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作者: 沙華やや子

 今日もゾウさんに逢いに行くわよ♪


 坂名(さかな)は今日もじ――――っと、動物園の柵の前に居た。


「象さん、大好き!」


 子どもの頃、家族で動物園へ行ったって、特に心ひかれなかった象さん。

 40才の今、なにゆえこうも象の虜なのかよくわからぬ。


 坂名は休園日以外、毎日のように足繁く通うものだから、飼育員の人々はこっそり彼女を『象子さん』と呼んで噂をしていた。


「ありゃあなんだろうねー」


「そんなに被写体として象が素敵かね~」

 坂名の趣味はカメラだ。


「園でさ、“象の恋人”とでも名付けたクッキーを売り出す?」なんて笑っていた。


 坂名には大学生の息子が居るが、とてもそんな年齢には見えなくフレッシュだ。象が欲しがるリンゴのように。

(ええ、ええ、無論努力していますとも、あたしはね、ストレッチにお顔のマッサージ、耳つぼマッサージにウォーキングも欠かさない!)

 だから坂名がかなりおっきな象のマスコットをリュックに付けていようとも違和感を感じさせない。


(あぁ~、うっとり)


「象さんはね、おしりから太もも、そして膝……アンヨにかけてが魅力の極みなのよ! 仕上げは大地をしっかと踏みしめるあのヒズメでしょう。象さんは体が大きいからね……! だのに印象としては、アンヨが下に向って細くなる感じ。うぅー! かわゆい!」


 ソファーでくつろいでいるダーリンの(なお)は聞いていると妬けてくるぐらいだ!


 今日は雨。

 これまでくせ毛がモジャモジャになるからと外出を避けてきた坂名だったが、「よし! 雨の日の象さんが知りたいわ!」と張り切って出かけた。


(象さん、象舎から出て来ないかしら……)

 ちょっぴり不安な坂名。


 本降りの中傘をさし、雨合羽を着、お気に入りの長靴、という完全防備で防水カメラを手にしている。


「あ!」


 象は雨などもろともせず、普通にノッソノッソとお散歩中。


「かっわいいな~っ」


(象さんはね、お鼻もチャーミング、手みたいに使ってさ、お野菜や果実を掴むでしょう。マジシャンみたい。そしてトレードマークのおっきなお耳。あの耳はそう、パタパタと体温調節もできるし、低~い声を拾い合い、仲間とコミュニケーションを取る手段でもあると聞いたことがあるわ。不思議! 素敵!)


 象っ子の坂名……マニアの間ではきょうび『象推し』なんていう言葉もあるかもしれない。


 坂名が夢中で象写真を撮っていると、アジアゾウの『ポルカくん』が坂名のそばまでやってきた。

 坂名は大喜びだ! 写真など撮っている場合ではない。


「ポルカちゃん! こんにちは。来てくれたの~」


 もちろん、ゾウの低――――いおしゃべりは人間の坂名には聞こえない。

 しかしポルカが長―いお鼻をくねらせながら鼻先をなんと! 坂名のすぐそばまで近づけてきた。

 挨拶なんだな、と感じ坂名は「ありがとねー」と満面の笑み。

 少しすると歩き始めたポルカをカメラに収めた。


 同棲中のマイダーリン・直は普段会社へ行くが、休日は半ば強引に「動物園へ連れて行って!」と、坂名にせがまれる。

 直は言うことをきかない駄々っ子の坂名に手を焼きながらも愛している。

 と言ってもナオは坂名より3つ年下、姉さん女房だ。


(ポルカくん、なんて話してくれていたのかな……知りたいな~)


 その夜、坂名はいつものように直に抱きしめられつつ眠りに就き……夢を見た。


 大きな大きなトラックの荷台、檻に入ったゾウが乗っている。

 荷台の中は薄暗い。

 そして数時間経った頃、どこかへ到着し、扉が開け放たれた。

 そこはまばゆい光に溢れ、ミスジ蝶が舞い、咲き始めたばかりの紫陽花の花が色とりどりに並び、清々しい空気が流れている。


(気持ちイイな~)


 と、そこで坂名は目覚めた。


 ……なにかおかしい。


(直? 直はもう出勤してしまったの? こんな早くに?)

 でも時計はない。が、早朝だとなぜか坂名にはわかる。


 坂名は寝ぼけ眼の目をこすった。

 手ではなく鼻先で水を掬い、かけた。


 そう……坂名は象だったのだ。


 開園時刻になると、人気の象舎は子ども達に溢れた。


「さかなチャン! こっちむいて! かわいいっ」

 幼い子どもたちの優しい声。


 雌のアジアゾウ・坂名は、長い夢を見ていたんだね。自分が人間になるという……。





 え――――?

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