「要塞の門番は“筋肉哲学者”――歓迎は健康診断」
作者です。
前回は逃走回でしたが、今回はついにレジスタンス基地へ到着します。
なお、ここから 筋肉系キャラの圧が強くなります。
(作者にも止められません)
レジスタンスのアジトは、旧時代の製鉄所を改装した要塞だった。
錆びついた鉄骨。蒸気の立ち込める空間。
天井の高い吹き抜けに、機械の死骸のようなクレーンが吊られている。
バンを降りた瞬間、理花は悟った。
(ここは“隠れ家”じゃない。戦うための巣だ)
入口には、即席のバリケード。
監視カメラ。
銃痕の残る鉄扉。
そして──
バンを降りた理花たちの前に、巨大な影が立ちはだかった。
見上げると首が痛くなるほどの巨漢。
身長は二メートルを優に超えている。
丸太のような腕、鋼鉄の板のような胸板。
人間というより、服を着た二足歩行の重戦車だった。
小水晶。二八歳。
理花は反射的に身構えた。
「……何?」
「私を叩き潰して歓迎会でもするつもり?」
アサカワ製薬で兵器を作っていた自分を、レジスタンスが快く思うはずがない。
だが巨漢は、理花を見下ろし──
眼鏡の奥の知的な瞳を細めた。
そして、しげしげと理花の身体を観察する。
やがて、悲しげにため息をついた。
「……嘆かわしい」
「は?」
「質量が足りない。圧倒的に不足している」
小水晶は理花の細い二の腕を、壊れ物を扱うように指先でつまんだ。
「君、ちゃんとタンパク質を摂取しているのかね?」
「骨格に対する筋繊維の密度が三〇%も下回っている」
「これでは『物理』を行使する前に、反動で君自身が壊れてしまうよ」
「……何の話?」
理花は呆気にとられた。
罵倒されるかと思ったら、健康診断が始まった。
小水晶は、暑苦しいほど真剣な目で続けた。
「自己紹介が遅れたね。私は小水晶」
「このチームの前衛と、機材の運搬、そしてボディ・メンテナンスを担当している」
「ボディ・メンテナンス……?」
「筋肉だ」
小水晶は真顔で断言した。
理花は一瞬、話の意味が分からなくなった。
(この人、真顔で何を言ってるの)
だが小水晶の目は、本気だった。
銃弾の代わりにプロテインを撃ってくるタイプの本気である。
「君がアサカワ製薬で何をしていたかは聞いている」
「だが、過去の罪と筋肉の衰えは別問題だ」
「むしろ、過酷な環境で生き抜いてきた君の精神力は素晴らしい」
「……あとは、それを支える『器』が必要だ」
「器?」
「筋肉だ」
二回目である。
「物理法則を支配するのは計算式かもしれない」
「だが、それを実行するのは筋肉だ」
「F=ma。質量(m)が増えれば、破壊力(F)も増す」
「君には才能がある」
小水晶は、眼鏡を指で押し上げた。
「私が専属トレーナーになって、君を鋼鉄の乙女に改造してあげよう」
理花は助けを求めるようにカナを見た。
だがカナは腹を抱えて笑っていた。
「諦めな、理花」
「アキラは一度言い出したら聞かないぞ」
「こいつの持論は『筋肉は裏切らない、裏切るのはいつも関節だ』だからな」
「……最悪」
理花は大きくため息をついた。
「遠慮しとくわ。私は頭脳労働担当なの」
「頭脳を動かすにもブドウ糖と、強靭な首の筋肉が必要だ」
小水晶は理花の肩をポン、と叩いた。
軽いはずなのに、重い。
「後でプロテイン・スペシャルを振舞おう」
「イチゴ味だ」
理花の中で、何かが折れかけた。
(味の情報を嬉しそうに言うな)
だが、その「変な奴ら」の輪の中にいることが、なぜか不快ではなかった。
少なくとも。
損得勘定だけで動く浅川よりは、
プロテインの味の方が信頼できそうだ──と、思ってしまう自分がいる。
「おい、いつまで駄弁ってるんだ」
砂が奥の扉を開けた。
「ボスがお待ちかねだ。……他のメンバーも揃ってる」
「ボス……相原さん?」
理花が呟くと、砂は小さく頷いた。
理花はパーカーのフードを直し、歩き出した。
ここから先は、もう戻れない。
研究室の中で演算だけしていた少女ではいられない。
──父が遺した縁が、八年の時を経て動き出す。
小水晶、カナ、砂。
そして、これから会う仲間たち。
分厚い防音扉の前に立ったとき、理花は自分の心臓がやけに速いことに気づいた。
この扉の向こうにいるのは、父の同志。
そして、詩島への復讐へ向けた作戦の中枢だ。
砂がカードキーを差し込む。
短い電子音。
ガチャン、とロックが外れる。
「行くぞ」
理花は頷いた。
重厚な扉が、ゆっくりと開いていく。
次回、第2章・第3話。
いよいよ作戦指令室で 主要メンバー勢揃いです。
火傷の指揮官:相原
野良犬特攻隊長:氷璃
聖母枠:雪菜
情報屋:根来
そして理花の胃に忍び寄る、プロテイン。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




