呼んだだけ、とか通用すると思ってんの?
「ここどこっ!?」
「雪杜、うるさい。耳元で怒鳴るなヘタレ」
「いやいや、初瀬! このじょーきょーで平然としてるって変だろ!?」
夏祭りの最中、突如現れた謎の魔方陣によってワープするという超常現象は普通ないだろう。
ましてやそのワープ先が明らかに日本じゃないとか、勘弁して欲しいと心の底から思う。雪杜だけならまだしも、何で僕まで一緒なんだよ。
「勇者、様…です、ね?」
「「はぁ?」」
聞こえてきた、聞きなれない声に僕と雪杜はそろって振り向く。
っていうか、ちょっと待ってよ。今なんて呼びかけた!?
「この度は我らがラーシア王国魔術師一同の声に応じていただきありがとうございます、勇者様方」
頭を下げたのは紺色のローブを着た小柄な………老人。
聞き間違いじゃ、なさそうだ…
「私めの名はデュラング・ルードワーン。ラーシア王国における魔術師の長をするものにございます」
なんか惜しい気がする…。
ここはやっぱほら、僕も健全な男子高校生ですから?
ここはお爺ちゃんじゃなくて美少女魔導師とかのがやっぱ…ねぇ?
それはともかく、だ。
「なんなの、勇者って。意味わかんないんだけど」
僕の素朴な疑問(笑)に思いっきり頷いて同意する雪杜。
……いや、なんとなーく予想はつくんだけどさぁ…どうせ『魔王を倒せ』だとか何とか…でしょ?
「……実は、現在我がラーシア王国が位置するオルランド大陸は魔王軍によって謂れのない進行を一方的に受けているのです。抗戦を重ねるものの、魔族はやはり強く…もう後がないのです。なので太古の昔よりわが国に伝わる召喚陣にて異世界より勇者様をお呼びし、お助けいただこうと…」
……マジか。
どんだけテンプレ? しかも他力本願とか…その『謂れのない進行』とやらもこっちが原因だったりしちゃうわけか?
ていうか…あれ? 僕ってこんなに頭回ったっけ?
「………ちょっと待てよ。『呼び出した』…ってコトは、帰れるん、だよな…?」
雪杜の問いに爺さん―――えっと、確か…デュラング、だ―――は頷く。
「ええ、もちろんですとも。
ですが、そのための魔道具が魔王軍との戦いの中、消失してしまいまして…おそらく奴らの手に渡ったのではないか、と推測されています」
「ふぅん…つまりその道具を取り戻せば帰れるってわけだな!」
「ええ…ですから魔王を討伐していただけねばなりません。もちろん、今のまま、というわけではございませんのでご安心を」
雪杜とデュラングの間ではぽんぽんと話が進んでいるが…いや、ちょっと待て雪杜。
明らかに変なことがあるだろ!?
結論から言うと、この国の奴らは帰る手段を知らないのだろう。
僕達はせいぜい捨て駒…勝てれば儲け物、負けても当然。プロパガンダになればそれでいい。
その程度の扱いなコトが透けて見える。
このくらい気付こうよ、雪杜…
君、一応剣道少年でしょ!? 相手のこと読まなきゃだめじゃん! あれか、戦いのときにしかそれは発揮されないのか!? だからお前は馬鹿なんだよ…
「では、勇者様方。どうぞこちらへ」
促されるままに歩き始める雪杜と、それに半歩遅れて渋々ながらに歩く僕。
雪杜……相手の口車に乗せられて勝手に話し進めやがって…後でシめてやる…っ!