庭にある”モノ”
祖父母宅へ帰郷すると、いつもの恒例行事がある。
それをいつから始めたかはわからないが、とある”モノ”に無事帰ってきた報告をする。
山の麓にある母方の実家は、大きな構えのように見えるが、その半分を中庭に使っている。これは庭を愛するが故の選択ではなく、そうした人物が過去いたわけでもない。そうせざるをえなかった。そして、夜にしかそれを見てはいけないとして、固く扉で閉ざされていた。わたしは、一時の興味でそれをスマホで撮影しようとした。するとどこから湧いたのか祖父がすぐそばにいて
「やめなさい」
静かに、しかしなんとも言えぬ怒りや恐怖の混じった声色で諫めようしてくれた。
それが、私が見た祖父の唯一の説教である。それほどのものなのかと、がぜん興味がわいてしまった。そして、今回の帰郷でも同じように、しかし前回よりも利口に探ろうと思っている。
ここからは、長文になってしまうが、その”モノ”について見たままに書き留めたい。スマホのメモを開き、以前書き留めた文章を読むことにする。
7月28日
家の形がおかしい。グーグルアースで見ると庭がとても広い。全体の半分。
中学生になったからとモノを見せられた。廊下を歩き、中庭へ降りる3段の階段を越え、中庭にある大きな石のところへ。中央に居座る大きな石。縄がまかれているが、だいぶ古いもの。
祖母曰く「もう作れる人がいない。」らしい。石の側に小さな神棚のようなもの。赤がくすんで紫色になっている。この色を喜ばれるらしい。手入れされている庭だが、石の周りだけは素人が手を入れたような仕事で、職人には手入れさせず祖父母がやっているのだろう。一部分だけ、全く草やコケが生えていない部分あり。よからぬ者が踏み入れた証拠と、家に伝わっている。気が付かなかったが、石の中に入ることができる。中は真っ暗で、手持ちの明かりでも暗い。スマホの明かりで照らそうとしたら睨まれた。
おじいおばあが「触りなさい。」と言ってくる。
ゆっくり手を伸ばしていると、おばあに掴まれぐっと引き寄せられた。
「ほら、ここよ。」
人の形のような像、石かそれとも木かわからない。暗いままで見えなかったが、それしか方法はない。
顔のようなところには、二つの穴と突起。首に大きな傷が入っていて、それが一周している。
「触られんよ。」
見えていないはずなのに、なぜわかった。もう暗闇になれたのか。あれ、もうどれくらい時間が経ったのか、わからない。急に怖くなってきた。
「ゆうこ、頭を撫でながらただいま帰りました、と念じなさい。」
父の声。本当にそうか。嘘か本当かわからない。早くこの場から離れたい。私は念じた。早くこの場から離れたい一心で。
すると像が光り出す。手が熱い。なぜか手が離れない。
「光ってるよ。」
だれも答えない。もしかして私一人だけ?みんな最初からいなかったの?
「暑い、暑い、暑い、暑い、、、、、、」
声が聞こえたような気がした。男性とも女性とも似つかない声。
これは、像ではない。これは
ここでメモが終わっていた。
「え、もっと書いたはず。間違って消した?不具合か?」
一端アプリを落とし、もう一度開きなおしたがダメだった。
私は、ひどく焦ってしまった。それもそのはず、その後にこの世の真実を知ったきになって、興奮しながらメモをしたから。ああ、思い出せない。悔しい。
「ゆうこ。」
母が呼びに訪れる。
「まぁ、この庭もいつも手入れができていて、、、ゆうこ入るわよ。」
もうすぐご飯になる頃かと思いつつ、前と同じように挨拶をしに行くのだろうと直感した。この際、もっと情報を収集してやると、やる気になった。
「ご挨拶。」
ほら、やっぱりそうだ。私の直感は良く当たる。少し笑みを浮かべつつ、主人公登場ばりにゆっくりと立ち上がる。母の後について行って庭に行くのかと思ったが、祖父母がいない。庭でなく、奥の部屋に手招きしている。
そういえば、石が以前より小さくなっているかもしれない。あれ、神棚がない。疲れすぎて気が付かなかったのか。
「ゆうちゃん、こっちよ。」
部屋へ行くと古びた神棚があったが、色が黒っぽい茶色になっている。木造りの像もあったが、意図的に汚したような雰囲気である。
「おばあちゃん、ここで良いの?」
想像通り、何を言っているのという顔をしている。これは隠している。しかし、ここでとやかく言うと混乱すると思い、落ち着くためにも従った。
「手を置くのね。」
「ゆうちゃん、偉いわね。」
「(ただいま帰りました)」
いくら待っても手が熱くなることも、光に包まれることもない。時間の流れも正確で、1,2分で終わった。
「はい、ありがとうね」
母は祖母と夕飯の話をして台所に消えていく。大きな謎が残ったまま部屋に戻る。
あの後、勘ぐられないように移動させたのか。私が興奮したことを観察していたのか。それならまだわかるが、石が小さくなったのは何のためだ。
「ゆうこ。」
振り向く。
「お前は俺に似たな。」
父はそう言ってどこかへ去っていく。謎に対して熱心に見えるぐらい探る姿が、そんなにも自分に似ていたか。不服である。しかし、この謎を相談できる人は父しかいない。父だったら何かを知っているかもしれない。夕飯の時にでも聞いてみようか、それとも黙ったまま自分だけで探求しようか。とりあえずは、このままで幾日か過ごしていよう。今、この家に波風を立てる必要はないのだから。




