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第一幕 ハシバミ act.5

 現王ブレンダンが王座を退くことを決め、王位譲渡を発表したのは、いまから1年ほどまえのことだった。

 その時点で王位継承権を持っていたのは5人。

 現王ブレンダンの末弟クリステル、長男ガートルード、次男セルジュ、三男アイル、そして長女スリジエである。

 レイデン王国の王位決定方法は時の王に委ねられている。

 最低限決められているのは、王位継承権を持つ者は王に連なる血を受け継ぐものであること、『力』を持つ者であることだけだ。


 『力』とは、かつてこの世界に魔法が栄えていた頃に多くの者が所有していた異能のことだ。世界から異能が失われゆくなか、レイデン王族は力の強い者同士契りつづけ、その力を後世へと残てきたのである。

 そうして意図的に残されてきた力は、力が失われつつある世界のなかで、異能を使える数少ない血統として、その威光を示し続けてきた。

 そしていつの頃からか、力を使えることこそが王位を継承できる権利とするようになったのだ。

 

 これまで王位継承方法として多くの歴代の王は次代の王を指名することでその位を譲り渡す者が多かったが、投票制や継承者による決闘、なかにはクジで決めた者までいた。

 こうした理由から、今回のレイデン王国の王位継承も、国内外問わず大きな注目を集めていた。

 そんな中、現王ブレンダンがとった方法は、加点式。

 知力、魔力、求心力をそれぞれ量り、その合計値が一番高かった者を時代の王とすると発表したのである。

 知力は現王自らが問う口述試験の値を。

 魔力は遺物である魔力測定装置により導かれた異能の強さの値を。

 そして求心力は、臣下による投票の値を。

 それぞれ加点し、最終的に得点の高いものへ王座を譲るというものであった。

 これにより、王国内には派閥ができ、水面下での動きが大きくなる。

 クリステル、ガートルード、アイル三勢力が熾烈な争いを繰り広げ、王宮内は泥沼化していった。

 そんな中、セルジュとスリジエは派閥争いから外れていた。


 本来ならばセルジュは、知力において候補中の誰よりも秀でているとみられており、物静かで思慮深い性格からも、彼こそと考えているものは多くいた。

 しかし彼は争いごとを嫌い、自ら王位継承権を放棄。

 王位継承式が終わるまで、住居である離宮へ閉じこもることを宣言したのだ。

 これにより、セルジュ派の人間はスリジエ派へ移行。

 通常ならば、これによりスリジエも派閥争いへと巻き込まれることになる。

 しかし、スリジエは派閥争いの蚊帳の外だった。

 なぜならば、彼女には、これと言って秀でた能力が見られなかったからである。

 日々図書館に通いつめ、空想小説や魔法の栄えた時代に思いを馳せる少女へ、いったい誰が王として期待をするのだろうか。

 夢見がちな彼女はいつの頃からか、周囲に『おとぎ姫』とまで呼ばれるようになっていた。

 そんな少女では、どうあっても王へはなりえない。

 それゆえの完全中立とみなされていたのである。

 加えて他の次期王候補たちが互いをけん制し、力をも用い争い合う中、スリジエにはその中へ割って入るだけの力が無かった。

 力は古代から受け継がれる魔具へ注がれることで初めて発揮される。

 魔具も、どれでもいいわけではなく、秘匿とされる術を用いて初めて適性者を見出すものであった。

 そうして選ばれた魔具は、持ち主に古の魔術の一端を発現させる。

 クリステルは風を起こす力を宿した槍を。

 ガードルードは岩をも粉砕する力を宿した大剣を。

 セルジュは射抜いた者をを凍らせる力を宿した弓を。

 アイルは傷つけたものを発火させる力を宿した短剣を。

 それぞれが目に見える力を示す中、スリジエの適合した杖は、これまで一度も、その効果を見せたためしがなかった。

 王の器とは程遠い。

 それが、周囲が彼女へと下した判断だった。


 しかし、真実が見えている部分だけで完結するとは限らない。


 それから1年の後、派閥争いにより王宮内の空気は淀み、誰もが精神を摩耗し、誰もが次期王決定の時を待つ中、それは行われた。

 最初の試験、口述試験である。

 口述試験において、筆頭と言われたセルジュが退いたあと、実力の拮抗した三人を前に、城内の誰もが結果に予測を付けられずにいた。

 彼らの想像は、大方当たっていた。

 三人の候補は、やはり実力が拮抗していたのである。

 その中で起きた、番狂わせ。

 

 スリジエが、全問正解という形で圧倒的勝利を獲得したのである。

 

 王宮内の誰もが信じられない思いで結果を目にするなか、スリジエは「本ばかり読んでおりましたので、たまたま知っていただけですわ」と恥じらう様な笑みを浮かべた。

 その姿に、多くの者は騒ぐ心を落ち着けた。

 そうだ、あれはおとぎ姫なのだと。

 確かにあれだけ図書室へと通っていれば、それなりに知がついていても不思議はないかもしれない。

 しかし所詮、世間知らずの引きこもり。

 王位を継ぐには到底及ばず、また本人もそれを望む素振りもない。

 そうして人々はまた、次の試験へと目を向ける。

 どの王子が次の試験を制するのか。

 もちろんそこに、おとぎ姫の介入する余地はないだろう、と。


 その様子に笑みを浮かべたのは、その姫自身であるとも知らずに。


 次の試験は求心力を示すもの。

 完結に言えば、それぞれの派閥がどれほど大きいかを競うものである。

 ここでスリジエは大敗した。

 セルジュの票が一部流れたとはいえ、所詮は中立。

 中立であったという事は、他の候補の誰が王位を継承しても悪いようにはならないが、今以上の栄華も望めないということに等しい。

 それゆえに、野心に溢れる臣下からの票は集まらず、勢力と呼ぶこともできないような人々の寄り集まりでしかなかったのだ。

 これこそが、本来の王位争い。

 王宮の人々は、次第に一次試験の事をこう呼ぶようになった。

 「あれはまさに、晴天の霹靂だった」と。

  

 最終試験は魔力値の高さを競うもの。

 王候補が一人ずつ式典場内で己に眠る魔力を計測器へと注ぎ込んでゆく。

 それぞれが魔力を注ぎ終ると、計測器が数値を示し、それが得点となる仕組みだ。

 魔力が強ければ強いほど、計測器の中央に据えられた結晶が美しい光を放つ。

 現にクリステルは緑、ガートルードは赤、アイルはオレンジの光を場内へ溢れさせた。

 三人の王候補の計測が終わった時点で席を外すものさえいた。

 スリジエには、自分に宛がわれた道具を使いこなす力さえない。

 それゆえの行動だったのだろう。

 しかし、その行動が歴史の動く瞬間を見逃すことになる。

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