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アポカリプス・ロジック ――物理の少女と、朱色の獣――  作者: 仁平 浩次
第2章:大阪万博編 前編(レジスタンス)
7/9

「要塞の門番は“筋肉哲学者”――歓迎は健康診断」

作者です。

前回は逃走回でしたが、今回はついにレジスタンス基地へ到着します。

なお、ここから 筋肉マッスル系キャラの圧が強くなります。

(作者にも止められません)

レジスタンスのアジトは、旧時代の製鉄所を改装した要塞だった。

錆びついた鉄骨。蒸気の立ち込める空間。

天井の高い吹き抜けに、機械の死骸のようなクレーンが吊られている。


バンを降りた瞬間、理花は悟った。


(ここは“隠れ家”じゃない。戦うための巣だ)


入口には、即席のバリケード。

監視カメラ。

銃痕の残る鉄扉。


そして──


バンを降りた理花たちの前に、巨大な影が立ちはだかった。


見上げると首が痛くなるほどの巨漢。

身長は二メートルを優に超えている。

丸太のような腕、鋼鉄の板のような胸板。

人間というより、服を着た二足歩行の重戦車だった。


小水晶こみず・あきら。二八歳。


理花は反射的に身構えた。


「……何?」


「私を叩き潰して歓迎会でもするつもり?」


アサカワ製薬で兵器を作っていた自分を、レジスタンスが快く思うはずがない。


だが巨漢は、理花を見下ろし──

眼鏡の奥の知的な瞳を細めた。


そして、しげしげと理花の身体を観察する。


やがて、悲しげにため息をついた。


「……嘆かわしい」


「は?」


質量マスが足りない。圧倒的に不足している」


小水晶は理花の細い二の腕を、壊れ物を扱うように指先でつまんだ。


「君、ちゃんとタンパク質を摂取しているのかね?」


「骨格に対する筋繊維の密度が三〇%も下回っている」


「これでは『物理フィジカル』を行使する前に、反動で君自身が壊れてしまうよ」


「……何の話?」


理花は呆気にとられた。

罵倒されるかと思ったら、健康診断が始まった。


小水晶は、暑苦しいほど真剣な目で続けた。


「自己紹介が遅れたね。私は小水晶」


「このチームの前衛と、機材の運搬、そしてボディ・メンテナンスを担当している」


「ボディ・メンテナンス……?」


筋肉マッスルだ」


小水晶は真顔で断言した。


理花は一瞬、話の意味が分からなくなった。


(この人、真顔で何を言ってるの)


だが小水晶の目は、本気だった。

銃弾の代わりにプロテインを撃ってくるタイプの本気である。


「君がアサカワ製薬で何をしていたかは聞いている」


「だが、過去の罪と筋肉の衰えは別問題だ」


「むしろ、過酷な環境で生き抜いてきた君の精神力メンタルは素晴らしい」


「……あとは、それを支える『器』が必要だ」


「器?」


筋肉マッスルだ」


二回目である。


「物理法則を支配するのは計算式かもしれない」


「だが、それを実行するのは筋肉だ」


「F=ma。質量(m)が増えれば、破壊力(F)も増す」


「君には才能がある」


小水晶は、眼鏡を指で押し上げた。


「私が専属トレーナーになって、君を鋼鉄の乙女に改造してあげよう」


理花は助けを求めるようにカナを見た。


だがカナは腹を抱えて笑っていた。


「諦めな、理花」


「アキラは一度言い出したら聞かないぞ」


「こいつの持論は『筋肉は裏切らない、裏切るのはいつも関節だ』だからな」


「……最悪」


理花は大きくため息をついた。


「遠慮しとくわ。私は頭脳労働担当なの」


「頭脳を動かすにもブドウ糖と、強靭な首の筋肉が必要だ」


小水晶は理花の肩をポン、と叩いた。

軽いはずなのに、重い。


「後でプロテイン・スペシャルを振舞おう」


「イチゴ味だ」


理花の中で、何かが折れかけた。


(味の情報を嬉しそうに言うな)


だが、その「変な奴ら」の輪の中にいることが、なぜか不快ではなかった。


少なくとも。


損得勘定だけで動く浅川よりは、

プロテインの味の方が信頼できそうだ──と、思ってしまう自分がいる。


「おい、いつまで駄弁ってるんだ」


砂が奥の扉を開けた。


「ボスがお待ちかねだ。……他のメンバーも揃ってる」


「ボス……相原さん?」


理花が呟くと、砂は小さく頷いた。


理花はパーカーのフードを直し、歩き出した。


ここから先は、もう戻れない。

研究室の中で演算だけしていた少女ではいられない。


──父が遺した縁が、八年の時を経て動き出す。


小水晶、カナ、砂。


そして、これから会う仲間たち。


分厚い防音扉の前に立ったとき、理花は自分の心臓がやけに速いことに気づいた。


この扉の向こうにいるのは、父の同志。

そして、詩島への復讐へ向けた作戦の中枢だ。


砂がカードキーを差し込む。


短い電子音。


ガチャン、とロックが外れる。


「行くぞ」


理花は頷いた。


重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。

次回、第2章・第3話。

いよいよ作戦指令室で 主要メンバー勢揃いです。


火傷の指揮官:相原


野良犬特攻隊長:氷璃


聖母枠:雪菜


情報屋:根来


そして理花の胃に忍び寄る、プロテイン。


ここまで読んでくださりありがとうございました!

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