パラパラ、涙
「実は、世界には私しかいないのかもしれない」
蹲って泣いていた少女は、そう言って僕を見た。
きらりと光る雫を浴びた彼女は、きれいで、きれいで。そして、消えそうだった。
そんな彼女の言葉だけが、ポツリと何かに置いて行かれたように、響く。
「何言ってんだアンタ」
僕はそんな乱暴な言葉で彼女を引き留めようとしたけれど、なんだか失敗しそうで、怖い。それでも彼女は僕を見ている。
自分がこんなにも消えそうなこと、知らないのかな。
「そう思ったことは無いか」
「あるわけないだろ」
変な考え方だ。この世界に、僕だけ。冗談じゃないよ。
僕はそう思って、唾を吐きそうになる。消えそうな彼女は、相変わらず僕を見ている。
その両目から、涙がポロリと落ちた。僕が泣かせたんじゃないでしょ。その一粒の後を追うように、涙が飛び降りていく。
地面に落ちる様は、見たくないな。潰れてしまった丸を、見たくないよ。
「そうか。世界には、私しかいないんだよ。あとは全部さ、私なんだよ」
意味が分からない。そう思って、彼女のことを無視しようとしても、無理だった。彼女から目が離せない。別に、特別容姿が良いわけじゃない。
ただ、少しだけ。もう少しだけ、この子を見ていたい。
せめて、この涙が終わるまでだけ。この子が、笑うまでだけ。
消えないでくれよ、僕が離れるまで、消えないでね。
「私の失敗作なんだよ。でも、でもね、他も全部私だけど、なんで私は、私なんだろう。私は、本当に私? みんなみんな、私なの?」
「なぁ、意味分かんないよ」
僕の言葉、聞こえているかな。僕の言葉で、君を救えるかな。涙は、止まらない。
何だか僕まで泣きそうになってきた。本当だ、君はきっと僕だよ。僕はきっと君だよ。だってこんなにも、君に惹かれるんだから。
僕は頬に伝う涙を感じながら、彼女に手を伸ばした。指先を彼女の涙で濡らす。
「どこか欠けた私、」
彼女の瞳は、僕が映っている。
キラキラしたものの中にある僕はまた、彼女のように消えてしまいそうなくらい、きれいだった。
彼女は僕を見上げている。
「綺麗に泣く方法を、教えてくれないか」