え?お前をヘタレといわず誰をヘタレと言えと?
鳴り響くチャイムの音。
教科担当の教員が号令をかけ終えた途端に一気に騒がしくなる教室。
―――仕方がないことだろうな、と思った。
なんせ、今日は終業式。地元の神社で夏祭りが開かれることも相まって、地元からの進学者が多いこの学校の生徒はかなり浮き足立っているのは毎年恒例だったから。
僕―――こと、秋里 初瀬―――には基本的には関係がないことなんだけど、とも思いながら、読んでいた本のページをめくる。
「な、な、初瀬! 今日の約束覚えてくれてるよな!」
「約束? 何のことかな」
前の席から振り返って話しかけて来たのは一応僕の親友であり幼馴染の的場 雪杜。
「ちょ、冗談きついぜ、初瀬…! その代わりとしてこの一週間オレをこき使いまくりやがったじゃn 「なぁにか言ったかなぁ? あーあ、僕喉渇いてきちゃったなぁ。瓶コーラ買ってきてよ、今すぐに」瓶のコーラになんてどこで売ってんだよぉおおっ!?」
全くうるさい下ぼk……じゃなくて、パシr……でもなくて、配下Aだ。
「言い直した意味ないよそれ!?」
「あれ、さっき僕口に出してた?」
「出してたよっ! これでもかってほどな!」
「ははは、冗談だよ、冗談。……………五割くらい」
「半分本気ってコト!?」
頭を抱えて叫ぶ雪杜。いつも通りのいい反応だ。
だからコイツで遊ぶの、止められないんだよなぁ…
「それよりいい加減黙れよ。福ちゃん(担任教師。福岡桜先生。26歳、女)が泣きそうな顔してっから」
「え…! うわー! すんません今黙りますから続けてくださいぃいい!」
……いつも通りの、生活。
いつもの、日常。
退屈だけど安全で、綺麗なだけのそれが…ずっと続くと、僕は思っていた。
「……というかさぁ、何で野郎同士で夏祭りとか行かなくちゃなんないわけ?」
「えー、いーじゃん、別にさー」
家に戻ってから私服に着替え、参拝する途中で買った瓶のラムネを飲みつつ、片手に僕の持たせた綿飴とりんご飴をキープしながら片手だけで器用にたこ焼きを口に放り込む雪杜を眺めた。
……ああそうだよ、僕は甘党だよ。なんか文句あるの?
「ふぁって、ふぉれひゃちふぁのふぉふぉかいねーひ」
「飲み込んでから言え。何言ってんだかわかんないから」
「んぐ、ぷはぁ。だから、『だって、オレ達彼女なんていねーし』って言ったんだよ」
「うわぁ、むかつく……!」
ムカつきのあまりついりんご飴を雪杜の口の中に突っ込んでしまった。
非甘党…というよりか何党でもない雪杜にこの甘さはきついとわかった上での処遇である。
若干、涙目になっている雪杜を鼻で笑う。
「……酷いです、初瀬さん」
「ざまぁみろ」
「鬼、鬼畜、ドS、悪魔……!」
「あはははは、ほめ言葉?」
「くっそぉ……!」
僕が雪杜のたこ焼きをぱくりと口に放り込んだ、その時だった。
「Un――――――――oso!
Per――――v――――a―――pe―――――――v―――!」
「ん…? なんだ、この声」
「…雪杜も聞こえたの?」
「Un uo―――cora―――o――!
Per fav――― ap――ri dipe――――e d― una v――e!」
聞いた覚えのない言語。しかもはっきり聞き取れない。
なのになぜか、僕はそれに『呼ばれている』と感じた。
「Un uomo coraggioso!
Appari dipendere da una voce!」
やっとはっきりと聞き取れたその言語は、やっぱり聞き覚えなんてなくて。
でも、三回目のそれは、明らかに違うものをもたらした。
「どうなってんだよ、これ…!」
雪杜の焦った声は僕の心の声でもある。
美しいが、明らかに奇妙しい、熱のない赤い光が足元で何かの模様を作っている。
そう、まるでどこかのゲームか小説の中で出てくるような、魔方陣のような丸と直線と紋章を組み合わせたような…
「Un uomo coraggioso!!
Appari dipendere da una voce!!」
四度目の、前よりも声量が大きくはっきりと聞こえた時、陣は完成した。
陣を形作っていた赤い光が一瞬強く輝き、そして…―――――
僕等は放り出された。
………その表現が、感覚だけでなく実際のものになってしまうのだとは、思いもしてなかったけど。
それと、雪杜。あんまり耳元で叫ぶな、うるさい。
このヘタレ。叫ぶ暇があったら状況の整理でもしたらどうなの?
呪文はイタリア語を使わせてもらいました。
意味は「勇者よ!この声に応え現れたまえ!」です。
作者の見切り発車作品なのでどんな風になるかはわかりません。