え?なんか問題あるの?
「雪杜……お前、人間やめた? それで…何? ゴリラかチンパンジーにでもジョブチェンジしたわけ?」
「そういう初瀬は…なんか、輪をかけてひ弱になったんじゃねぇ?」
………どうやら、僕と雪杜の『能力』は揃いも揃って肉体強化系だったみたいです。
「いやぁ…初瀬殿はすばらしい魔術の才をお持ちですな! 同じように雪杜殿は『すばらしい身体能力をお持ちだ』と騎士連中が騒いでおりましたぞ!」
どうやら僕は魔術に、雪杜は武芸に、といった具合で『能力』が現れたと思われているらしい。
……そして僕は武芸に、雪杜は魔術に、全く適正がないこともわかった。
僕の武芸ってのはまだ何とかなるレベルらしいけど……雪杜の魔術が、ね…
「大体は予想通りだったけど…」
「いやまー、オレもなんかこっちに呼ばれてからやけに体が軽いなーって思ってたんだけどさ…やってみたら凄くてさ!」
うん、知ってる。
隣で見てたから知ってるよ、雪杜…元々運動神経無駄によかったけど、今は凄いことになってるもんね…。
いくら剣道部で副将やってたからって、現役の騎士と手合わせして勝っちゃうとかどうなってんの?
「初瀬だって凄かったじゃん。爺さん目ぇ真ん丸くしてたぜ?」
「やけにしっくり来るなー、とは思ったけど…あれほどだとは思ってなくって」
この世界の人間なら誰でもできる、という程度の下級魔術の一つを爺さんが教えてくれて、やることになったんだけど…
結果だけ言おう。
負傷者がでました。
「『炎』、って言われたから、つい…」
「つい、ってレベルじゃなかったぞ。アレ…」
やったのは地面に置いた薪に火種をつけるという魔法。
どんな属性の人でもできる程度の魔法なんだけど…
「むしろ『炎』じゃなくて爆発に近かったろ、アレは」
「そう、だったな…」
込めた魔力の量が半端じゃなかったらしく……瞬間的な爆発が起こったんだよね…
その結果、近くにいた助手さんが火傷を負いました。
そう深くはなかったし、すぐに爺さんが治癒魔法|(神官とかじゃなくても使えるらしい。でも難易度はかなり高いそうな)で治療してたし。
それに、研究者の性と言いますかなんと言うかで…怪我させられたことよりもその無駄なほど高い魔力のほうに心惹かれたらしい。
……え、もしかして僕、実験台になる可能性出てきた!?
「雪杜の煙が上がる、ってのだけよかましだよ…逆の意味で泣かれてたじゃない」
「それを言ってくれるなぁあああっ!」
途端にひざを抱えてシクシクと泣く真似をする雪杜。
……どうしてくれようか、コレ。死ぬほどうっとうしい…
燃やしていいかな? うん、いいよね。
「『燃えr「ちょ、待て…待てぇええ! 初瀬、早まるな! お願いだから!」チッ…」
魔術の発動の引き金となる『呪文』を唱えようとしたところ、かなり必死そうな雪杜に止められる。
………もうコツは掴んだからあのときみたいな暴発はしないのに。
「爆発はしなくっても火はつくだろ!?」
「――――……お前なら大丈夫だ! きっと!」
「棒読みやめぇえええっ! 信じてもない事イイ笑顔で口にするなぁあああ!」
「うるさいなぁ、何時だと思ってんの? 明日もあるんだからとっとと寝るよ」
「え、ちょ、おま……っ」
……そんなこんなで僕と雪杜の異世界での一日が終わった。
ああ、にしても…僕達の『能力』が両方肉体系だったときの周りの反応がかなりあからさまだったなぁ…
なんてゆーの? 落胆を隠し切れないって言うか…そんな感じ。
それなりに『使える』ことは示せたから早々簡単に使い捨てられはしないだろうけど…
遅かれ早かれ、『使われる』時は来るはず。
その時上手く逃げ切るために、知識は必要だ。そのためにできる限りこの『勇者』という特権を利用させてもらうさ。
…そのくらい、許されてしかるべきでしょう?
理不尽に奪われたんだ。未来を、世界を、友人を、家族を。
――――――覚悟しとけ。
この国のやつらが勘違いしてるらしい僕の『能力』をフルで使って、絶対に復讐してやるから。
そのためには…なんだってしてやるさ。
……それより、雪杜。
もし僕の武術の時のこと口に出そうものなら即刻魔術の練習台にしてくれるから。
問題ないよね?