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アポカリプス・ロジック ――物理の少女と、朱色の獣――  作者: 仁平 浩次
第2章:大阪万博編 前編(レジスタンス)
6/9

「救出は“予定”だった――記事で社会を燃やすレジスタンス」

作者です。

前回、研究所が「ちょっと」爆発しましたが、今回は逃走回です。

※車酔い注意(主に理花が)

※「理花は肋骨を痛めているんとちゃうんかい」というツッコミは、、はい、わかっていますがなかったことにしてください。

逃走用のバンは、安っぽいグリースと、古びた血の臭いがした。

サスペンションがイカれているのか、路面の凹凸を拾うたびに、理花の内臓は揺さぶられる。


「……ねえ。もう少しマシな運転はできないの?」


理花は後部座席で呻いた。


「これじゃ、追っ手に殺される前に車酔いで死ぬわ」


「文句を言うな、お姫様。タダで乗せてやってるんだ」


運転席でハンドルを握っている男が、バックミラー越しに冷ややかな視線を寄こした。

九条砂スナ。一九歳。線の細い優男だが、その眼光はカミソリのように鋭い。

カナの兄であり、このチームの頭脳(参謀)だ。


理花は、この男が運転席にいる限り、逃走は成功すると直感していた。


助手席のカナが、窓枠に足を投げ出しながら笑った。


「悪く思うなよ、理花。兄貴は計算高いが、運転技術の計算は苦手なんだ」


「うるさいぞ、筋肉女。誰のせいで予定時刻を三分もオーバーしたと思ってる」


砂はハンドルを切りながら毒づいた。


「『派手にやれ』とは言ったが、研究所ごと更地にしてこいとは言っていない」


「誤差の範囲だろ? おかげで追っ手も灰になった」


理花は二人のやり取りを聞きながら、ふと気になっていたことを口にした。


「そういえば、不思議だったのよ。どうしてあのタイミングで壁を破れたの?」


「まるで私が失敗することを知ってたみたいに」


あの絶体絶命の瞬間、カナが現れたのは、偶然にしては出来すぎていた。


砂は鼻を鳴らし、ダッシュボードに置かれた端末を後部座席へ放り投げた。


「俺の勘じゃない。根来ネゴロって胡散臭いジャーナリストの描いた『筋書き(シナリオ)』どおりさ。……そいつを見てみな」


理花は端末を拾い上げた。


画面に表示されていたのは、ニュースサイトの配信予約画面ドラフトだった。


『アサカワ製薬・生物兵器デモで重大事故発生か?』

『コメリカ軍の暗部と、消えた“A級戦犯の娘、豊色理花”の影』


「……何よこれ」


理花は眉をひそめる。


「爆発はついさっきよ? まるで予言じゃない」


「予言じゃなくて『予定』だ」


砂は冷淡に言った。


「根来は鼻が利く野郎でね。今日の大規模デモと、その中枢にお前がいることを嗅ぎつけてきた」


「そして、お前を確保すると同時にこの記事を一斉配信する手筈になってる」


「おいおい、兄貴。かっこよく纏めてるが、正確には違うぞ」


横からカナが、ガムを噛みながら口を挟んだ。


「突入のタイミングは予定どおりだが、あんたがグリズリーに食われかけてたのと、俺たちが研究所ごと吹っ飛ぶ羽目になったのは、全くの偶然アクシデントだ」


カナは愉快そうに笑った。


「あと数秒遅れてたら、今頃あんたはクマの餌で、俺は黒焦げの死体だった。……運が良かったな、天才ブレイン


理花は背筋が寒くなるのを感じながら、苛立ちを隠さなかった。


「……つまり、壮大なマッチポンプってわけ?」


情報戦インフォ・ウォーだ」


砂が言葉を継ぐ。


「お前たちが物理的に研究所を破壊した瞬間、根来が社会的にアサカワを抹殺する」


「軍が情報を隠蔽する前に、世論に火をつけるのさ」


砂は、少しだけ顔をしかめた。


「……ま、火力が強すぎて建物まで消滅したのは計算外だったがな」


理花は舌打ちして、端末を放り出した。


「なるほどね」


「私の名前まで晒して、退路を断ったわけか」


「悪く思うな」


砂は淡々と言う。


「世界中がお前の顔を知れば、もうコメリカもアサカワも、お前を『秘密裏に処理』できなくなる」


「……ある意味、最強の防具だぜ」


「安くない防具ね」


理花は皮肉っぽく息を吐く。


「おかげで私は、世界一有名な家出少女ってわけ」


砂が初めて、ニヤリと口元を緩めた。


「ようこそ、『物理側フィジカル・サイド』へ」


バンは検問を避け、廃墟と化したスラム街を抜けていく。

窓の外に広がる景色は、都市というより死体だった。


崩れた建物。

焦げた看板。

路地裏の暗がりにうごめく影。


そして──遠くに、地下へ潜る入口が見えた。


そのときだった。


「……詩島博士の件だが」


砂は、一瞬だけ言葉を切った。


理花は、無意識に背筋を正していた。

理由は分からない。


ただ、身体が先に理解してしまった。


理花はその名を、心の中で反芻する。

母を殺し、父を裏切った男。


それ以上のことは、何一つ知らない。


車内に、それ以上の説明はなかった。

それで十分だった。

次回、レジスタンス基地へ。

筋肉担当(小水晶)が理花を発見し、文明が崩壊します。

※プロテインは悪くない。悪いのは量。


ここまで読んでくださりありがとうございました!

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