら下げた、60代ぐらいの男女数人だった。

 数台の乗用車で乗り付けてきた彼らは、まるで出入りする車両を妨害するかのように、駐屯地の正門前に堂々と違法駐車しやがった。

 吉岡駐屯地の正門は比較的交通量の多い国道に面しているため、駐屯地に出入りする車はおろか、国道を通行する車の進行を妨害する形になっているが、そんなことは全く気にしていない。

 他人の迷惑なんぞ考えていては、サヨクは務まらないのだ。


「おい、邪魔だ!」

「こんなとこに止めんな!」


 そんな罵声と激しいクラクションを浴びせられるが、連中は気にも留めず、車の移動を指示しようと駆け寄ってきた守衛の一士(一等陸士)の鼻先に、請願書のようなものを突き出した。


「我々はぁ、明日開催予定のぉ、吉岡駐屯地の記念行事に反対するぅ、『平和な東北を目指す市民の会』の者ですぅ! この美しく緑豊かな吉岡町でぇ、新型戦車をこれ見よがしに誇示しぃ、アジアの国々に脅威を与える温床となることはぁ、一地球市民として看過出来ません!」


 リーダー格らしい初老の女性が、金きり声を上げた。

 口癖なのか、日本語が不自由なのか、やたらと語尾を延ばす話口調が妙にイライラする。

 某支持率0%の政党の女党首の口調に、気持ち悪いぐらい良く似ていた。


「駐屯地記念行事の反対とぉ、10式戦車およびぃ、機動戦闘車の即時排除を要請しますぅ!!」

「お話は承りました。お持ちいただいた書類については、駐屯地司令に間違いなく渡します。他の方々のご迷惑になります。至急、お車の移動をお願いします」


 内心でげんなりしながらも、一士は型通りの応対で追い返そうとしていた。

 一士が特にドン引きしたのは、彼らが、首から下げている様々なボードに書かれた内容についてだった。

 『戦争反対!』とか『九条固持!』はまだ分かるとして、『原発反対!』やら『レイシズム・ヘイトスピーチ反対!』など、明らかに無関係なものが混ざっている。

 この主張の一貫性の無さが、彼らが一般の国民から蔑まれる理由のひとつなのだが、脳内に幸せ回路でも備わっているのか、単純にオツムが残念なだけなのか、そのことに全く気付いていない。


「吉岡駐屯地記念行事はんた~い! 美しい吉岡を守れ~!」

「守れ~」


 挙句の果てに、シュプレヒコールまで上げ始めた。もちろん、無許可だ。

 ただでさえ忙しいのに、余計な仕事を増やしやがって。

 一士は、舌打ちしたい気分を必死に堪えつつ、駐屯地正門付近での政治的活動は許可していないことを伝えるが、もちろん聞きはしない。

 彼らにとって、規則とは他人が守るべきものであり、自分たちが守るべきものではないからだ。

 思考パターンがまんまアルかニダと同じだ。


「吉岡駐屯地反対! 自衛隊反対! 米軍の手先は出て行けー!」

「出て行けー!」

「我々は、自衛隊解体まで闘うぞー!」

「闘うぞー!」


 ついにはそんな気勢まで上げ始めた。「闘う」だなんて怖いですね。平和主義者が聞いて呆れます。

 同じ県内の駐屯地から、支援のために訪れる部隊の受け入れなどで忙殺されている時に、鬱陶しいことこの上ない。

 立派な公務執行妨害だ。

 一士が警務隊を呼ぼうと、守衛所に引き返したその時だった。

 突然、眩い光が吉岡駐屯地を包み込んだ。


「うお!」

「な、なんだ!?」


 サヨクの引き起こした渋滞に巻き込まれていた一般車のドライバーは、夜間にハイビームを直視したような眩い光に思わず声を上げた。

 数分後、ようやく視力が回復したとき、彼らは驚愕した。

 吉岡駐屯地が消えうせていたからだ。

 綺麗さっぱり、駐屯地の敷地内のものが跡形も無く消えうせ、更地だけになっていたのだ。

 渋滞の原因となっていた、サヨク共も、連中の乗りつけてきた車共々、一匹残らず消え失せていた。

 残されていたのは、自称平和主義者共のうちの一人が落としたと思われる、裏にハングルが書かれたプラカードだけだった。

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